第27話 大好評
「んえっふ!! ごっふ!! おっふ!!」
パスタを口に入れ、咀嚼した瞬間。
ガブロさんが咳き込み始めた。
何何? 何事!? エビアレルギーとかか!!?
「ガブロ!? どうした!?」
マジャリスも慌てた様子で聞いてるし、全員の手が止まる。
口に入れかけたパスタを皿に戻し、ガブロさんの一挙手一投足に注目して……。
「すまんすまん。美味過ぎて咽たわい」
全員が安堵のため息をついた。
焦った~。
明らかにマジャリスさんが俺を睨みつけてたからな。
毒になるようなものは入れてないっての。
「昨日のドリアとかいう食べ物も美味かったが、これはさらに上を行くのう」
と、自分が咽たことで場の空気が凍ったというのに、それを気にもせずにそんな事を言うガブロさん。
マジで勘弁してくれ。
というわけで気を取り直し、他の三人もパスタを口へ。
――全員、口に入れた瞬間固まったけど大丈夫か?
「うっま」
ポツリと漏れたのはラベンドラさんの言葉。
けど、リリウムさんとマジャリスさんはまだ固まったままだ。
と、
――パン!!
いきなり、ガブロさんが大きく手を叩いた。
すると、
「えっ!? あっ!」
動き始めるリリウムさん。
マジャリスさんも、
「あ、ああ……」
と再起動。
そしてもう一口食べ……。
「美味し過ぎますわ」
「口の中がずっと美味い……」
と呟いて。
そこから、ほとんど言葉を発さずに食べ始めた。
なんか、こうしてみんな黙々と食べてるの初めてだな。
そんなに上手く出来てたのか。
ならば試してみようという事で俺もようやく食べてみる。
「……うっま」
思わずラベンドラさんと同じ反応しちゃったよ。
いや、マジで美味いわ。
鼻に抜けるニンニクの香り。トマトの酸味と微かな甘み。
それらをまろやかに広げる生クリームとバター。
塩加減も完璧。ブラックペッパーもかなりいい仕事してる。
そして何より、エビがうめぇ。
ソースにたっぷりうま味のスープが染み出してるし、噛む時にもたっぷり溢れてくる。
もっちりとしたパスタ麺と、プツプツプツプツと千切れるエビの繊維の噛み心地。
そしてモシャッとしたエビの食感。
もう全部! 全部が美味い!!
しかも口の中に飲み込んだ後も残るの!! それが!!
マジャリスさんが言ってた口の中がずっと美味いって感想に全面同意。
完全可決の否決無し。
「これ、王都で食べたレストランでもこんな美味いものは無かったぞ……」
と、呆然としながらラベンドラさんが言うと。
「ワシも何度か王都に足を運んだが、ここまでの食事は記憶にないわい」
ガブロさんも乗っかってきて。
「王都で食事をするとなると、それだけで大変な出費になりますわ。それに、使われる材料も高価なモンスターの肉ばかりでしょう?」
「『――』の身をここまで美味く仕上げるとなると、それこそ貴族お抱えの料理人か、王城の料理人くらいだろう」
「その辺どうなんじゃ? ラベンドラ」
リリウムさんとマジャリスさんが続いたかと思えば、ガブロさんが突然ラベンドラさんに話を振った。
「無茶を言うな。こんな美味い料理を知っていれば、俺は今頃ここには居ないだろう」
首を振りながらそう言うラベンドラさん。
……? もしかしてラベンドラさん、元貴族のお抱え料理人か王城の料理人だったの?
「だが、この料理を知れたのはデカい。材料も、ドリアを作るよりは揃えやすそうだ」
「なんじゃと!?」
「つまり……?」
「向こうでもこの料理が食えると?」
「完全再現は無理だ。いくつか向こうでは揃わない材料がある」
元の世界に戻ってもエビのトマトクリームパスタを食べれると知り、声が大きくなる三人。
だが、ラベンドラさんはその三人を抑えると、
「ただし、八割は再現可能だ。俺の腕に誓って、そこまでは持っていける」
と強く主張。
その反応を見た三人は、
「八割なら十分ではないです? むしろ、そこまで再現出来れば各地のレストランから引き抜きの声が上がりませんこと?」
「レシピの公開は強く迫られるじゃろうな。いくらの値を付ける気じゃ?」
「待て。全てを公開するなよ? 味の決め手となる部分だけは絶対に隠し通せ」
鬼気迫る勢いでそう言って。
「任せておけ。元よりそう言う動きは得意だ。戻ったら、まずはオズワルドに食わせて仰天させよう」
それを受けたラベンドラさんは、クッソ似合う悪い顔に。
なんだろうね。イケメンって悪だくみしてる顔似合うよね。
眼鏡クイッ、とか。
「あっという間に無くなってしまうわい」
なんて言ってる間に食べ終えそうになるガブロさんが残念そうな声を上げる。
無くなってしまうも何も、食わなきゃ無くならねぇんすわ。
それだけちゃんと食べたんでしょ。あなた。
「今日の飯は衝撃的だった。またこのような食事を頼む」
なお、こっちはすっかり完食したマジャリスさん。
ガブロさんより食べ始めるの遅かったのに、いつの間にか追い抜いてるや。
「どのような料理でも私達には新鮮で新しいものですもの。どんな料理でも喜んで食しますわ」
リリウムさんもすっかり完食。
いやぁ、奇麗に食べてもらえるって気持ちいいね。
「カケル。今回は知見を広げてくれて感謝の極みだ。また、よろしく頼む」
ラベンドラさんには手を取られてそんな事言われるしね。
これ、俺が女だったら惚れてたよ?
褐色イケメンエルフが手を取って目を見ながらそんなこと言うなんて。
ていうか危なかった。もう少しで心がメスになるところだった。
俺の心の中の夢女が目覚めかけてたわ。
「ふぅ。満足じゃわい」
最後に残ったエビの身をフォークに刺し。
さらに残ったソースをかき集め、口に放り込んだガブロさんがそう言って、全員完食。
満足そうな笑顔の四人にお土産を持たせるべく。
そして、俺の明日の朝ご飯を作るべく。
俺は、皿を片付け、台所に立つのだった。
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