第131話 百薬の長

 う~ん……。

 次は何を作ろうか……。

 煮付けにしたいって思ってたし、煮付けにするのもやぶさかではないんだけど……。

 昨日が甘露煮だったし、煮物が続くのもなぁ……って感じ。

 折角目の前には食材があるんだしさ。

 どうせなら、色々と試したいよね。


「後は……こいつなぁ」


 と、中間部分の身を指で押しながらため息。

 美味しい事には間違いないんだけど、ハードグミみたいな食感がなぁ。

 どんな料理にしてもマッチしそうにないんだよなぁ。

 尻尾の方は昨日使ったし……。

 中間部分の身は、普段どうやって食べてるかラベンドラさんに聞こう。

 んで、困ったら揚げろって枕草子に書いてあるし、今日は揚げ物で。

 んー……スティックフライにして、揚げたてをタレに沈めた白身魚のスティックフライ丼にでもするか。

 イメージとしてはアナゴ天一本丼的な。

 タレもやや和風にして、タルタルソースを上からかければみんな笑顔でしょ。

 というわけで買い物!!



「邪魔するぞい」


 というわけで四人が登場。

 ……ん? ガブロさん、なんか落ち込んでない?

 ついでに三人も。


「何かあったんですか?」


 こちとら会社では気配りが出来る系男子で通してんだ。

 そんな表情してたら声掛けないわけにはいかねぇべ。


「全部取られた……」

「ん?」

「持ち帰ろうとしたワインが――」

「一滴残らず神様に持っていかれたんじゃわい……」


 あー、なんだ、ワインか。

 そういや、なんか言ってたよね。

 異世界に移動する時に神様からワインをどうこうされるって。


「せめて神の取り分程度に持っていかれると思っていたら……」

「『気に入った。全部寄越せ』は流石に横暴が過ぎますわ!!」


 ってリリウムさん言うけど、相手神様だしなぁ。

 横暴もクソもないような気もする……。


「はぁ……向こうでも美味しいワインが飲めると思ったんだがな……」

「そちらの世界のワインって酷いんです?」

「いや……当たり外れが大きい。上質なのは素晴らしい出来なのだが、粗悪品の数も多い」

「上質なワインは貴族が買い占めるからな。我々冒険者が上質なワインを飲める機会はそう多くない」

「それなりの場所でそれなりの金を払えば飲めはするがのぅ。手軽とは言い難いんじゃわい」


 んーなるほど?

 それで昨日ワインではしゃいでたのか。

 なるほどなるほど。

 

「まぁ、それならここで飲んで帰ればいいじゃないですか」

「むぅ、それもそうなんじゃが……」

「やはり向こうでも飲みたいものだ」


 そんなもんかねぇ。

 まぁ、自分たちの国でゆっくり味わいたいって事か。

 分からんでもないかな。


「ま、まぁ、とりあえずご飯を作りましょう。今日は貰った魚をフライにしますよ」


 って言ったけど、思ったような反応は無かった。

 あの四人が揚げ物に飛びつかない、だと?

 重傷ですねくぉれは。

 ラベンドラさんは静かにエプロン付けて横に待機してるけども。


「そう言えばなんですけど、一つ質問が」

「む? 何かあったか?」

「この部分の身、滅茶苦茶弾力があるんですけど、普段どんなふうに調理されてるんです?」

「そこか。……高い火力で熱すれば弾力は無くなる。普段は火の魔法を直撃させて調理していたな」


 あの、せめて俺が出来る調理法を教えて貰っていいです?

 あと、家の中で出来る調理法で。


「だが、油で揚げれば大丈夫だと思うぞ?」

「あ、それくらいの火力でいいんですね」


 ……うん?

 熱してるフライパンの温度ってかなり高温だったよな?

 油よりも高かったりしそうなもんだけど……?

 調べてみたらどっちも200℃前後であまり大差ないんだけど……。

 本当に大丈夫か?


「時間をかければ大丈夫だ。あと、調理前に凍る寸前まで冷やしておくと弾力は弱まる」


 あ、そういうアドバイス超欲しい。

 もっとくれ。


「一応、今も冷やしてますけど……」

「あの弾力は、それはそれで楽しいものだ。早速調理に入ろう」


 まぁ、ラベンドラさんが言うならいいか。

 ……んで、三人。

 テーブルの上にデローンと突っ伏しない。

 どれだけショックだったんだ全く。

 ――しょうがない、秘蔵を出そう。


「皆さん、これ、試してみます?」


 取り出したるは秘密のお薬――ではなく、俺が丹精込めて手作りした梅酒。

 かなり甘めに作った、俺のチル用のもの。


「なんじゃいそれは?」

「梅酒――プラムワインですね」


 俺がよく見る動画でそう訳されてた。

 んで、みんなに好評だったんだよな。


「ワイン……?」

「そうは見えない色だが……」

「とりあえず酒という事なら飲むぞい」

「カケル、私にも一口」


 という事で四人にグラスを渡して梅酒を注ぎ。

 冷蔵庫から氷をいくつかグラスに入れて、梅酒ロックとしてご提供。


「結構アルコールが強いですから、ショット感覚で飲まないように」

「ふむ、いただくぞい」


 四人が一斉に呷り、それぞれ目を見開いて、見合わせて。


「美味い。……美味いぞ!!」

「さわやかな酸味と深いコクが素晴らしいですわ!! とろけるような甘さもたまりませんの!!」

「飲みやすさも素晴らしい。ジュースと言われても違和感がない」

「食前酒として最適な酒だ。思わず気持ちが上向きになり、これから出てくる料理に一層期待するような効果がある」


 うむうむ、そうだろそうだろ。

 俺がばあちゃんから教わった秘中の秘だからな。

 これを人がダメになるクッションに座って脱力しながら飲むのが最高なんですよ。

 

「これは是非とも向こうでも飲みたいぞい!!」

「試しに少量持ち帰りましょう! それで神様が全て持っていかなければ、次から大量に持ち帰ればいいのですわ!」

「スケープゴート的にワインを同時に持ち帰ってみてはどうだ!? ワインに目が眩んで梅酒まで気が回らんかもしれん!」

「カケル、この梅酒について作り方を是非とも聞いておきたい。これは向こうの世界でも間違いなく流行る。王にレシピを献上し、懇親会などで振舞えば爆発的に広がっていくだろう」


 とまぁ、先程までの様子が嘘のように元気になった四人を見て、俺は満足ですよ。

 ……なんせ、梅酒はまだまだ作ってるからな。

 しかも、今飲ませたのはまだ若い。

 たっぷりしっかり熟成した梅酒だけは渡さねぇ!

 というわけで、気を取り直して調理していくわぞ~。

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