第321話 黄色いカリカリ出来ればいっぱい、置いてけ―
さてさて、続いてはゴールデンなチョコレートな訳ですけども。
まずは、絶対に聞かれるであろうことを事前に調べておく。
あの外についてる黄色いカリカリ、これいず何?
――ほーん、砂糖、小麦粉、卵黄で出来てるのか。
頑張れば再現出来そうだな、俺はしないけど。
「先の二つは非常に美味かった」
「あの大きさでここまでの満足感が出せるのが非常に素晴らしいですわね」
「甘かったが、うんざりするような甘さじゃない。食感も軽く、とても食べやすかった」
なんて、フレンチなクルーラーとポンデなリングの感想を言い合ってるのにですよ?
「それでカケル、次のは!?」
マジャリスさんはさぁ……。
そんなに次のドーナツが食べたいのか! このいやしんぼめ!
「続いてはゴールデンなチョコレートです」
まぁ出すんですけど、その為に買ってきたわけだし。
「? カケルのは?」
「俺は食べきれないと思ったんで買ってないです」
「そうか」
ちなみに俺が自分用に買ったのはフレンチなクルーラーとポンデなリング、あとカスタードなクリーム。
正直、俺はこれらさえあれば満足なのだ。
「この黄色い粒々は?」
来たわね。そう来ると思って、事前に調べてありますわよ。
これが傾向と対策ってわけ。
「砂糖、小麦粉、卵黄が主原料みたいです」
「……なるほど」
多分だけど、これで食べておいしかったら、向こうの世界でも再現しようと頑張るんだろうなぁ。
……ラベンドラさんにその気が無くとも、マジャリスさんが再現しろとうるさく言いそう。
「では早速」
「いただきますわね」
という事でゴールデンなチョコレート……実食!
「む、生地はしっとり……」
「チョコレートの香りが心地いいですわね」
「外の粒々……カリカリとした食感で良いアクセントになっているな」
「これ好きだぞ!!」
よし、これも好評っと。
まぁね、正直あのお店で売られてるドーナツに不味い奴なんて存在してないんですけど?
それはそれとして、こうして美味しそうに食べた貰えると俺まで嬉しくなるよ。
「生地にチョコを練り込んでいるのか?」
「ですわね。でも、練り込まれたチョコはそこまで甘いという事も無くて……」
「外のカリカリと合わせて、初めて丁度良い甘さになるような感じじゃな」
「ラベンドラ! このカリカリ、再現!!」
あぁ、やっぱり。
マジャリスさんならそう言うと思ってました。
これも傾向と対策……違うか。
「再現はするさ。焼き菓子などにかけても美味いだろうし、チョコと合わせても絶対に美味い」
「再現出来たらレシピの公開ですわね。卵黄の入手さえどうにかなれば、皆がこぞって作り出すでしょうし」
「そう言えば思ったんですけれど、こう、ここで手に入れて向こうで再現したレシピ、結構公表しているみたいですけど……大丈夫なんです?」
「それはどっちの意味じゃい?」
どっちの?
俺としては、唯一性というか、向こうの世界ではラベンドラさんがオリジナルなレシピな訳でしょ?
向こうの世界の制度とか色々と分からないけど、公表じゃなく口伝とかの方がいいんじゃないかと。
そっちの方が稼げそうじゃない?
「えぇっと、ラベンドラさんのオリジナルというか、唯一無二レベルの料理を無料で公開しちゃっていいのかなぁって」
「金の心配ならば不要だ。元々稼いでいたこともあるが、レシピを無料で公開したところで、一般的な料理人たちがすぐに真似出来るというわけでは無い」
「あ、そうなんですか?」
「そもそも使っている食材がどれもこれも高いランクの魔物たちですもの。普通であれば手に入れる事すら一苦労ですわ」
あー……なるほど?
そう言えば、当たり前に渡されているけど今日使ったシャコナリケリとか火山地帯の魔物なんだっけ。
料理人が火山まで食材なんて取りに行かないだろうし、取りに行くとすれば某グルメバトル漫画の美食屋達くらいなもんか。
「そうなると当然、私達冒険者に依頼という形で舞い込んでくる。もちろん、高ランクの依頼になるから報酬も高い。だが、受けるためのランクにも制限が入る」
「実力に見合わない依頼を受けて亡くなる可能性がありますものね」
「そうだ。結果、依頼を受けられる冒険者は懐を潤す依頼が増え、料理人たちは高い依頼料を支払って手に入れた食材を自分なりにアレンジし、相応の値段で売る」
「それを食べた者達はその美味しさに驚き、もっとその料理を味わいたいと仕事に精を出すわけじゃな」
「低ランクの冒険者も、早くランクを上げて依頼を受けられるようにと上昇志向すら産んでいるんだぞ」
……もしかしなくてもさ、この人達、レシピの公開ってだけで異世界の経済回してない?
これって凄い事なのでは?
「最近では貴族が町の料理屋で食事をとることも珍しくなくなった」
「貴族間で回っていた金銭が、一般にも流通しやすくなったという事だ」
「こうなるとより市場は活気付きますわ。おかげで色々な設備や建物も増えましたものね」
「貴族も自分たちで抱えた料理人だけでは発想に限界があると分かったんじゃろう。定期的にたこ焼き大会を真似た料理大会が催されとると耳に入ってくるわい」
文字通り世界を変えちゃってる気がする。
しかもあれよな、こう言うと悪いかもだけど、この世界と違って『冒険者』って職業があるおかげで、家とか産まれとかマジで関係なさそう。
そりゃあ命の危険とか込み込みで俺は絶対にやりたくないし、この世界にあったらとんでもないだろうなとは思うけど。
ある世界はある世界で、うまく回ってるんだなぁと。
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