第118話 やや不謹慎
いやぁ……やっぱりラベンドラさんは凄いなと思ったね。
ガーリックトーストが焼ける間に笠キノコをソテーにしてくれてさ。
そいつを恐れ多くもクラムチャウダーに後乗せする、なんて悪魔的発想を思いつくんだもん。
誰も異を唱えなかったよね。当然だけど。
「まず匂いがいい」
「見た目も凄く美味しそうですわよ!」
「一品だけなのに満足感が凄いわい」
焼けたガーリックトーストと、キノコ類のクラムチャウダー。
これだけの食事なのに、ラベンドラさんを除く三人の表情はとても輝いていて。
まず最初に、リリウムさんがクラムチャウダーへとスプーンを差し込んだ。
「いただきますわ」
と、スプーンの上に笠キノコを乗せてそう口にしたリリウムさんは、一口でそれを頬張ると。
「んん~~~!!」
とても幸せそうに顔をほころばせ。
それに続けと言わんばかりに、マジャリスさんとガブロさんが後を追い。
「むっ! チーズの風味が凄い!」
「こっちの別で焼いたやつも香ばしくてうまいぞい!!」
二人ともに目を丸くして驚いている様子。
それじゃあ、俺もいただきますか。
ズズーー。
――お、濃厚。
作ってる途中に感じた、キノコ類のダシの話だけど、間違いなく出てるね。
市販のルゥにはないコクと深みを感じる。
コクはアレか、炒める時に使ったバターかな。
後乗せのソテーにもたっぷり使ってるし。
あとはワインとかもか。
これあれだな。いかに市販のルゥを使おうが、それなりに手間をかければ十分なご馳走になるな。
「どんなにうま味が強い料理にも合う、このトーストはまさに発明だな」
ラベンドラさんは美味しそうにガーリックトーストを齧ってますわ。
今思ったけど、ニンニクって向こうに無いんかな?
あまりにもこっちだとありふれてるから、有難味というか、そういうのあまりないんだけども。
「クリーミーなチャウダーから香ってくるチーズの風味と塩味。それらを押さえてなお主張してくる『――』の笠。最高だな」
「メインは確かに『――』の笠だが、柄の方も忘れちゃいかん。独特の食感とほのかな甘みで、このチャウダーにいくつものアクセントを与えておるぞい」
「本当に全体が高い所でまとまっていますわ。それと、野菜の甘みたちも素晴らしい仕事をしていますわよ?」
「カレーの時もそうだったが、このルゥというのは本当にすごい。ただ溶かすだけで何時間も煮込んだような味になるんだ」
企業努力様様だよな、ほんと。
あらゆるルゥが手軽にスーパーとかで買えるから、マジで助かってるわ。
困ったら野菜と肉買って煮込めば、それだけで一品出来ちゃうからね。
「カレーと、これと……もしかして、他にもルゥの種類はあるものなのでしょうか?」
リリウムさんが相変わらずニコニコして食べながらそんな事を聞いてくる。
うーむ、ルゥの種類か。
……大まかに分けるとカレーとシチューなんだろうけど、企業間の競争凄いしなぁ。
なんだったら、同じ企業がいくつも種類出してたりするし、果たしてどれほどの数がある事やら。
「基本はカレーとシチューの二種類だと思いますけど、そこから細かく派生するんで詳しくは――」
ざっとスーパーの陳列された棚を思い出しても、多分五十とかあるよな?
フレークタイプとかはちょっと離れたところにあったはずだし……。
そう考えるとまぁ多いな?
「多分、カレーだけで五十種類前後くらいかと」
「五十!? カレーだけで!?」
「はい。で、ちゃんとどれも味に違いがあるんで……」
ここまで説明してラベンドラさん絶句。
漫画とかアニメ見たく、持ってたスプーン落としちゃったよ。
ちゃんとチャウダーをよそった皿の中に落ちたけど。
「じゃあ、この間私達が食べたのも?」
「その中から俺が好きな奴二つをブレンドしたやつですね」
「はっ!? そうか! 別に一種類だけを使うという決まりはない。つまりかけ合わせることで選択肢はほぼ無限に……」
そういや、某動画投稿者がやってたな。全部のルゥを一片ずつ使って最強に美味いカレーを作る、みたいなやつ。
確か、味の深みが凄くなる、的な事を言ってたはず。
……何だったら、この人らの好みのブレンドも探してみたいところだ。
「カレーの話をしとったら、カレーが食いたくなってきたわい」
「そうか? 俺はこのチャウダーで充分だが……」
「カケル? カレーには魚介類などは入らないのでしょうか?」
「そんな事無いですよ? シーフードカレーとか当たり前にありますし、トッピングにイカやエビのフライとかも割と一般的です」
カレーに合わない食材を探した方が早いまである。
カレーはほぼ万能食材也。
……いつぞやテレビで見た、カレーとプリンの組み合わせだけは絶対に無いと誓えるが。
「チャウダーに『――』がこれほど相性がいいとはな……」
「ラベンドラ、再現の方はどうなんです?」
「これ位ならば大丈夫だ。――と言いたいところだが、完璧に再現となればやはりワイバーンの手羽は欲しい」
「もはや再現するのに定番の食材になってきたな、ワイバーンは」
「あのダシ……というか、スープはかなりこちらの料理の味に近いからな」
「また群れが見つからんかのぅ。最悪、村でも襲わんもんか」
なんか物騒な事言い出したぞこのドワーフ。
「出来れば我々から近い村を襲って欲しいものだ」
「今までの襲われた村のデータから次の襲撃先を予想できないのか?」
「出来たらギルドが頭を悩ませることはありませんわ」
ダメだこいつら、早く何とかしないと。
と、向こうの世界の住人に静かに同情しつつ。
豪華クラムチャウダーを完食するのだった。
美味しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます