第189話 なるだけ簡単に

 ふっふっふ。

 焼き鳥? 焼きワイバーン? の時に気付いちゃった。

 それを今日は余すことなく活かしていっちゃおう。

 というわけで晩御飯の準備でござい。

 本日使っていくのはささ身のような部位と軟骨部位。

 まずは軟骨部位をジップロックに程よい大きさに成形してぶち込みまして。

 そこに醤油、ニンニクチューブ、生姜チューブを入れて揉み揉み。

 しっかりと味が染み込む様にと二礼二拍手一礼。

 料理の神様に願掛けし、軟骨の唐揚げの仕込みは終了。


「絶対に美味いもんね」


 揚がった後の味を想像しつつ、お次はささ身部位。

 こちらを大体手の平くらいの大きさに切り出し、それを薄く切っていく。

 薄切りにしたら塩コショウを振り、しばし放置。

 その間に色々お準備ですわよ。


「いやぁ……それにしても」


 ゴミ箱の一番上にある、チョコレートのパッケージを見て思い出したよ。

 昨日、四人にチョコレートを振舞った時の光景。

 板チョコ持って、一口食べて、全員唖然。

 瞳孔ガン開きで微動だにしないから、もう二分くらいそのままの状態だったら医者が黙って首を横に振ってたと思う。

 で、ようやく出た感想が、


「なに……これ……」


 だったな。どうだ? 美味しいだろ?

 現代のチョコレートはもはや麻薬。

 食べたらその衝撃を忘れることは出来ず、さらにチョコを求めてしまう悪魔の食べ物なのだ……。

 あと、一年間で特定の日に一定数の男性を不幸にする。

 つまりチョコは悪!

 ――訂正、バレンタインデーは悪!! なんでチョコ一つで絶望を与えられなきゃならんのだ!!

 ……一応ね? 会社の女の子からは貰えるよ?

 でもね、違うの。そうじゃないの。

 義理チョコももちろん貰えて嬉しいんだけど、男は本命チョコが一番嬉しいの。

 ブランドチョコとかじゃなくていい。

 何なら、手作りの方が嬉しいまである。

 ほんと、男ってめんどくさい生き物ね。

 ――ちなみに、俺がチョコを貰える理由はただ一つ。


「お返しなんだけど、チョコブラウニーがいいなーって」


 手作りスイーツで返ってくるから。

 おかげさまでマシュマロとか、果てには甘くないケーキとか作りましたよ。

 ……多分余裕で三倍返し越えてるよ。

 材料費高いねん……。


「まぁ、牛乳……的なのも貰ったし、チョコと混ぜて作るか」


 ちなみに渡したチョコレートはその後、我に返った四人によって秒で無くなったし、冷蔵庫の中にあった在庫は全て四人が持ち帰った。

 教えたビスケットのレシピと、完成品と合わせて王に献上するんだって。

 チョコレートビスケット……美味しくないはずが無いし、まぁ、間違いないでしょ。


「チョコといえば、こいつもアーモンドというか、カカオっぽいはぽいんだよな」


 異世界牛乳こと、バカデカアーモンドッポイミルクの外殻というかなんと言うか。

 見た目完全にそっち系なんよな。

 固いけど。物凄く固いけど。

 こいつすり潰してたらチョコになんねぇかな?

 なんないか。

 既に試してるだろうしな……。


「お、面白いレシピあるじゃん」


 で、デザートに何作ろうかと探してたら、面白そうなレシピを発見。

 

「材料はあるし、今日はこれにするか」


 即決し、必要な道具を掘り出しまして……。


「まずは絹ごし豆腐を温めるのね」


 鍋にお湯を張り、豆腐を茹でる。

 茹でてる間に板チョコを溶けやすい様に、ゴッドハンドクラッシャーで粉々に。

 色んなチョコを食べさせようと、ビターやホワイトも買って来たんだけど、今日使うのはビターチョコ。

 茹でた豆腐を取り出して、先程引っ張り出したミキサーにぶち込み。

 チョコを湯せんし、そこに少しだけバカデカアーモンドッポイミルクを。

 いい感じになったら、こちらもミキサーに入れて、スイッチオン!!

 チョコと豆腐が完全に混ざったら、容器に移して冷蔵庫で冷やして完成……と。

 俺バカだから分かんねぇけどよ。

 一般的なムースの作り方よりもだいぶ簡単なんじゃねぇか?

 ……ちょっと洗うのに苦労するミキサーを使ってるけど。

 差し引きトントン位か。


「んで、そろそろいい感じかな?」


 で、ワイバーン肉の方に戻りまして、肉に浮いた水分をしっかりとキッチンペーパーで拭き取り。

 肉の上に、大葉を一枚。

 その上に肉を置き、今度はとろけるチーズを乗せて、またお肉。

 そこに練り梅のチューブを塗って、またお肉。

 最後に海苔を肉で挟んだら、一つが完成。

 ワイバーン肉のミルフィーユチキンカツ!

 梅紫蘇海苔チーズとかいう贅沢何でも挟みなミルフィーユカツだぜ?

 絶対に美味いじゃんこんなの。

 そしたらこれを、四人には三つ……いや、四つ。

 俺には二個で合計十八個。

 衣まで付けて、後は焼くだけの状態にしとこう。

 ラベンドラさんからはお小言を頂戴するかもだけど、俺が早く食べたいからね、しょうがないね。

 ワイバーン肉の美味しさを知ってるから、この料理の美味しさも脳が勝手に想像しちまってさ……。

 もう何なら、一人で先に食べたいくらいにはお腹がすいてる。

 

「そ、ソースでも作るか……」


 まぁ、それをすると四人からの非難が凄そうなので、断腸の思いで却下しつつ。

 カツに合うソースを、今からブレンドしていきましょ。

 ベースはもちろんとんかつソースよ。

 こいつがなきゃ始まらん。

 そしたらまずはどのご家庭にでもあるすり鉢を用意します。

 そこにたっぷりのごまを入れ、好みの擦り具合になるまで擦りましょう。

 ごまが擦れたらそこにとんかつソース、ウスターソース、めんつゆ、焼き肉のタレと思いつく限りの美味しいものをぶち込みまして。

 よーく混ぜたら完成です。

 味見を一つ……。


「あぁっ! うめぇ!!」


 ちょっと味が濃いんだけど、これ位濃くないと、ワイバーンの肉の味に負けると思うんだ。

 んで、何と言っても米が進む。

 間違いなく。


「うし、んじゃあ後は、四人を待つだけっと」


 お腹すいたから早く来ないかな……。

 こう、待つ時間は滅茶苦茶長く感じる現象、名前とかあったりしない?

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