第235話 すき焼きと言えば
「ネギが……美味い」
「タレの染み込んだ豆腐が美味しいですわ」
「キノコ類も格別の美味さじゃぞ」
「春菊の香りは目を見張るものがある」
肉を味わい、米を食らい。
現在は、しっかりとタレの染み込んだ野菜たちに舌鼓を打ってる所。
ちなみに、鍋から直箸で取るわけじゃあなく、ちゃんとお玉で自分の取りたい食材たちを掬って小皿に取ってました。
最初の肉の時は、お腹がすいていたのと、まだ口を付けてないから、という理由で直箸だったっぽいね。
「肉に合わせたタレだと思ったが……野菜にも抜群に合うな」
「卵が絡んだ野菜も美味しいですわね」
「具材になってる野菜たちもしっかりと美味いのが凄いわい」
「シイタケが美味い……」
分かる。
子供のころはさ、すき焼きでも肉ばっか食べてた記憶があるのよ。
でも、大人になった今じゃあ具材買う時も肉より野菜を多く買っちゃうようになったんだよな。
肉厚で噛むと割り下がジュワッと出てくるシイタケ……。
シャキシャキで美味しいエノキと、味がしっかり強いシメジらキノコ類。
割り下をしっかりと纏った白菜の葉の部分も美味しいし、白菜の甘みが強い葉脈っていうの?
あの白い部分も好き。
ネギは長く煮込まれて中身がトロトロになったのが抜群に美味いし、何と言っても春菊ですよ。
すき焼きは春菊を食べるための料理といっても過言ではない。
……過言か。
でも、それだけ美味いんだよなぁ。
「肉を入れよう」
「ですわね」
「タレが熱されているから、タレに潜らせるだけで食べられるぞ」
「むほほい楽しみじゃわい!!」
……なるほど?
確かに鍋には割り下が既に入ってるし、その割り下は弱火だろうがずっと熱されているわけで。
そこに薄切り肉を入れれば、しゃぶしゃぶよろしくいただけるのか。
絶対美味いじゃん! 俺も俺も!!
「……野菜のエキスがたっぷり入ったタレに潜らせた肉――」
「不味いはずがありませんわね」
「薄く切られているからか、タレに潜らせると余分な脂が抜けて美味い」
「その脂は野菜たちが吸って美味さに変えるんじゃろ? 無駄のない料理じゃわい」
「あ、うま」
四人に遅れるように割り下でしゃぶしゃぶした肉を、たっぷり卵に浸し。
一度ご飯にバウンドさせ、口の中へ。
途端に広がる肉汁と割り下の幸せな洪水の中、バウンドさせて色の変わったご飯を掻っ込む。
……この為に生きてるんだなぁ。
「ガブロ、それは私が狙っていたシイタケだぞ!」
「何を言うか! これはわしが育てたシイタケじゃわい!!」
「マジャリス? 先ほどから春菊ばかり食べすぎですわ」
「リリウムこそ豆腐を独り占めしていただろうが」
あ、喧嘩はやめてもろて。
楽しく美味しく食べましょうぜ。
*
「ふぅ……満足」
「とても美味しかったですわ」
「次はいよいよデザートか」
「今日は何が出されるかのぅ」
鍋の具材はすっかり食べきり、中には割り下が残るだけ。
さて、日本人なら分かる事だけど、鍋の具を食べたからといって終わりな訳……ないよなぁ!?
何を勘違いしてるんだ? まだ鍋の食事フェイズは終了してないぜ!!
ドロー!! うどん!!
こいつを鍋の中に入れることで、鍋に残った割り下すらも美味しく完食することが出来る!
「? カケル、その手に持っている物が今日のデザートか?」
「ただの白い麺に見えるのですけど……」
「いえいえ、これはデザートじゃなくてですね」
こうします、と言って、袋売りされてるうどん麺を鍋の中に。
そうしてゆっくりじっくり、うどん麺が割り下を吸うまで煮込みまして……。
「肉や野菜から出たエキスがたっぷり入った割り下。その割り下をこれでもかと吸ったうどんがこの鍋のシメです」
うどんすき、ここに完成。
これを食わずして何がすき焼きか。
……ちなみに雑炊でも可。何なら、俺は一人ですき焼きした時は、残った割り下を水で伸ばしてカレールゥを入れたりまでする。
美味しいよ、シメカレー。
「エキスをたっぷり吸った……」
「うどん……」
ゴクリ、と唾を飲みこんだのを確認し、それぞれのお皿に取り分けてあげると。
そりゃあもう、よーいドンで食べ始められましたわ。
ラベンドラさんを除いて。
「カケル、それを見せてくれ」
何かと思ったらうどん麺の袋を読みたいとのこと。
……そう言えば、うどん初見だっけ?
んでも今、ガブロさんはうどんって呟いたような……。
ま、大方白い幅広麺みたいに言ったのを、うどんと翻訳してくれたんだろうな。
ありがとう、翻訳魔法さん。
「小麦粉と水と塩……のみ?」
こちら、うどん麺の材料を見て驚愕するラベンドラさんです。
だけって事は無いと思うよ? メインはそれらだろうけども。
「たっぷりとタレを吸ったうどん麺が美味いぞーい!!」
「最高ですわ~!!」
「パスタとは違う、モチモチとした食感の麺だ」
先に食べてる三人の感想を聞いて、ラベンドラさんもうどんに手を伸ばす。
「……美味い」
まじまじとうどん麺を箸で持ち上げ、見つめながらそう呟いて。
そうして、一気に取り分けられたうどんをすすっていく。
ちなみに、ちゃんと卵を絡めていただきました。
もちろん俺もね。
肉が美味かったのもあり、記憶の中でも上位に位置する美味しさだったな、今日のうどんすき。
またすき焼きをしたくなった時に、このデリシャスビーフイッシュを持って来てくれないものだろうか……。
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