第494話 動く情勢

 一つ、異世界の蟹の身を啜り。

 二つ、嬉しい贅沢三昧。

 三つ、美味しい異世界の蟹を、これまた美味しく調理してくれよう、翔太郎。

 ……という事でね?

 まずは神様にお供え物のターン。


(いつもすまんのう)


 ……?

 今日の神様は異世界の神様で無く、この世界の神様ですが?

 

(なんじゃと……)


 その為に今から一汁三菜を作っていこうかと。

 と言う訳で早速取り掛かる。

 まずは汁物! 神のみぞ知る、蟹の味噌汁。

 続いて焼き物! シンプルに焼きガニ。バター醤油を添えて。

 蒸し物! シンプルに蒸し蟹。こちらは蟹の味を楽しんでもらう。

 そして煮物! 贅沢に蟹身だけでつみれを作り、それを白菜とクリーム煮にしちゃう。

 そしてご飯!! 蟹の炊き込みご飯にござい。

 

「そのまま晩御飯になるんですけどね」


 なんて言い聞かせつつ、調理開始。

 なんか、一人で晩御飯の調理を全部やるって随分久しぶりだね。

 あと、デザートも確保しておかなくちゃ。



「もぅ……食えねぇ」

「『無頼』食べ過ぎ……」


 結局、最初の一杯で見事にラーメン……異世界で言うラメーンの魅力にどっぷりハマり。

 特別審査員特権で食べ歩くこと、およそニ十件。

 ついに限界に達した『無頼』は、町の外れで腰を下ろす。


「サッパリ系からこってり系まで、マジで色ンな種類がありやがる」

「どれが一番美味しかった?」

「今ンとこ淡麗塩味とか言う奴が一番美味かった」

「サッパリ系」


 そんな胃袋に収めた二十杯の中で、『無頼』のお気に入りはどうやら塩ラーメン。

 透き通る透明なスープは、よく見ればほんのり黄金色が付いており。

 その黄金色は、丁寧に出汁が取られた様々な食材の集大成。

 サッパリ系でありながら味が薄いという事は無く、むしろ数種類の重なったうま味の凝縮されたような味わいであり。

 初めてラメーンを食べた『無頼』に、衝撃を与えていた。


「かく言うお前は?」

「ボア骨ラーメン」


 『無頼』に振られたアメノサが口にしたのは、現代で言う豚骨ラーメンに当たるスープ。

 とはいえ、異世界の豚骨スープは現代のそれよりももっと獣臭く。

 その獣臭さを消すために、様々な工夫が施されている。


「骨の出汁があんなに美味しいと思わなかった」


 そして、普段は装備や道具に加工される部位を食材として使う、という発想もまた、評価ポイント。


「あれだろ? 白濁したスープの」

「そう。美味しかった」

「どうもフルーツの香りが邪魔くさくてな。あれなら、獣臭い方がまだマシだぜ」

「分かってない。獣臭さは咽るけど、フルーツの香りは咽ない」


 なお、匂い消しに用いられるものは、スパイスではなく果物らしく。

 現代で言うリンゴや蜜柑を、獣臭さを誤魔化すために一緒に煮込んでいるらしい。

 結果としてスープにフルーツの香りが付くため、そこを加点とするか、減点とするかは食べた本人に委ねられる。


「楽しんでいるようだな」

「おうよ!」

「最高」


 そんな休憩をしている二人の元へ、『夢幻泡影』が声を掛ける。

 ……手には、たった今食べ始めたのであろうラメーンの器を持って。


「これはまだ予選だが、予選だけでもまだまだ続く」

「大規模な祭りみたいなもンだな」

「実際その通りですわ」

「回を重ねるごとに規模がデカくなっている。……それに、予選であるのに貴族の姿も見受けられる」


 過去のたこ焼き、そして寒天デザートの時には見られなかった。

 見られたとしても決勝の会場でのみだった貴族の姿が、地方の予選ですら確認出来る。

 それは、この大会が無視できない程大きくなっている事の証左であり。


「報告によれば、予選の結果に関わらず、貴族が店舗の出店を約束する調理士もいるらしいですわよ?」

「自分好みのお抱えラメーン店か」


 それと同時に、食に対する興味が強くなっている事を示していた。


「調理士になりたいと志す者も増え始め、ついにはスクールが店員オーバーだとか」

「寿命が短い、人ならではの行動の早さだ」


 ……この場に翔が居たら、こうツッコんだだろう。

 チョコレート関連の事を考えると、マジャリスさんには言われたくない、と。


「んで? ちょっと姿を消していたと思ったらどこに行っていたんだ?」

「ん? ああ、醸造ギルドへな」

「ワインの品質向上に付いて話し合って来ましたの」


 『無頼』とアメノサをラメーン予選が行われている町に放置し、姿を消していた『夢幻泡影』。

 向かった先は醸造ギルドであり、目的はもちろんワインの品質向上。

 翔からもたらされた、現代では、過去に鉛を入れていた事実。

 それを踏まえ、宝石や魔物の角や爪、更には種なども醸造ギルドに寄付という形で押し付け、研究を行わせた。

 ただし、翔の考えの通り、ワインの製作には時間がかかる。

 先人が、神の取り分を掠め取ったせいで、時間跳躍も使えない。

 エルフと言えど、待ち遠しいの一言である。


「というか、思ったのですけれど」

「?」

「国王会談……間に合いますの?」


 持っていたラメーンを食べ終え、一息ついて。

 アメノサへそう尋ねたリリウムは。


「あ」


 小さく言葉を発し、周囲をキョロキョロと見渡したアメノサに。


「会場まで……送って」


 タクシーよろしく使われてしまう事となった。

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