第132話 抜け駆け禁止

 というわけで白身魚のスティックフライ。

 やることは単純、棒状に形成した白身魚を揚げるだけ!

 以上! 終わり! 閉廷!!

 そんなわけで揚げ物はラベンドラさんに丸投げし、俺はタレを作ることに。

 いや、俺よりはるかに料理上手いし。

 使う食材もラベンドラさんの方が馴染みあるだろうし。

 俺が揚げて失敗するより、ラベンドラさんに任せるのが丸いかなぁっって。


「全部私任せでいいのか?」


 なんてラベンドラさんが聞いて来たけど、全然問題なし。

 好きにやっちゃってくだせぇ。

 で、俺はその間にタレ作り。

 と言ってもそんな変な事はしない。

 和風タレのいつものセット、砂糖、塩、醤油、みりん、日本酒、顆粒出汁を水にぶち込み、一煮立ち。

 味見してよく出来てることを確認したら――。

 タレとは別にソースを作りましょ。

 こちら、どうせおかわりする事読みおかわり用味変ソース。

 なんとトマトソースを作っていくわぞ~。

 某番組でうなぎをフライにしてトマトソースかけて丼にしてたんだけど、それを白身フライでやっても結構美味しくてさ。

 たまにこうして洋風感覚で作るようになったんだよね。


「カケル、そっちは何に?」


 揚げ物をしつつこちらを確認していたラベンドラさんから質問が飛んできたから、


「こっちは皆さんのおかわり用ですよ。味が変わった方がいいと思いまして」


 素直に返答。

 なるほど、とか言いながら揚げ物をひっくり返してた。

 そうそう、エルフの耳って結構動くのな。

 揚げ物の音を聞くためか下に垂れたり、俺と話す時には元の高さに戻ったり。

 本人たちに言うと失礼に当たるかもだから口には出さないけど、見てて面白いよ。

 俺が小学生なら『エルフの耳の観察日記』とかを自由研究で出してたね。

 先生には怒られそうだけど。

 まぁそんな話はさておき、缶詰で売られてるカットトマトを鍋にぶちまけ、固形コンソメ、少量の砂糖、ブラックペッパーとぶち込んで。

 ついでにバジルの葉を手でちぎって数枚中へ。

 なんか、手でちぎった方が香りが立つとかなかったっけ?

 知らんけど。


「思えば、米はどんな食事にも合うんかのぅ」

「どうした? 急に?」


 突然のガブロさんの言葉におそらく全員が思ったであろうことをマジャリスさんが代弁してくれた。

 ありがとうマジャリスさん。


「いや、和風じゃなんじゃと言いながら、別にそうでなくとも米を食っとるじゃろ?」

「まぁ、美味いからな」

「じゃが、パンじゃとそうもいくまい?」

「なんとなく言わんとしてる事が分かりましたわ」

「つまり、米いずジャスティスって事か?」

「そうじゃ」


 俺はツッコまない。ツッコまないぞ。

 ……マジャリスさんがあんなこと言うもんか。

 どうせ翻訳魔法の仕業だろう? 許さんぞ?


「とまぁ思い返すだけで、和風には当然として、マヨネーズ、ケチャップ、チーズ、その全てに米が合うように思えてのぅ」

「それで先程の発言、と」

「まぁ、米は割と種類ありますから。……この国の米が色々と特化してはいますけど」


 縄文時代とかからやってるんだっけ? 稲作って。

 その頃からの――遠い遠いご先祖様からの努力の結晶よ。

 俺は何もしてないけど。

 農家の人と、それに関わる人達。

 後は……某農業系アイドルグループにも感謝しなくちゃね。

 ――あのグループなら、ワンチャン異世界に行っても問題なく活躍しそうな気がするのなんでだろうな?

 えー!? この魔物の食材捨てちゃうんですかー!? とか言いながらさ、元気に店を開いてる様子が見える見える。


「カケル、そろそろ揚がるぞ」

「あ、はい。揚がったらこのタレの中にぶち込んじゃってください」


 今回は和風タレを上からかけるんじゃなく、上がったフライを直接タレに沈めてからご飯に乗せるスタイルにした。

 それに伴い、タレも濃くし過ぎないようにしてある。

 タレを吸った衣を噛んだ瞬間のジュワッと感がたまらんよね。


「いい匂いが凄く凄いですわ」

「ああ、凄く凄いな」


 匂いだけで米食うエルフペアの語彙力が死んだ。

 ま、どうせ食べたら復活するやろ。

 ……そうだ、


「そう言えば、さっきの梅酒に漬け込んでた梅があるんですけど、食べます?」

「む、興味深い」

「気になりますわ」

「くれ!!」


 という事で梅酒入りの瓶から梅の実を三つほど取り出しまして。

 三人に餌付け。


「酸味がまろやかで酒の香りが鼻に昇ってくる」

「トロリとした甘さとさわやかな酸味。それに、実の食感が素晴らしいですの」

「酒を飲んだ時ほどじゃないが、それでも酒は感じるのぅ。おやつとかで食いたい代物じゃわい」


 とのこと。

 美味いよねぇ、梅酒作った時の梅って。

 俺小さい頃、隠れて食べてたもん。

 まぁ、中身が減ったらバレバレなわけで、食べては怒られてを繰り返したなぁ。

 甘くとろける味と、ほのかな酸味。

 これらはね、人を狂わすよ。

 狂った俺が言うんだから間違いない。

 さてさて、タレに漬けてた揚げ物もそろそろかなーなんて振り返ったら。

 ――ラベンドラさんの顔がドアップに。


「わぁっ!? びっくりした!!」

「カケル……その」


 どうしたんだろうか? 

 何か失敗でもしたか?


「私にも……梅を」


 食べたかっただけだったみたい。

 はいはい、今取り出しますからね~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る