第322話 そうじゃなくて……

「む? 次のは中央に穴が開いて無いのか?」


 お気づきになりましたか。

 続いての登場はエンゼルなクリーム。

 あのフワフワで柔らかい生地の中に、これまたフワフワで軽いホイップクリームがたっぷりと。

 これはね、みんな好きなの。僕知ってる。

 あと、ガブロさんの主張は恐らくこうだ。

 真ん中に穴が開いて無いから0カロリーじゃなくないか? そういう事でしょう?

 ご安心ください、こちらのエンゼルなクリーム――高温の油で揚げており、カロリーは油に溶けだしているので0カロリーです!

 ……バカな事言ってないで説明しよう。


「さっきまでのはリングドーナツと言って、その名の通り輪の形をしたもので」

「つまりこちらの形の方がドーナツという言葉だけで見れば正しい、と?」

「いえ、こっちの形はジェリードーナツと呼ばれています。ちなみに、他にもツイストドーナツもありますよ?」

「つまりドーナツとは、こういった揚げ菓子の総称……という事だろうか?」

「ですかねぇ」


 揚げ菓子イコールドーナツかと言われたら多分違うけど、その辺細かく説明する自信はない。

 まぁ、都度揚げ菓子作った時に説明すればいいだけだし。

 ちなみにジェリードーナツとか言う聞きなれないドーナツは、穴が無く、中にジャムやクリームを詰めたドーナツのこと。

 ちなみにあんドーナツとは違い、揚げてから中に抽入する物の事を言うらしい。

 あんドーナツは揚げる前から詰めてるらしいよ?


「持つと軽さが分かりますわね」

「先ほどのゴールデンなチョコレートと比べると特に顕著だ」


 と、リリウムさんとラベンドラさんが持った感想を言ってる横で。


「我慢出来ん!!」


 かぶりつくマジャリスさん。

 あと、翻訳魔法さん? 正しく翻訳してください?

 我慢出来ないんじゃなく、どうせ我慢する気が無いんですよこのエルフ。


「うま! うまい!! 美味いぞ!!」


 はい、これ、美味いの三段活用ね。

 現代エルフ語翻訳試験に出ますんで覚えておかなくて結構です。

 いやぁ、欲しかった反応をありがとう。

 やっぱり期待を裏切らないね、マジャリスさんは。


「むぉ!?」

「あら!」

「うむ!!」


 で、マジャリスさんから一拍遅れて三人もパクリ。

 ……これツッコむべきかなぁ。


「柔らかく、フワフワな生地!」

「そこから出てくる同じく柔らかなクリームがとても美味しいですわ!!」

「相変わらず甘さは控えめ、一度に多くを口に入れても胸焼けとは無縁じゃわい」


 ツッコむか。教えてあげた方がいいよね。


「リリウムさん、お尻からクリームが出てますよ?」

「ふぇっ!? そんなことは!?」


 俺に言われ、即座に振り返ってお尻を見るリリウムさん。

 あの、違くて。そっちじゃなくて。


「ドーナツの裏側から、クリームが……」


 俺がお尻とか言うからまずかったな。

 翻訳魔法さんは恐らく直訳したんだろうし。

 こう、日本語の微妙なニュアンスを伝えられるようなものじゃなかった。


「ふぇ? あ、あぁ、こういう事ですのね////」


 自分の勘違いを理解したか、やや頬を染めながらドーナツを回転させ。

 クリームを入れる時に出来たであろう穴から、はみ出たクリームをペロリと舐める。

 というか、冷静に考えてさ。お尻からクリームが出るってどんな体質だよ。

 気付け、見る前に。

 ……あ、いや――もしかして異世界にそういう魔物が居たりするわけ?

 なんかこう、口に入れたらお尻から出てくるみたいなの。

 ――やめとこ。絵面想像したくない。


「紅茶が美味い」

「コーヒーも合うぞい」


 マジャリスさん、もう食べ終えてやんの。

 ガブロさん見てよ、まだ半分残ってるのに。

 ……あ、やっぱ見なくていい。めっちゃ狩人の目で見てる。

 もう自分の分は食べたでしょ! そんな目で見ないの!!


「そう言えば、ウィンナーコーヒーなんてのもありますね」


 コーヒーとエンゼルクリームが合うってガブロさん言ってたけど、当たり前だよな。

 そもそも飲み物としてその組み合わせがあるわけだし。


「ウィンナー? ……それは美味しいのか?」


 凄い疑心暗鬼の目で見てくるじゃん。

 まぁ、その理由もわかるけどさ。


「ウィンナーと言っても、こちらの世界で言う『特定地域風』という意味で、特定地域の飲み方を真似たコーヒーみたいな意味合いですよ?」


 断じて腸詰肉が入ったコーヒーじゃあないぞ?

 まぁ、その間違いはベタだけどさ。


「そうなのか……」

「ちなみにどういったコーヒーになりますの?」

「俺たちの国ですと、基本的にコーヒーの上にホイップクリームを乗せた飲み物ですね」

「飲みたい!!」


 えー、ただいまの甘味認定及び飲みたいという意思表示にかかった時間――0.11秒になります。

 神速のインパルスかな?


「自宅で出来そうなら作り方を調べておきますよ」

「頼む!!」


 こう、真っ直ぐにお願いされると断れないよね。

 まぁ、断る気無いけど。

 こういう所は得な性格してるなぁ……欲望(甘味)に忠実ってだけかもしれんが。


「すまない、コーヒーのお代わりを貰えるか?」

「わしもじゃ」

「あ、はい。ついでに紅茶もお代わりいかがです?」

「いただきますわ」

「スッ(無言でカップを差し出す)」


 で、最後のカスタードなクリームに向かう前に、一旦お代わりタイム。

 ……マジャリスさんはお代わり位口で言いなさいよ。

 例え、指に付いた粉砂糖を舐めるのに必死になっていたとしてもさ。

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