第485話 震えて眠れ、翻訳魔法

 さて。

 蟹がたっぷりとあるわけで?

 さらに言えば、味や甘みなどが違う個体として七種類もあるわけで?

 それでさ、クリームパスタを作ったら美味しいと思うの。

 こう、冷やし中華のトッピングみたく、それぞれの蟹を乗せるの。

 彩はよく、絶対に美味しいと思うんだよね。

 ……日本人には馴染みが無い青い身だけが心配だけど……。

 まぁ、やってやれない事はないでしょ。

 と言う訳で、買い物を終えまして。

 パスタ系はね、ほとんどがソース作って麺茹でて混ぜるだけだからある程度楽だわ。

 ラベンドラさんに任せればいいし。


「後はデザート……」


 悩むんよなぁ、デザート。

 いっその事、お菓子系を買って来て提供してみようかしら。

 日本のお菓子って海外だと評価高いって聞くし、コアラのアレとかキノコタケノコ戦争の発端とか。

 ……待てよ? ふと思ったんだけど、あの名状しがたい中にあんこやカスタードクリームの入った焼き物は翻訳魔法さんは何と翻訳するんだろう?

 ちなみに俺は回転焼きって呼んでたかな。

 ちょっと気になるな……。

 確か冷凍食品のソレが評判良かったはずだし買って来てみよう。

 にししし、翻訳魔法さんや、今の内になんと翻訳するか焦ってるといい。



「待たせたか?」

「いえいえ」


 魔法陣を潜ってこちらの世界に来たラベンドラさんの目には、既にエプロンを装着し、スタンバっている俺の姿。

 慌てて自分もエプロンを着用し、こちらへと走って来た。


「今日は蟹クリームパスタを作ります」

「……エビの時と同じ作り方か?」

「ほぼ同じです」


 あの時はエビが一種類だったけどな。

 今回何故か七種類あんねん。


「まずはオリーブオイルでニンニクを炒める所からだな?」

「ですです」


 よし、これで多分作り方は共有された。

 パスタソースに入れる用の宝石蟹達は加熱するから解呪の必要はないとして……。

 上に乗せる具の方も全部塩茹でしちゃうか。

 天辺に生でちょっとだけ盛るくらいがいいと思う。


「カケルは何を?」

「蟹の身をトッピングでも使いたいので……」


 取り出したるは蟹用スプーン。

 これでほじくって身を出してな……。


「カケル、私が転移魔法で身だけ取り出しますわよ?」

「……お願いします」


 ごめんよ蟹用スプーン。

 君の出番はないみたいだ。

 やっぱ転移魔法ってズルでは?

 せめて本人だけが転移出来る仕様であれよ。

 物も転移させられるのは無法が過ぎるでしょ。

 それがエルフのやり方か。


「どれくらい抜きますの?」

「各種五本くらいで……」


 蟹の調理してる時に抜くとか絶対に聞かない言葉だな。

 マジで無法過ぎる。


「あ、殻は回収させてもらうぞ?」

「構いませんよ? 装備に使うんですよね?」

「いや……その……」

「最近蟹の殻から取る出汁にハマってしまいまして……」

「他の冒険者には内緒にしてわしらだけ楽しんどるんじゃ」

「あー……」


 あの美味しさを知っちゃったらねぇ……。

 しょうがないか。


「カケル、トマト缶を」

「はいはい」


 ニンニクを炒め終わり、いい匂いが部屋に充満。

 そのタイミングでラベンドラさんからトマト缶を要求され、渡そうとするも……。

 ふとした閃き。


「一度先に蟹の身を炒めて、香ばしさを出しません?」

「乗った」


 ソースに後入れするんじゃなく、先に炒めておいて香ばしさもプラスしちゃおうって寸法よ。

 これで……あれ?


「カケル……」

「見てました」

「溶けた……」

「溶けましたね」


 えぇっと……?

 今のは確かラピスラズリ個体……つまりはカニミソ味のやつだったよな?

 フライパンに入れた途端、オリーブオイルに溶けていったように見えたんだけど?

 一緒に投入した他の身たちはそんな事になってないし……。

 というか待って? そもそもオリーブオイルに溶ける蟹の身ってなんだ?


「ら、ラピスラズリ個体だけは後乗せにしましょう」

「そうだな……」


 あのラベンドラさんが珍しく泣きそうな目でこっちを見て来たな。

 見て来ても俺が知ってるはず無いのに。

 

「と、トマトを入れるぞ?」

「お願いします」


 蟹の身も一種類だけ消えたけど炒め終わり、今度こそトマト缶を投入。

 そしたら水分がある程度飛ぶまで火にかけまして。

 今の内にパスタ麺の用意。

 鍋はもちろん二つ。麺を茹でるのは俺の担当。


「生クリームは?」

「もう少し水分が飛んでからですね」

「分かった」


 今の内にお皿を用意し、ソワソワしてる三人の前にフォークとスプーンを用意。

 ……食べ終わった後に残ったソースをバゲットに乗せて食べたら最高なのでは?

 ヨシ、バゲットも焼いてやろう。欲しがりさんめ。


「もうすぐ茹で上がります」

「生クリームを入れて待機しておく」


 と言う訳で茹で上がったパスタ麺を、しっかり湯切りし。

 ラベンドラさんの持つフライパンへシューッ!! 超!! エキサイティンッ!!

 そこに茹で汁をお玉一玉分入れたら、麺にソースを絡めて完成。

 お皿に高さを出しながら盛りつけまして、その麺を隠すように塩茹でした各種蟹達をトッピングして完成!

 バゲットはすぐには要らないだろうから一旦置き、


「お待たせしました」


 作ったのはラベンドラさんだけどな!

 と言う訳で、異世界宝石蟹の七色クリームパスタ……完成!!

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