第247話 お買い求めはフリーダイヤルエルフエルフ
「お前また美味そうなもん持って来てんな」
会社の昼飯の時間。
いつも食事に誘ってくれる先輩が、俺のどか弁を覗き込みつつの一言である。
「たまには自分で作ったハンバーガーをと思いまして」
と、羨ましいでしょ? と返してみると。
「……俺も昼はバーガーにしよ」
と言ってそそくさと離れてしまった。
何故か出来立ての温度で、滅茶苦茶いい匂い垂れ流してるもんね。
飯テロスマンな。
というわけで早速、いただきます。
パクリ……。
「あー……うめぇ」
周囲には皆昼飯を買いに行ったり食べに行ったりでいない事を確認して、そう零す。
じゃないと、流石に少し分けろとか言われかねないからね。
……俺は食べて平気みたいだけど、このハンバーガーは一応異世界の食材で作られた料理なわけで。
これ食べて体調崩して病院に運ばれたとかなったら、大事になるかもしれない。
それこそ、未知のウイルスが~とか言われたらもう色々とヤバい。
なので、見せびらかしはすれど、分け与える事だけは絶対にしない。
ビーフジャーキーを渡した徳さん? あの人は胃が丈夫って言ってたし、どうせ酒と一緒に食べてるだろうから消毒されてるでしょ。……多分。
「あのクッソ美味い肉をハンバーグにする悪魔的発想……我ながらほれぼれするね」
でまぁ、ハンバーガーが不味いはず無いんだけど、ちょっとこれはヤバいね。
少なくとも、チェーン店のハンバーガーは食えなくなりそう。
噛むとジュワッと溢れる肉汁。やや濃いめに味付けしたハンバーグが、野菜(マンドラゴラ)やパンと合わさっても全然味が負けてないの。
ステーキとはまた違う、肉を食ってる、という感覚。
ステーキは一枚の肉から染み出してくる感覚だったけど、ハンバーグはミンチの肉一粒一粒から肉汁が溢れ出してくる。
溢れるって言うか、歯で絞ってると表現した方が合ってると思う。
それくらい口の中が肉汁で満たされる。
「野菜も美味い」
で、一緒に挟んだマンドラゴラたちも美味い。
火を通したことで柔らかくなったマンドラゴラ(トマト)は、肉と一緒に口の中に入って来て。
肉には無い、野菜や果物のさっぱりとした甘さと、ほんの少しだけ感じるスッキリとした酸味。
マンドラゴラ(レタス)も、瑞々しさは多少失われてはいるものの、それでも葉物野菜としての矜持は忘れてないらしく、肉やマンドラゴラ(トマト)には無いシャッキリとした歯ごたえ。
そして、普段食べているレタスよりも濃い味で、肉やマンドラゴラ(トマト)の味を陰ながら助けてる感じ。
惜しむらくはパンかなぁ。
市販のパンは確かにある程度のクオリティが保証されてて、普段使いには困らないんだろうけど。
何せ挟んでるのが和牛とかと戦えそうなほどのデリシャスビーフイッシュな訳で。
それに比べちゃうとどうしてもパンという土台の弱さが出ちゃってるなぁ。
十分に美味しいんだけどね、ハンバーガー。
もっと良くするならって話で、パンを特注で焼いてもらうとかって話になりそう。
最悪自分で焼くに至るまであり。
「一個はペロリだったな」
というわけで一つ目を食べ終え、二個目のバーガーに手を伸ばしたところで先輩がご帰還。
手には、近場にある某ハンバーガーチェーン店の紙袋が握られていて。
咄嗟にヤバい、と感じ、慌てて一口。
美味い。
「あぁっ!!」
ただ、美味しさを文字通り噛み締める俺の姿を見て、声を上げた先輩は。
「遅かったか……」
俺が二個目のバーガーにかぶりついた様子に、そう呟いた。
――やっぱり、買って来たハンバーガーと俺の持って来たバーガーを交換する予定だったな。
そうはイカの塩辛ですわよ。
「昨日の焼肉弁当といい、お前が食ってるの滅茶苦茶美味そうでさ」
「まぁ、美味かったっすね」
「だろうな。……ワンチャン買って来たバーガーと交換してくれないかと思ってたんだが」
「口付けちゃいましたね」
「……いいや。普通に食お」
うし、諦めてくれたみたいだ。
「ていうか気になったんだけどさ」
「?」
「お前の弁当、機能付き弁当なのか?」
「??」
「いや、だって、そのバーガーまだ温かそうじゃん?」
……機能付きと言えば機能付きですかね。
機能ってか魔法だけども。
「まぁ、そんなとこです」
「見た目どか弁なのにな」
「ですねぇ」
俺自身も、どんな機能が付いてるか定かじゃないんですけどね。
欲しいです? もし欲しければ最寄りのエルフにでも相談しときますよ?
「あ、そうだ」
「?」
「ほい。これは奢り」
唐突に何を渡されたかと思ったら、ゼロカロリーノンシュガーのコーラじゃないですか。
ハンバーガーにはコーラが合う。占事略決にもそう書いてある。
「ありがとうございます」
「ま、代わりと言っちゃなんだが、今度何か作って来てくれよ」
「……考えときます」
受け取ってから言うんだもんなぁ。
ま、いいや。異世界食材を使ってない料理を作って来てやるべ。
翔君は貰った恩はちゃんと返す人なのである。
*
「で、野菜たちをどうするか」
帰宅後、冷蔵庫の中のマンドラゴラと文字通り睨めっこをしつつ、レシピを思案。
う~む、なんでも出来るがゆえに何を作るか迷う。
……よし! 決めた!!
ラベンドラさんには悪いけど今日は炊飯器で無水カレーを作ろう。
材料さえぶち込んでしまえばボタン一つで簡単に出来る、科学の進歩って凄いよね。
ま、問題はそのボタン一つで出来てしまうせいでラベンドラさんが不機嫌になるって事くらい。
……そうだ! だったらドライカレーにしよう。
水の代わりにトマトの水分使って、無水ドライカレー。
目玉焼きなんかを乗っけてやれば、誰しもが満足するでしょ。
カレールーもあるし、じゃあ今日はそれに決定!!
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