第353話 パーティとは

「なるほど、カレーが甘いというのはこういう事か」


 リンゴとはちみつがパッケージのカレールゥ。

 それの甘口で作った今回のカレー。

 マジャリスさんは大歓喜なのだが、他の三人はというとぶっちゃけそうではなく。

 辛さが苦手ではない為、ある程度刺激的なお味を所望。

 ただ、それはそれとして甘口のカレーの味を見て見たいという事で、最初の一口は何も加えずにそのままの味で食べていた。


「風味や味はしっかりしとるの」

「甘いというよりは味が尖ってなく、かなり丸い味わい、と言ったところですわね」

「俺はこのくらいがちょうどいいぞ!」


 まぁ、確かに。

 甘口だからと言ってデザート的な味わいでは無いわな。

 そもそも甘いの対義語が辛いなのかは疑問の余地があるわけで。

 味覚的に言えば苦いが適切なのではと。

 だって辛みって刺激だし。


「ちなみにカケルは何を?」

「? ブラックペッパーに一味唐辛子、それとラー油を入れてるだけですけど?」

 

 なお、俺は甘口の味を知っているので最初からアレンジする模様。

 ピリッと来る刺激をブラックペッパーで、辛さを一味唐辛子で。

 風味と香ばしさをラー油で追加し、これをしっかりと混ぜる。

 ほんでパクリ!

 むほほほ。ジライヤタンからいい出汁出てますわ!

 後味的にビーフシチューに近い。んでもしっかりとカレー。

 そしてカレーと言えばこの辛さよ!!

 あと、やっぱジライヤタンうめぇわ。

 煮込んだ事でしっとりとしてる感じに変化しててさ。

 噛めば噛むだけ肉汁がジュワって。

 色んな部位入れたから、口に入れる度に食感も変わるし、まーじで美味い。

 ……ただちょっと物足りないな。タバスコも追加で。


「なるほど……」


 一味唐辛子とかラー油とか、俺の追加した調味料たちの成分表と睨めっこしているラベンドラさん。

 とりあえずブラックペッパーを軽く振り、食すみたい。


「タバスコを貰えます?」

「どうぞ」


 リリウムさんは俺が使ったばかりのタバスコを受け取ると、一口分のカレーを掬ったスプーンに一滴ポトリ。

 これはアレだな、どの調味料が自分好みか、ああして確認する感じだ。


「カケルがしとるなら間違わんのじゃろう。全部使うぞい」


 一方ガブロさんは俺を全肯定。

 使う順番も奇麗に真似て、全部の調味料を使っていってる。


「ちなみに作る時に唐辛子を輪切りにしてぶち込めば手っ取り早く辛くなりますよ?」

「……そう簡単に手に入らん」


 あ、そうでしたそうでした。

 でも、簡単には手に入らないってだけで、難しくは手に入るんでしょ?

 え? そういう事じゃない?


「カレー自体の風味や味、チーズのコク、そして追加した調味料の刺激が素晴らしい」

「自分好みのカスタマイズが出来る時点で最高の一言ですわよ。全部ハズレ無しって事ですもの」

「カレーに限らず、基本の味だけを提供し、客側にカスタマイズさせるようなスタイルの店は、出せば流行るかもしれんのぅ」

「おかわり!!」


 マジャリス君は元気でよろしい。

 他のエルフ達の話を聞いて無い所も凄く子供っぽい。

 言ったら怒られそうだけど。


「私たちのように弁えている方々ばかりならば問題ないでしょうけれど……。例えば、この調味料を一瓶丸々使う阿呆も出てくる可能性がありますわよ?」


 と、ガブロさんの意見に、一味唐辛子を指差し答えるリリウムさん。

 ……居るんだよなぁ。何なら、もっと迷惑なことする連中が。

 しかも何故か同時期に多数出現するし。

 内輪ノリで面白いと思って動画撮るんだろうけど、全然面白く無いからね?

 そもそも、他人に迷惑が掛かるような行為で笑えるわけが無かろう。


「自分が恥ずかしい奴だと宣伝しているのはまだいいが、それで他の客の迷惑になれば目も当てられん」

「むぅ、わしは喜んで通うのじゃが……」

「一見お断り、かつ最低でも貴族の管理がされている店であればあるいは?」

「そんな堅っ苦しい所で食いたくないわい」


 異世界でも居るんだね、迷惑客。

 あと、一見さんお断りのお店。

 日本にもあるけど、あれって結局意地悪とかじゃなく、支払いが後日払いのいわゆる『ツケ』の所だったりとかで、信頼してないお客さんには出来ないから、とかでやってるらしい。

 先輩から聞いた話だけどね。いわゆるお座敷遊びを提供するところはそうなんだとか。


「ハッ!? むしろわしらがそう言う店を出せば、わしらの実力を知っとる以上ふざけた真似は出来ぬのでは?」

「私が調理するとして、お前たちは何を?」

「食べる」

「食べますわ」

「食べるぞい」

「……却下だ」


 いや、草。

 そりゃ断られるわ。


「……だが、こうして好みの味に食べる側が調整するシステムは面白い」

「何か思いつきまして?」

「いや? だが、誰しもに好き嫌いがある。それを考慮し、各人で好きを近く、嫌いを遠ざける事が出来るという考え方に共感した」

「なるほど。それこそ、初めてで好みの分からない相手に対して有効、と」

「そうだ。それに、どのように味付けをするのかを観察すれば、おのずと好みの味付けを探れる」

「『無頼ぶらい』にやってみる気か」

「うむ」


 ……また知らん単語が出てきた。

 無頼って聞くと、俺は某アニメの機体が出てきちゃうな。

 あるいは中学生でチキンランをした挙句にド素人の状態で麻雀打って、プロの代打ちに勝ったギャンブラーとか。

 どちらにせよカッコいいイメージがある。


「あ、すまない。『無頼』というのは次に一緒にダンジョン攻略をする他国のパーティだ」

「そうなんですね」

「パーティと言ってもソロじゃがな」

「……ソロなのにパーティ?」


 何そのソロスクアッドみたいな感じ。

 不思議では?


「そもそもSランクという括りに入るためにパーティと呼ばれているだけで、本人も『俺は一人なのにな』とか笑っているらしいぞ」

「自覚あるんですね……」


 ちょっと興味湧いて来たな。

 ……でも、まだあってないんだよね? その『無頼』って人と。

 じゃあ今後話してくれるだろうし、今は聞かなくていいや。

 ――それよりも……。


「デザート」


 このカレーを食べ終えて、しょぼくれた犬みたいな表情でデザートをねだるマジャリスさんをどうにかしなければ。

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