第493話 イメージサンプル:蚊

「本当に私達の国に来る気無い?」

「逆でしょう? あなた方がこちらの国に来ればいいのですわ」


 現代から異世界に戻り、『無頼』とアメノサに現状異世界では再現が難しいアヒージョを提供。

 結果、前日の蟹クリームパスタ同様に言葉を失う事となり。

 アメノサは、即座に『夢幻泡影』を自国にスカウト。

 当然それは受け入れられることは無く、逆スカウトを受ける形に。

 もっとも、アメノサも一国の丞相である以上、その逆スカウトは無言を持って拒否されるのだが。


「ほンとお前ら、どンだけのレシピ隠し持ってやがるンだよ」

「叩けば出る……埃みたい」

「例えに悪意しかない気がするが?」

「正解」


 そんな二人を含めた『夢幻泡影』が居るのは、海底ダンジョンの最下層。

 バハムートの存在するボスの間の手前。


「この先にバハムートが居ますわ」

「向こうがこちらに気付き、動きがあった時点で転移魔法で地上に帰る。いいな?」


 ボス部屋の中での流れを確認し、ゆっくりと頷く六人。

 『夢幻泡影』の目的は再びの尾の肉の採取。

 『無頼』とアメノサの目的は、バハムートの確認と対抗出来そうな手段の確認。

 各々の目的をしっかりと刻み、いざ、扉へ。


「デッカ……」

「本当に大きい」


 初めて見る琵琶湖サイズの巨体を前に、思わず立ち尽くす『無頼』とアメノサ。

 そんな二人へ手を伸ばし、転移対象へと巻き込んで。

 一度目の転移魔法。


「まだ……全然……」

「続けるぞ!」


 普段ならそんな事は思いもしない転移魔法も、相手が膨大なサイズとなれば無いものねだりの考えが浮かぶ。

 すなわち、もっと遠くへ、と。


「着いた」

「尻尾ですらでけぇ……」


 転移を繰り返し、ようやく尻尾へと辿り着いた六人は、それぞれの行動に。

 ラベンドラ、ガブロが尻尾から肉を採取し、その間にマジャリスとリリウムが帰還用の転移魔法を展開。

 『無頼』はとりあえず一発ぶん殴ろうとバハムートに近寄り、アメノサはバハムートへと手を伸ばす。

 そして、


「うぶぇ」


 一瞬で、尻尾の毛がどす黒い赤へと変貌。

 続けて、アメノサの口から尻尾と同じ色のどす黒い血が吐き出される。


「ぎ、ぎぶ」


 口から血を吐きながら、ただそれだけを『無頼』へ伝えると、うずくまって地面へと血を吐き続ける。


「だ、大丈夫ですの?」

「あン? あいつが吐いてるのはこのバハムートの血だ」

「……遠隔で血を吸った?」

「それがあいつの血族の力だ。と言っても、あいつはその中でも最高傑作らしいがな」


 とはいえ、と『無頼』は心の中で思う。

 アメノサが血を吸い過ぎて口から吐くなど、初めて見たからだ。

 それもそのはず、アメノサはその能力で吸った血を尻尾へと蓄えるのだが。

 尻尾一本で、大体人間十人ほどの血を吸いつくすことが出来る。

 加えてアメノサの尻尾は九本。単純計算で人間九十人分の血を吸い出すことが可能であり。

 おおよその生物は半分も血を失えば失血死してしまう。

 つまるところ彼女は、手も触れずに遠隔で、外傷も前兆も無く、二百近い人間を一瞬で殺せる存在であり。

 そんな存在をもってしてもなお、バハムートはデカすぎた。

 ……というか、その量では通常サイズのクジラすらも失血死に至らないが。


「大丈夫か?」


 そんな血を吐き苦しんでいるアメノサの近くに、尾の肉を担いだガブロとラベンドラが降り立つと。


「アヒージョ食べたい」

「結構大丈夫そうじゃぞ」

「手は貸さなくて良さそうだ」


 先ほど食べた美味しいアヒージョを懇願。

 なお、あっさりと切り捨てられるもよう。


「かってぇ!!」


 そして、とりあえず一発殴ってみた『無頼』も、バハムートの鋼以上の硬度を持つ鱗と皮膚に絶叫し。


「こちらに気付きましたわ!!」

「早く手を取れ!!」


 そこで、ようやく何かされているらしいと気が付いたバハムートが動きを見せた事で、全員そろって帰還。

 何の成果も得られなかったわけでは無く……尾の肉はとりあえず得ることができ。


「おい」

「な、なに?」


 地上に帰還後、アメノサへと声を掛けるマジャリス。


「尻尾の色が一本どす黒いままだ。血を残しているんだろう?」

「知らない」

「ラベンドラ、こいつのアヒージョはラピスラズリ個体を溶かさなくていい。というか、普通の油でいい」

「!! や、やだ!!」

「じゃあバハムートの血と交換だ。何も全部とは言わん。折半で勘弁してやろう」

「……『無頼』」

「俺に助けを求めるなよ。食いたきゃ受け入れろ」

「? 拒否ったら『無頼』のアヒージョも通常のものにさせますわよ?」

「おら! 血を出せ!!」

「『無頼』が裏切った!!」


 結局、尻尾一本分だけ隠していたバハムートの血は、全て搾り取られてしまい。

 それを改めて折半し、和解。

 アメノサは渋い顔をしながらアヒージョを食べ、美味しさに頬を緩ませて。

 出て来たワインに舌鼓を打ち、すっかり上機嫌に。


「……丞相がこンなちょろくて大丈夫か? 俺の国……」

「だからこちらに寝返ればいいですのに」

「やるわけねぇだろ」


 食事後、勝手に膝の上に陣取り、あまつさえ寝息を立てはじめたアメノサを見て、思わずため息をつく『無頼』。

 そんな無頼の鼻に、何やら気になる匂いが漂って来て。


「気付いたか?」

「なンだ? この匂い」


 アメノサを抱き抱え、匂いに釣られて歩いてみるとそこには……。


「決勝は国王が会談から帰って来てから行われる。ならば予選は、それよりも前に行われなければならないわけで」

「今ではどの町でも、ラメーンコンテストの予選が開始されておりますわよ」


 町の至る所に出店でラメーン……現代で言うラーメンが提供されており。


「ほら」


 ラベンドラより、『特別審査員』と表示されたバッジを渡されて。


「それを付けていれば各店舗一杯だけ無料で食べられる」

「もちろん、食べた後に味の評価が必須ですけどね」


 ズルズルと、食事沼へと引きずり込まれている事に気が付いていない『無頼』は。


「じゃあ、遠慮なく食ってくるぜ?」


 この日より、すっかりラメーンの虜になってしまう事を、『夢幻泡影』以外は誰も知らないのであった。

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