第236話 0%0%0%
「待ってました!!」
「やんややんや」
鍋とカセットコンロを片付け、冷蔵庫からケーキを取り出したら。
マジャリスさんを筆頭にエルフ達が騒ぎ始めた。
ただ、最初の一つ――ショートケーキを取り出したあと、ガトーショコラを取り出したら騒ぐ声が急に静かになって。
ザッハトルテを取り出したら、何やら後ろでひそひそと会話をしだし、オペラを取り出すころには全員静かどころか沈黙し、テーブルの上に並べられたケーキをじっと見つめている状態。
……どうした? 思ってた反応と違うんだが……。
「カケル? これらは私たちの分なのだな?」
うん? なんでそんな当たり前のことを聞くの?
じゃないと並べないでしょ?
「ですよ? ……どうかしました?」
「いや……、このようなクオリティのケーキを、このような種類も用意させてしまったのかと――」
……なるほどな?
今までが全部俺の手作りだったから、今回も全部俺が作ったと思ってるのか。
で、ラベンドラさんは料理する人だから、その手間だったりを理解して申し訳ない気持ちになっていると。
やらんて。そんな面倒な事。
ちゃんとお店で買ってきたものですよ。
「申し訳ないんですけど、今日は俺が作ったわけじゃないんですよ」
「……という事は?」
「専門店で買ってきたものです」
というか、ケーキの上に買ってきた店のロゴ入りチョコが乗ってるでしょ?
俺がこんな事出来るわけないじゃない。
「……そ、そうか」
「ですです。あ、ちなみにどれが誰のとか無いんで、どれを食べるかは話し合いで……」
と言うと、四人の顔が一斉にこっちを向いた。
……えっと?
「私たちはこのケーキの特徴を知りませんの。それを知らないと、決められるものも決められませんわ」
「全部チョコを使ったものだというのは分かるんだが……それ以上は」
ははーん。解説が欲しい、と。
いいだろう。この欲しがりさんめ。
「えっと、まず一番オーソドックスなショートケーキです。クリームやスポンジにチョコが混ぜられてて、挟んであったり上に乗ってる苺の酸味とチョコの甘みが絶妙ですね」
「「ごくり」」
「で、次はガトーショコラです。このケーキはもうチョコメインで作られてて、ずっしりとしたチョコの重量感や濃厚な味、風味、コクが楽しめる一品ですね」
「「ごくり」」
「こちらがザッハトルテで、ある程度まではショートケーキと同じですけど、挟んであるものが違うのと、甘さが抑えられて苦みがあるチョコを使ってるので、マジャリスさんはあまり好まないかもしれません」
「そ、そんな事は無いぞ!」
「「ごくり」」
「最後にオペラですね。材料で層を作ってチョコでコーティングしたもので、色んな味が楽しめると思います」
「「ごくり」」
お前ら唾飲み込んでばっかやないか。
ま、ま、ええわ。今回だけは許したる。
「で、それぞれどれがいいかを決めていただいて――」
「俺はこれがいい!!」
俺の話の途中で、遮ってまでマジャリスさんが手にしたのは……。
ガトーショコラだった。
俺の想定対象と違う……だと。
「では、私はこれがいいですわ」
と、その後にリリウムさんが手を伸ばしたのはオペラ。
まぁ、こっちは何となくイメージには合うな。想定対象は違うけど。
「では私はこれだ」
で、ショートケーキとザッハトルテ、残った二つからラベンドラさんが選んだのは……。
ショートケーキ。翔……ポンコツっ!! 的中率――驚異の0%!!!
「ならわしはこれか」
で、残ったザッハトルテがガブロさんの手元に。
「あ、ちなみに飲み物は紅茶でよろしいです?」
「コーヒーじゃないんかい?」
「でもいいんですけど、姉が上質な紅茶を送ってきたんですよ」
と言うと、一瞬の沈黙。
そして、あ、そう言えば居たな、姉。みたいな表情の三人。
リリウムさんだけはそんな表情してなかったって事は、忘れていなかったのだろう。
「おったのう……」
「毎日が衝撃の連続なせいですっかり忘れていた……」
「あの宝石商とか言う奴か」
だとさ。
こう、弟の俺が言うのもなんだけど、結構キャラが濃いと思うんだけどな、俺の姉貴。
忘れられるか? って思うんだけど、エルフやドワーフだしなぁ。
あまり人間に興味ないのかもしれん。興味ないというか、覚える気が無いというか。
こう、長く生きてる都合上、顔を覚えても確実に自分より先に亡くなるわけで。
顔とかじゃなく、別のところで記憶や認識してる可能性すらあるな。
リリウムさんはそうじゃないみたいだけども。
「リリウムさんは覚えてるんですか? 俺の姉の事」
でまぁ、気になったから聞いてみたらさ。
「もちろんですわ。定期的に宝石を送っていますし」
だってさ。
なお、俺よりも他三人の方が驚いてたもよう。
一気にリリウムさんの方を向いたもんね。
「あら、そんなに不思議な事ですの? 一度カケルを介するより、本人に直接送ってしまった方が効率的でしょう?」
「いや、それはそうだが……」
「どうやって居場所を特定している?」
「どうやって、と言われましても……。私の髪を編んだ束を持たせているだけですのよ? 私の残滓がある限り特定は容易ですし……」
あー……うん。
色々と聞かないことにしよう。
ハイエルフの髪で編んだ束も、それを持ってる姉貴もあまり想像したくない。
と言うわけで俺は、四人を意識から無理やり外し、ケトルでお湯を沸かしながら、キーマンの美味しい淹れ方をスマホで検索するのだった。
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