第362話 サイコロ遊び()
「あン? 酒?」
国境付近の高難易度ダンジョン。
これからダンジョンへ潜る前に、親睦を深めようという事で。
翔から神様経由で送られてきた日本酒を、『ヴァルキリー』、『無頼』へと振る舞おうとする『夢幻泡影』。
「そちらからも酒を貰ったからな。酒の返礼は酒で、と思った次第だ」
「……俺は構わねぇが、そこのドワーフは大丈夫か?」
「? 何がじゃ?」
「いや、忘れてくれ。俺の知り合いのドワーフは酒の一滴も他人に譲らない連中ばかりだったからな」
そう言って、ラベンドラから日本酒入りのお猪口を受け取った『無頼』は、まずは香りを嗅ぐ。
「香りは甘い。あとは……かなり丸い風味が感じられる」
ちなみに余談だが、全員分用意されたお猪口はラベンドラやリリウム、マジャリスらエルフお手製の木を加工されて作られたものであり。
翔が見たら欲しがるのはもちろん、現代でも売られていたら酒好きの誰もが手に取りたくなるような出来である。
……材料さえ知らなければ、の話だが。
「あたしらもいただいていいのか?」
「親睦を深める目的だと言ったろう? もっとも、これからダンジョンに潜る為に、皆一杯までとさせてもらうが」
そうして、『ヴァルキリー』もお猪口を受け取り、全員で天へ掲げ。
一気にお猪口の中身を口へと流し込んだ。
「っ!?」
「美味しい……」
「……強い」
「飲みやすいんですね……」
と、『ヴァルキリー』の面々がそれぞれな反応をする中。
『無頼』はというと……。
「うめぇ……」
小さく、静かに。
既に飲み干したお猪口をひっくり返し、垂れてきた最後の一滴を舌で受け止め。
「うめぇ!! なンだこれ!! 華やかな風味と鼻に抜ける香り! 強いが重たくない酒精! 何より、酒なのに全く尖ってねぇ!!」
「気に入ったようじゃな」
「ドワーフのおっさン! あンたが作ったのか!? 元は酒造ギルド所属か!? ちょっとこの酒の作り方を俺の国のやつに――」
「一旦落ち着け」
日本酒を飲み、ハイテンションになった『無頼』を静め――
「この酒は貰い物だ」
「どこの誰がこンなとンでもない酒を渡したンだ!? なぁ、教えてくれ!!」
られてはいないが、何とか会話は出来るようで、
「私達だけの秘密ですわよ。他にも貴方の知らないお酒がいくつもございますわ」
「マジか……。ニルラス国ってのは酒の製造に秀でた国だったのか……」
リリウムの言葉に、変な納得の仕方をする『無頼』。
その後ろで、そんなこと知らない、と、『ヴァルキリー』の面子が手を振ったり、顔を振ったりしているが。
考え込んでいる『無頼』には、その情報は届かない。
「……よし、決めた」
「?」
そして、考え込んでいた『無頼』が口を開くと、出てきた言葉は……。
「名前を教える。俺らの国では普段使いする時の名前と、本当の自分を表す真名ってのがあるンだが、その真名を教えよう」
「はぁ……」
真名、という、馴染みの無いもので。
「下手すりゃ家族以外には教えない奴すらいるんだぜ? この真名ってのは」
どうやら、『無頼』の住む国では大変な事らしい。
「信頼の証……と取っていいんじゃな?」
「もちろん」
「なぜ急にそう思い立ったか疑問が出るのだが……」
「ンなもン酒だよ、酒! あンな美味い酒を貰ったンだ。それに応えるだけさ」
「ふむ、分かった」
何故だか生まれたガブロと『無頼』の酒好きの絆。
その絆から、『無頼』の真名を聞くことになったマジャリス達は……。
「俺の真名は『
ニルラス国では馴染みの無い名前を、『無頼』から教えて貰うのだった。
*
……えー。
卵増えてない?
貰った時一個だったよね?
今二個あるんだけど?
――神様持って来ました?
(酒を持って行っただけで向こうからこちらへは何も持って来てないぞい)
本当に?
(本当じゃ)
う~ん……。
じゃあなんで二個になってるんだ?
まさか卵が勝手に増えたわけじゃあるまいし……。
(卵の事、教えた方がよいか?)
お願い出来ます?
(ふむ。そ奴はわしが冗談で作った不死鳥の亜種じゃな)
……?
冗談で作った?
(いや、遊び心だったんじゃよ。不死鳥は不死性が特徴じゃが、そ奴は不死ではなくてな。誕生までの過程で何度も卵が分身と融合を繰り返すんじゃ)
するな、分身とか。
しかも卵の分際で。
(そうして融合した回数の、いわば残機を持っていてな。残機が尽きぬ限り復活し続ける)
……やってること不死鳥過ぎない? あ、だから亜種か。
(そうじゃ。しかし、あの四人はわしが運の値を上げておるとはいえ、まさか融合回数が一桁の卵を手に入れるとは)
――なんて?
(とりあえず、どちらかを引き離しとくのをおススメするぞい。その内融合して一つになってしまうからの)
あ、はい。
とりあえず神様の言う通りに卵を移動。
……どれくらい離せばいいんだろう?
片方は冷蔵庫に、もう片方は玄関にでも置いとくか。
(今玄関に持って行った方がベースじゃな)
玄関と冷蔵庫の卵を場所チェンジ。
ちなみに食べて大丈夫なんですよね?
(生まれたてと言うか、そもそもまだ生まれとらんし。呪いの類はないぞい)
それを聞いて一安心。
あ、寄生虫とかは?
(ないない)
ふぅ。
……それで? この卵はなんて名前の魔物なんですか?
(そいつはのぅ……『リボーンフィンチ』という魔物じゃ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます