第28話 お持ち帰り用生春巻き

 まずはボウルに水を張ります。

 絶対に必要です。忘れないでください。

 次に、スーパーで既に完成されているサラダを買って来てください。

 生ハムも忘れず手元に用意。あと、カイワレはマストです。入れましょう。

 最後にメインである茹でたエビダトオモワレルモノをたっぷりと用意します。

 量はあればあるだけいいです。

 それでは、マグマ料理を作っていきます。

 ――ミュージック……スタート!!

 ……と、脳内で筋肉ムキムキマッチョマンが音楽に乗って踊り出したところで。

 生春巻きの皮をボウルに張った水に浸し、戻していく。


「カケル……それは?」


 不思議そうに覗き込んでくるラベンドラさん。

 ふっふっふこれはですね……なんだ?

 いや、生春巻きの皮なんだけど、原材料いず何?

 小麦粉じゃ絶対に無いし、でんぷんとかか?

 ――教えて!! みんなのgo〇gleせんせー!!

 ……ほーん、ライスペーパーなんか。

 言われてみりゃあ確かにそうだわ。

 てかパッケージにモロ記載されてた。

 恥ずかし。


「ライスペーパーと言って、米を原材料に薄く加工したシートですね」


 以上、ネットの説明そのまま。

 いや、でもさ。これ以上言えなくない?

 そういうもんですとしか。


「ふむ。……米を加工か」


 ラベンドラさんが考えこみながらそう呟いた。

 そう言えば……。


「ラベンドラさんて、作り方のメモとか取らないんですね」


 メモの文化が無い可能性もあるけど、まぁエルフですし?

 全部記憶してるんだろうなぁ。憧れちゃうなぁ。


「? 全部記憶魔法に閉じ込めてあるから必要な時に都度引き出せるから必要ないが?」


 もっと上だったわ。

 なんすか記憶魔法って。聞き馴染みのない魔法名なんですけど。


「とりあえず、水に浸して戻したらこれに材料を乗せて包むだけです」


 そう言ってサラダ、生ハム、カイワレにエビ。

 多くなり過ぎないように適量乗せ、キレイに巻いて……っと。

 ハイ完成。ね? 簡単でしょ?

 ……これを――1人十個計算で残り39個。気合入れて作っていきましょう。


「……美しいな」


 出来上がった生春巻きを見て呟くラベンドラさん。

 分かる。

 奇麗だよね、生春巻き。

 エビのオレンジ、生ハムの薄ピンク。

 そこに野菜の緑が合わさって、見た目が楽しいんだよね。


「味見します?」

「する」


 一本ならいいかと思って提案すると、即答で返ってきたよ。

 知ってたけど。


「また先に食おうとしとらんか!?」

「私たちも味見をしたいですわね」

「不平等反対」


 不平等てあんた、ラベンドラさんは料理人じゃろがい。

 料理人に味を覚えてもらう為に味見をさせるのの何がおかしい。

 ……まぁ、そう言われると思って包丁を持ってるんですけど。

 味見なら少量でいいでしょ、って事で、出来たばかりの一本を四等分。

 それぞれに爪楊枝を刺してっと。


「ソース、何がいいです?」

「選べるのか!?」


 まぁ、生春巻きだし。

 基本何つけても美味しいと思うけど。


「候補は?」

「ポン酢とマヨネーズとスイートチリソースですね」


 俺的に生春巻きと言えばこれ。

 ポン酢はさっぱり食べられるし、マヨネーズは合わない料理を探す方が難しい。

 スイートチリはマジで生春巻きの為に産まれたと言っても過言ではない代物。

 つまりこれが生春巻き三銃士ってわけ。


「それぞれ別のを試すという手も……」

「じゃが量が少ないぞい。好みの話もある……」

「まずはソースだけの味見をだな……」


 なんて三人が相談する中、ラベンドラさんは。


「これは匂いで大体わかるしこれも見たことがある。俺はこれだ」


 ポン酢は匂いを嗅ぎ、マヨは過去に説明済み。

 という事で、ノータイムでスイートチリへ。

 たっぷりつけて口に運ぶと……。


「ふむ……。なるほど」


 しっかりたっぷり時間をかけて、他三人が見守る中。


「料理を甘いタレで食べるというのは初めてだが、なかなかイケる。後から僅かにピリリとする辛みがいい。いや、後を引く美味さだなこのソース」


 という感想が。

 気に入ったみたいだね、スイートチリソース。


「わ、ワシはこれにするぞい!!」


 一方ガブロさんは、マヨネーズを選択。

 サンドとかには使ってるし、三つの中では一番口にしてるはずだけども。

 

「…………ん」


 お? ガブロさんにしては珍しい反応。

 いっつもおほー! とか言ってるのに。


「濃厚なコクと酸味が丁度いいぞい。……っ!? 『――』の身と合わさると一層美味さが引き立つわい!!」


 あー……。

 エビマヨ、美味いよね。

 子供から大人まで魅了する美味しさだよね、エビマヨ。


「では私はこちらを」


 リリウムさんはポン酢か。

 それはそれで美味いぞ~。


「……あ。さっぱりしてますのね。程よい酸味と塩気。鼻に抜ける風味は柑橘系でしょうか? そこまで強い味ではなく、素材の味を殺しませんわ」


 うーん、お見事。

 美人の食レポはやっぱり違うな。うん。


「俺もこれだな」


 最後のマジャリスさんはスイートチリへ。

 やっぱり気になっちゃう感じですか?


「んぶっ」


 なんか咳き込みかけてるけど、大丈夫で?


「ラベンドラが甘いと言っていたが、ここまで甘いか。ちょっと想定外だった……」


 ああ、甘さが思ったより強かったのか。

 でも吐き出したりはしてないし、不味くはないんだろうな。


「確かに後から辛みが来るな。だが刺すような辛さじゃない。丸く、ふんわりとした辛さだ」

「美味いよな、このソース」

「ああ。合う料理は選ぶだろうが、合う料理にはとことん合う味をしているように思う」

「全く同意見だ」


 スイートチリソースで味見したエルフ二人が意気投合してるよ。

 別にいいけど。


 ……あ、やっべ。


「チーズ忘れてた」


 言った瞬間睨まれたよ。四人から。

 ちゃ、ちゃんと持ち帰りの分には入れるから。大丈夫だから。

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