第473話 カケルでポン

 一応……さ。

 紅茶チョコのフレーバーと被らない紅茶の銘柄にしようと思ったんだけど、これがほとんとフレーバーに使われてるんだよね。

 ダージリン、アールグレイ、ウバにアッサム。

 と言う訳で家にあって、なおかつ被ってないフレーバーはキーマンだけでした。

 もちろん淹れましたとも。


「この紅茶か」

「大変美味しい紅茶でしたわね」


 と、俺が淹れてる紅茶を見ただけで、いつ飲んだどの紅茶かピンと来ている様子の四人。

 マジで? 俺、サッパリポンなんだけど?


「分かるんですか?」

「匂いが違う。それに、色も特徴的だ」

「カケルの淹れてくれる紅茶はどれも美味しいので、色も匂いも印象に残るのですわ」

「特にその紅茶の事は鮮明に覚えている。果物を思わせる甘い香りが特徴的だった」


 違いの分かるエルフは違うな。

 紅茶好きの人なら分かるんだろうけど、生憎にわかもいいところなもんで、自分。

 

「よし、覚悟を決めた」

「行ってこい」


 信じられるか? 今からチョコを食べようとするエルフ二人の会話なんだぜ?

 まだバンジージャンプとか言われた方が納得するよ、俺は。

 ちなみにマジャリスさんが口に運んだのは……。

 カタログにある説明から、ウバ茶を練り込んだ薄型のホワイトチョコだな。

 さてさて、反応は分かり切ってるからどんな食レポをするのやら。


「…………」


 薄型チョコを一口で食べ、ゆっくり咀嚼し飲み込んで。

 静かに紅茶を口に含み、香りを楽しんで飲み込む。

 ――あれ? いやに静かだな?

 まさか!?

 マジャリスさんの目の前に手をかざして振ってみるも、反応どころか瞬きすらしない。

 嘘……だろ……?


「死んでる……」

「では、マジャリス用にと買って来てもらったのに残っているチョコは私達でいただきましょうか」

「そうだな」


 え? あの? 仲間ですよね?

 動かないのにそんな薄情すぎる反応でよろしくて?

 

「やらん!!」


 あ、戻って来た。

 お帰りなさい、マジャリスさん。


「チッ」

「死んでもやらん。というか、墓前に供えろ」

「死んでなお食おうとする食い意地だけは流石じゃな……」


 マジャリスさんらしいなぁ。


「で? 味は?」

「素晴らしいの一言だ。滑らかかつクリーミィなチョコレートに、本当に紅茶を口に含んだかのような香りが広がる。チョコの甘さに乗った紅茶の風味がたまらず、正直飲み込まずに口の中でずっと味わいたかったほどだ!」


 おー、やっぱり高評価。

 紅茶チョコも、まぁ定番だしね。


「でも飲み込んだのでしょう?」

「美味し過ぎて無意識に飲み込んでいた。うぅ……溶けないチョコが欲しい……」


 それは果たしてチョコなのか? チョコは溶けてこそだろうに。

 ……昔あったチョコ味の綿菓子みたいなやつ。

 今じゃあトンと見ないけど、あったら与えてみたいな。

 一体どんな反応をするのだろうか?


「私も食べるか」


 そしてラベンドラさんが抹茶チョコに挑みます。

 ここからの追い込みに期待しましょう。


「む、最初はチョコの香りと味だが――なるほど、一気に華やかな抹茶の香りが流れてくる」


 これまでの三人と違い、リアルタイムで実況を始めるラベンドラさん。


「チョコの苦さとはまた違った苦さと合わせて、チョコと抹茶チョコの異なる甘さがそれぞれの苦みと調和する」


 目を閉じ、ゆっくりと味わうように。


「口に入れてから最初はチョコ、時間が経つにつれて抹茶の香りが立つように作られているのか……。飲み込む瞬間まで美味い」


 そう言って、これまたゆっくりと飲み込んだラベンドラさんは、


「美味い」


 力強く、そう総評を下した。


「チョコも合わせるものでこれほどバリエーションに富むんですわね」

「紅茶のフレーバーもあるんだ。コーヒーと合わせたのも当然あるんだろうな」

「ありますね」

「しかもカケルのはフルーツと合わせてあるんじゃろ? もはや何でもありじゃわい」


 確かに、チョコレートって甘いもの全般全てに合う気がする。

 チョコが合わないものってなんだ? ひょっとしたら思いつかないかも。


「酒とも合わせてあったしな」

「まぁ、チョコをツマミにお酒を飲む場合もありますし」


 ビールとか、ワインとかに合わせる人がいるらしい。

 もちろん、それに合わせた銘柄を選んでるだろうけど。


「ワインにも確かに合うだろうな」

「……帰って試すか」


 なんて話しながら、四人の視線が注がれるのは俺のチョコ。

 えぇっと?


「最後はカケルの番ですわよ?」

「え?」

「当然だろう。どんなチョコなのか説明をして貰わないと」

「いやいや、俺のはいいでしょう?」

「よくない!」


 ……マジャリスさんに強く言われてしまった。

 うう……。


「……あ、口に入れた瞬間にオレンジの香りが鼻まで一気に抜けますね」


 渋々説明するために口に入れたのは、オレンジフレーバーのチョコレート。

 中にオレンジピールが入ってるらしいけど噛んだりする前に強烈にオレンジの香りを感じたね。


「チョコ自体は甘め……中に入ってるオレンジピールから、若干の酸味と苦みが出てます」


 ほんのちょっと酸っぱいな、苦いな、程度のアクセントで、味全体の邪魔はしない。

 どころか、そのアクセントのおかげで甘い一辺倒だったチョコの味に広がりと奥行きが出ている気がする。

 

「オレンジの香りがフレッシュなので、かなり爽やかに食べられます。チョコの香りはあまり感じませんね。オレンジの香りが勝ってます」


 チョコの香りも加わったら、まとまっていない味わいになっていたと思う。

 甘さをチョコ、香りや苦みなどをオレンジと役割分担がしっかりしているからこそ、このチョコなのだろう。

 うん、普通に美味い。

 こうして説明しながら食べるなんて普段しないけど、説明しようと味わう分、普段は気が付かなかったことまで気が付いたかも。

 少なくとも、オレンジの香りを生かすためにチョコの香りを押さえてるのでは? なんて、普段じゃ考えなかったし。


「さて、これで五つのチョコの感想をそれぞれ言い終えたのだが」

「当然、他人のチョコも気になるわい」

「となればやることは一つ」

「奪い合いですわね!?」


 物騒な事を口走ったリリウムさんを黙殺しつつ、俺とラベンドラさん、マジャリスさん、ガブロさんの男衆でチョコの交換を開始。


「嘘! 嘘ですわ! 冗談ですわ!!」


 慌てて入ってくるリリウムさんも合わせて、仲良くチョコの交換会をしましたとさ。

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