第190話 イタズラ候補が増えていく

「それ、薄切りにする必要ございますの?」


 今日の料理の説明をしていると、リリウムさんが口を挟んできた。

 どうやら、わざわざミルフィーユカツにする意味が見いだせなかったらしい。


「まず、間に挟めるようになるのが一番ですかね」

「それに、肉の断面が増えるだろう? そうすることで、肉汁の溢れるジューシーさが増すと思わないか?」

「……言われてみると確かに」


 なお、既に揚げの工程に入ってまして、俺はとっくに山盛りのキャベツと切ったトマト。

 更にはくし切りのレモンを皿に盛り付け終わってたりする。

 みそ汁の準備も出来ていて、本日は赤みそで具はワカメと豆腐のオーソドックスな奴。

 漬物にはカブの梅酢漬けをチョイス。

 どうしても油物の時は、サッパリ出来る漬物を選んじゃうよね。


「大葉や海苔を挟んで、和風な味にしてあるんだろう?」

「梅や大葉とワイバーンの相性は確認済みじゃからな、今から楽しみじゃわい」


 なんて待ち遠しくしてる間にミルフィーユワイバーンカツの完成。

 普通のカツとは違う、少しの手間暇を加えたミルフィーユカツのお味は……?


「いただきます」


 先鋒マジャリス、食べます!!

 切られたカツを持ち上げ、ソースにちょんちょんと付けまして。

 あ、そうそう。今日のソースはカツにかけるんじゃなく、小皿にそれぞれ移してあって、食べる時に好みの量を付けてくださいスタイルで提供してる。

 どうしても好みのソースの量ってあると思うからね。

 食べながら探して欲しいと思う俺の配慮。

 ちなみに二度漬けは禁止じゃない。


「――ゥマイ!!」


 ザクッという衣のいい音の後、ほんの数拍の間を置いて。

 最初の一文字が聞こえない、いわゆる体育会系? 的な発声で叫んだマジャリスさんは。


「いくつもの爽やかな風味が肉の脂っぽさを消し、肉と肉汁の味だけを引き立てる!!」


 とか言いながらご飯を掻っ込む。


「一噛みごとに肉汁が溢れるのが最高だ」

「海苔の風味もまたいいものですわね~」

「さ、酒……。やはりワイバーン肉には酒を……」


 それに引っ張られるように、カツを食べてご飯を掻っ込む三人の図。

 なお、一人は米より酒を所望してるもよう。

 カツにビール、合うだろうねぇ。

 出さないけど。


「揚げ物なのに軽い気がするな。あまりにもスルスルと入っていくぞ」

「食感が助けているのだろう。肉肉しい食感ではなく、下手をすると野菜に近い」


 なんて男エルフ二人が言うもんだから、俺もカツを……。

 ザクッ!! からのシャキッ!! って食感に思わず困惑。

 あれ? ワイバーン肉……だよな?

 焼き鳥みたく串に刺して焼いて食った、あのワイバーン肉だよな?

 あの時と明らかに食感が違うんだが……?


「なにこれウッマ」


 トリッポイオニクの時もそうだったけど、かなりシャキシャキした食感で、繊維一つを噛み切るたびにその食感になるもんだから、ずっと口の中でシャキシャキシャキシャキ! っていってる。

 そのシャキ一回で肉汁が溢れて、梅だのチーズだの大葉だの海苔だのが間から顔出して来てさ。

 梅でさっぱり、チーズはコク。大葉でさっぱり、海苔で鼻に抜ける風味と一口で四回美味しい。

 いや、肉の美味さもあるから五回美味い。

 これ凄いな。軽い気持ちでミルフィーユカツにしてみたけど、これ飽きないわ。

 一度に味が変わりまくるから、一口どころか一噛みごとに別の商品食べてる感じになる。

 ていうか、チーズがヤバい。

 ワイバーン肉から出た肉汁吸って、口の中に延々残り続けてくれる。

 クッソ美味いガム食ってる感じ。ガムほど口の中に残らないけど。

 で、飲み込んだ後の口の中に米を掻っ込めば、残ってたうま味と肉汁がご飯に絡んで最高に美味い。

 そこからさらにご飯掻っ込んで食えるくらい、味が強く残ってる。

 

「漬物も美味いな。さっぱりした酸味と鼻に抜ける風味。最後に香るほのかな甘さが食欲を維持し続ける」

「お漬物の後に飲むお茶がとても美味しいんですの。よく冷えているのもあって、カツを食べた昂ぶりが一気に落ち着きますわ」

「そして味噌汁で整え、またカツに箸を伸ばす。……この定食スタイルは本当によく考えられている」

「合間に食える野菜の千切りもまたいいもんじゃわい。ソースをほんの少しかけて食うと、野菜からも甘みが感じられる」


 どうやらミルフィーユカツ定食、大好評だな。

 まぁ、不味いはずが無いのよ。

 あと、もはや定食スタイルも問題なく満喫してらっしゃいますよね?

 そろそろみそ汁の味噌はどれがいいとか言い出す頃合いか?


「膨らみのある塩味と風味、少しだけ感じる酸味と、今日の味噌汁は今までで一番美味い」

「色が濃いですわよね。私は以前の、白に近い色の味噌汁がお気に入りですけど」

「同じ味噌汁なのにここまで味に差が出るのも面白い。そして、そのどれもが美味い」

「具も結構なんでも入っとるしの。何なら、肉とか入れてもええんじゃないか?」


 お? ガブロさん、そんな事言うと豚汁作っちゃうぞ?

 今からの季節、冷や汁も美味いな。

 納豆汁なんてのもあるし……待てよ?

 この四人に納豆を食わせてみたらどうだ?

 受け入れるのだろうか……? 私、気になります!!

 今度試してやろう。


「あっという間の完食だった」

「食材も美味いが、その食材のうま味を活かす調理法が素晴らしい」

「やはり揚げ物。揚げ物は全てを解決しますわ!!」

「焼いた時と違う食感だったのは発見じゃな。この歯ごたえ、気に入ったぞい」


 なんて考えてたら、気付いたら四人とも完食してるでやんの。

 はええって。

 ちょっと俺が完食するまで待ってろください……。

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