第241話 お好みステーキソース

「……まだですの?」

「自分で決めたぶ厚さじゃろうが。辛抱せんか」


 えー……うん。

 本人曰く控えめだったらしいリリウムさんだけど、肉の厚さはそのまま焼けるまでに必要な時間に関係するわけで。

 俺のが最初に焼き上がり、ついで男エルフ二人のが焼き上がり。

 現状、リリウムさんのが焼けるの待ち。

 ちなみにガブロさんも指二本のぶ厚さでした。

 てなわけで一人待たされてるリリウムさんなんだけど……。


「もういいですわ」


 とため息をつき、何やら指を振ること三回。


「焼けましたわ」

「はぁ……。魔法で焼くと味が落ちるぞい……」


 ――ええと……。

 焼けるのが待てずに自分で焼いた?

 しかも肉の中だけを?

 魔法で?

 ……よく分からんけど、無駄に高等技術な気がする。

 あと魔法で焼くと味が落ちるって何? どんな原理?


「このまま待ちぼうけを食らうよりマシですもの」

「それで? そこに用意されたソースの数々は?」

「もちろん、ステーキにかける用ですよ。結構用意したんでお好みの物をどうぞ」

「こっちの野菜は?」

「ステーキの合間に焼く野菜です。あとはお米とソースともろもろでガーリックライスなんかもお願い出来ると……」

「任せんかい」


 てな感じで今日の食事の概要が伝え終わったところで。

 早速実食と参りましょう!!


「これが気になった」


 マジャリスさんが最初に取ったソースはレモンバターソース。

 レモンの酸味とバターのコクは、はたしてマジャリスさんに受けるのかどうか。


「私はこれですわ」


 リリウムさんはオーソドックスなステーキソースに手を伸ばす。

 デミグラスベースの奴で、こんなん肉に合わないはずが無いからね。

 間違いないだろう。


「ふむ。楽しみだ」


 ラベンドラさんは和風の醤油ソース大根おろし入り。

 他と比べてさっぱり目なこのソースは一度覚えたら病みつきよ。


「そいじゃあこれじゃな」


 で、ガブロさんが醤油ベースのガーリックソース。

 なんだろうな、何故だかドワーフってニンニクのイメージあるな。

 俺だけ? 俺だけかも。

 ……んでまぁ、俺はというと……。


「カケル? それは……?」

「? ワサビですけど?」

「それだけで食べるのか?」

「まさか。醤油も使いますよ?」


 わさび醤油でいただきます。

 一度やりたかったんだよね。高い肉をわさび醤油で食べるの。

 俺が思い描いてた肉より火は通ってるけど、デリシャスビーフイッシュだし、絶対に美味い。

 というか、焼き肉でも証明されたわけで。


「じゃあ、いただきます」


 それぞれが思い思いのソースを使い、いざ! 実食!!


「むぉっ!?」

「なんと!!?」

「これは……」

「ん~~~!!!」

「これやっば……」


 最初の一口を頬張り、噛んだ瞬間。

 全員の口からそれぞれ異なる、けれど同じ意味の言葉が放たれて。


「「美味い!!」」


 一切飾りのない、三文字の言葉が発せられた。


「強烈な肉のうま味もさることながら、肉の脂に負けない酸味とコクのこのソースは筆舌に尽くしがたい!!」


 バターソースがどうやらストライクだったらしいマジャリスさん。

 筆舌とか初めて聞いたレベルなんだが?


「肉とソースと共にガツンとぶん殴られたような衝撃を残す美味さじゃわい!! 肉も、ソースも、それぞれがそれぞれとぶつかりながらも打ち消し合うことなく良さを発揮しあっとる!!」


 続いて醤油ガーリックソースのガブロさん。

 なんかいつもよりテンション高くない? 気のせい?


「このソース! 凄く凄くて!! あの! とても美味しいんです!! 非常に!!」


 んで、ステーキソースのリリウムさんなんだけど、ちょっとどこかに語彙力落としちゃってますね?

 足元とか探しました? 落ちてたりするかもしれませんよ?


「脂のくどさや匂いをサッパリとさせ、どころか次への一口に期待を高まらせるようなソース……。美味い」


 いつも通り落ち着いてるラベンドラさんを見ると落ち着くよ。

 ――魔法で浮いてさえなければ。

 浮くな。現代で。というか安易に魔法を使うな。


「カケル」

「はい?」

「カケルの食べた、ワサビと醤油の組み合わせはどうだった?」

「めちゃめちゃ美味かったです。えーっと……」


 どうしよう、これ、食レポ求められてるよね?

 四人ほど上手く伝えられるか不安なんだけど……。


「まずワサビのツンとくる刺激なんですけど、あれが肉の脂によってほとんどないんです。もちろん多少はあるんですけど、全然気にならない範囲で」

「ほうほう」

「で、肉の脂の方は今度はワサビの香りでかき消されてて、全然口の中に脂っぽさが残らなくて」

「なるほど」

「醤油のちょっと尖った塩味と、まろやかな風味。ワサビの風味も合わさって、肉の美味さに寄り添う感じで……」

「美味そうじゃな」

「いや、びっくりしました。マジで美味しかったです」


 ボク、頑張った。

 四人ともめっちゃ爛々と目を輝かせてワサビ見てるし。

 ……ちなみに俺が初手わさび醤油にした理由がちゃんとあって。

 わさび醤油なら一切れずつをそれで食べられるじゃん?

 他のソースだと、どうしても一切れだけじゃあなくなっちゃいそうでね。

 四人みたく多く食べられないし、俺なりに色んな味のバリエーションを楽しむための工夫って事。


「ガブロ! 米が欲しい!! ガーリックライスを!!」

「野菜も焼いてくれ!」

「ところでカケル? このような美味しいお肉にはやっぱりワインが合うと思うのですけれど……」

「あ、はい。と思って買って来てあります」


 そう言うと思ってね。

 この間神様に献上して四人は飲めなかったやつ、また買って来てありますよ?

 ……ワインってハマると結構お金飛んでくね。

 確実にそれ以上の食材を貰ってるからいいんだけど。

 あと、姉貴運送が定期的になんやらかんやら送ってきてくれるから、そこにちょいとワインを差し込んでみたりして。

 というわけで本日のワイン! サリーチェサレンティーノとちょっと飲みたくなって個人的に買って来たランブルスコのロゼ。

 こちらを楽しんでいきましょー!

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