第240話 焼くのはもちろん
「なるほど。この間の焼き肉のように、自分で好きな部位を好きなように焼くというわけか」
「まぁ、大体そんな感じですね」
魔法陣を通ってきたラベンドラさんに、鉄板焼きの概要説明。
ま、変なようには作らんだろ、これで。
「にしても、ダンジョンの方も順調そうですね」
「お、分かるか?」
衣服に汚れや破れが無いから聞いてみたら、マジャリスさんが得意そうに言って来た。
「あなたが得意な顔をする事でもないでしょう? カケルが持たせてくれたワインのおかげですわよ」
「そうじゃぞ。神の加護が無ければ今頃また装備がボロボロになっとるところじゃわい」
「神様の加護って、そんなに強いんですか?」
こう、ゲーム好きとしては気になるよね? 神の加護。
まぁ、神って付いてるぐらいだし、効果は高いんだろうけど……。
異世界の神様の凄さって知らないから、どんなもんか想像つかんのよな。
「単純なステータスの強化もあるが、一番は自然治癒力の向上だな」
「ですわね。普段とは比べ物にならないくらいの速度で魔力が回復しますもの」
「おかげで連戦が容易にこなせる」
「武器の消耗無しもだいぶデカい効果じゃがな」
あー……うん。
これあれだ。文字通り神様の加護だわ。
正確には、神様以外に認められないであろう加護って感じ。
武器の消耗が無くなるってのは、ゲームによってはあるかもだけど……。
自然治癒力向上……果たしてどれくらいの効果なのやら。
ほぼ魔力無限と思ってるリリウムさんが一番効果を実感してそうな口ぶりだったし、マジでとんでもない速度で回復してるんじゃなかろうか。
「よし、温まったようだな」
で、何をしていたかというとホットプレートの加熱待ち……ではなく。
外にて、バーベキューセットの準備をしてました。
……主にエルフ三人が。
だって、魔法で道具浮かせて用意しちゃうんだもん。何を手伝えってんだ。
「で、焼くのはわしなんじゃろ?」
「そうだが?」
「違うのか?」
で、用意が出来て、炭に火が付いたバーベキューセットの前にガブロさんが押されていって。
「はぁ。まあいいわい。全員、希望する厚みを」
「指二本」
「同じく指二本だ」
ため息をつきながらも、ガブロさんが肉の厚みの希望を取ると、マジャリスさんとラベンドラさんが即答。
……指二本?
って思ってたら、ガブロさんは人差し指と中指を揃えて肉の塊を指差して……。
その二本の厚みで、どこからか取り出した刀で肉をカット。
――ってちょっと待て! 色々と待って!! 刀!!?
「ちょ、ガブロさん!? その刀なんです!?」
「なんですって、前に言ったじゃろ? わしらの世界で再現したって」
……言ってたっけ? ――言ってたわ。
アレだ、再現したら性能が良すぎて王へ献上がどうたら~みたいな。
忘れてたよ、すっかり。
「ほら、リリウムとカケルも希望を言わんか」
で、二人分の肉を切り出したあと、俺とリリウムさんに向き直り、そう尋ねてきて。
……これって、二人みたく指の本数とかで答えるんかな?
俺、普通にミリメートルとかセンチメートルで答えたいんだけど……。
ま、まぁ、最初だしエルフ達に従っておくか。
「じゃあ、指一本で」
「薄くないか?」
「肉感が弱くなる気がするが……」
うん、お気遣いありがとうね。
ただね、この世界だとデリシャスビーフイッシュみたいな脂の入った肉は、指一本の幅でも十分ぶ厚いんよ。
何なら、普通にグラム換算だと凄い重さになるからね?
それこそ、高級な鉄板焼きのお店とかで食べたら、肉だけで五桁行くぞ。
……いや、知らんけど。
「まぁ、カケルの意見は尊重すべきじゃて。……それで? リリウムは?」
で、一向に希望の厚さを言わないリリウムさんは、どうやら考え込んでいたようで……。
「とりあえず、指三本でお願いしますわ。控えめに」
考えがまとまったか、そんな言葉をガブロさんへ。
控えてない、控えてない。
*
「ほー……焼き方にも色々種類があるんじゃな」
「これが一般的ってわけじゃあないですけどね」
焼いてる途中、俺が肉を薄く注文したのが不思議だったらしく、この世界の鉄板焼き……ひいてはステーキに関する知識を要求されまして。
ステーキ、焼き方、で検索した動画をガブロさんに視聴させてた。
異世界だとウェルダンないし、ミディアムより少し焼くくらいが一般的らしい。
中までしっかりと火を通すのが普通なのだとか。
「これだけ中の肉が赤いと、食べるのに躊躇しそうだが……」
「それが許される程、この世界のお肉は安全という事でしょう。大変凄い事だと思いますわ」
「人によって好みの焼き方が違う。言われてみれば確かにとなる事だが、案外気が付かないものだ」
「この世界は他者に配慮する気持ちが溢れとると思うぞい」
凄いよね。肉の焼き方一つでこんな話になるんだぜ?
現代人には無い視点だと思っちゃうわ。
「まぁ、この焼き方を踏まえた上で聞くが、ウェルダンでよいな?」
「もちろん」
「少なくとも、この肉を焼く上では変えるつもりは無いな」
「同じくですわ」
「俺はガブロさんにお任せしますよ」
で、まぁ今すぐにはもちろん流されないっと。
今度レアでも美味しく食べられる国産の黒毛和牛でもご馳走しますか。
助けて姉えも~ん。
「よし、そんじゃあ焼けるまでもう少し待っとれ」
というガブロさんの言葉通り、焼き上がるのはもう少しだけ後の事である。
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