第29話 閑話 ギルドマスター会議
「急な招集に応じていただき、感謝する」
「珍しいわよね。ギルドマスター会議の緊急招集だなんて」
「ましてや招集者がオズワルドであるし。話題やら騒ぎになったりを嫌うオズワルドがそんな事をするとはのぅ。よっぽど緊急の内容と思える」
ニルラス国・アングラス領・ドムリラ。
商業都市であり、商人や冒険者で賑わうドムリラという町に。
オズワルドを含めた四人のギルドマスターが集結。
各々が副マスターや代役に仕事を任し、この場所へと集まった理由はオズワルドからの緊急招集。
その珍しい出来事に、集まったギルドマスターたちは目を丸くしていた。
「要件を早く言え。ここに居る誰もが暇を持て余しているわけではない」
集まった四人の様相は様々であり。
唯一の統一感として、漂う猛者、あるいは手練れのオーラを纏っている事だろうか。
「早速だが点呼を取る。アングラス領ギルドマスター、オズワルドだ」
「グリスト領のダイアン。ここに」
オズワルドに続き、出席を宣言したのは薄水色のローブを羽織り、濃い紫のとんがり帽を被った老人。
片眼鏡から覗く視線は優しく、皺だらけの顔もどこか優しさに満ちている。
――のだが、その優しさの奥底に何かを隠しているような、そんな雰囲気を持っていた。
「ヴルノース領、カルボスター」
三人目のギルドマスターは全身鎧の騎士。
鎧越しにくぐもった低い声がその場に広がっていく。
圧倒的な威圧感と、重い鎧の動く音。
それが、彼を表す唯一の情報だった。
「レシュラック領のアキナ。居ます居まーす」
最後のギルドマスターはこの場では紅一点の女性。
踊り子のような見た目の軽装に、腰に刺さった二本のダガーが悪目立ちする。
髪を後ろで結んだポニーテールを揺らしながら、進行はよー、と茶々を入れていた。
「ニルラス国所属領の過半数以上の出席を確認。ギルドマスター会議の成立を宣言……と」
「見て分かるんだから省略すりゃいいのに」
「そうもいくかよ。で、早速だが今回の議題だが……」
そこまで言ってオズワルドは資料を三人へ。
三人が受け取り、確認した資料には、『ニンファエア・リリウム』『コンパラリア・マジャリス』『サバウディア・ラベンドラ』『グラナイト・ガブロ』の冒険者としての情報が記載されていた。
「この者たちが……何か?」
片眼鏡の高さを調整しながら資料に目を通したダイアンがオズワルドに尋ねる。
「こいつらは『OP』枠。いわゆる冒険者としての厄介者達なんだが……」
その答えとしてそう言ったオズワルドは、言葉をそこで一旦切り。
静かに深呼吸をし、意を決したように、
「この『OP』を外そうと思っている。これが今日の議題だ」
「断固反対だ! そもそも、『OP』枠に入れる際に入念な調査が行われている。その枠に入った以上、出すことは叶わん!!」
「ん~。アタシはどっちでもいいと思うけど、問題は何を持って『OP』から外すかじゃない? 一応情報見るに、犯罪者ってわけじゃなさそうだし」
「素行不良の内容も我らギルドの緊急要請を蹴り続けたことであるし、意識の改善がみられるならばやぶさかではないかのぅ」
カルボスターが真っ先に反対をしたが、残りのアキナとダイアンはどちらかと言うと賛成より。
もちろんそれは、『OP』枠に入れられた要因が解消されていれば、という前提があってこそだが。
「そいつらから直接の要請があってのこの議題だが、意識の改善はある。今後の招集は可能な限り応じる心構えだそうだ」
「口だけならなんとでも言える!」
「そうじゃのぅ。……こ奴らが『OP』枠から外れたい動機はなんじゃ? この面子じゃ。今のままでも生活に困ることは無かろう」
「そうそう。元一国の軍師にして最高と謳われた転移士のリリウムに、全土に精通すると言われた地図士のマジャリス。貴族最高の宝と言われた料理人ラベンドラに、解体神書のガブロでしょ? なんで冒険者なんてやってるのよって面子じゃん?」
そもそもの疑問として、現状でもやっていけていた四人が、急に『OP』枠からの脱却を願った。
その動機が分からないと言うアキナとダイアン。
相変わらずのカルボスターは一度置き、ここでオズワルドの必殺の策を披露することに。
「それはまぁ、こいつを食ってみてから判断してくれ」
そう言って用意させたのは、先日翔が四人に持たせた生春巻き。
40本作り四人に持たせ、それをオズワルドを含めた五人で等分して8本。
それを半分に切ったうえで、ここに居る四人で等分して一人4つ。
もちろん、翔が持たせたポン酢、マヨネーズ、スイートチリソースも用意されていた。
「これは?」
「へー、奇麗な見た目。……食べ物よね?」
「これを食せと? むぅ……」
物珍し気に見るダイアンとアキナだが、カルボスターは一人唸り。
物凄く渋りながら、ゆっくりと顔を覆っていた兜を脱いだ。
そのままでは食べることが出来なかったからの判断だったが……。
「うっわ、カルボスターの顔、久しぶりに見た」
「別に恥ずかしいものでもないんじゃ。隠す必要もないと思うがのう」
「うるさい。私は気にしているのだ」
その判断をせざるを得なかったことを、カルボスターは唇を噛み締め、オズワルドを睨みつけることで飲み込んだ。
兜の下からは、少しやつれた、だがそれを補って余りある整った顔が現れて。
その頬に、大きな火傷の跡がある以外は、特に目立つところも無かった。
「今の奥さん救うために付いた傷なんでしょ? 名誉の負傷じゃん」
「黙れ! お前に分かるか!? その話が広がり美談となって尾ひれがつきまくり。挙句の果てには演劇の原案にすらなった私の気持ちが!!」
「嫌なら訴えればいいんじゃね? 領主に訴えればとりやめられるだろ、その演劇」
「……領主考案だ」
「あー……」
と、物凄く気まずい雰囲気が流れた後、
「と、とりあえず食ってみてくれ。じゃないと話が進まない」
オズワルドが、皆に生春巻きを食べる用に促した。
内心、
(これで納得させられなかったらお前らは一生『OP』枠なんだからなっ! 頼むぞ!!)
と祈っていたのは、オズワルドだけの秘密である。
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