第207話 初めての和スイーツ
ミルク餅にきな粉と黒蜜をたっぷりと。
それを全員に提供すると、見たことないビジュアルだったのかみんな目を丸くしてた。
「カケル……これは?」
「バカデk……あの果汁を柔らかく固めたものに、豆の粉末と砂糖を煮詰めたものをかけたものですね」
一瞬きな粉と黒蜜の説明に戸惑ったけど、まぁ大体こんなもんでしょ。
「豆の粉末……」
「ですです。えーっと、みそ汁の原料にも使われてる豆だったりしますよ?」
「というと、この粉はしょっぱいんか?」
「いえ、甘い味付けですね」
「???」
いや、そんな宇宙猫みたいな顔せんでも。
きな粉がしょっぱいわけないだろ!
……別にしょっぱくていけそうだけども。
何なら、探せばしょっぱいきな粉とかありそうだけども。
「えーっと、この粉の原料の豆って、俺らの世界じゃかなり加工されて使われてまして……」
「なるほど。加工の一つがこの粉であり、さらに別の一つがみそ汁となるわけか」
「ですです。他には豆腐だったり、厚揚げ、油揚げ、あ、醤油もこの豆から出来ますね」
「……?」
理解出来ない顔してて草。
確かに、俺からしてもこんだけ加工品になってるんだーって気持ちはあるけども。
そう言えば、大豆ミートなんてのもあったな? 伝えとくか。
「あと、最近だと肉にもなるみたいですよ?」
「……魔法?」
科学です。
というか、大豆を肉にするのは魔法ではなく錬金術では?
「とにかく、デザートに最適な味になってるんで試してみてください」
これ以上話を続けたら、俺の知らないところまで聞いてきそうだし。
強引に切り替えて、ミルク餅を食べるように誘導っと。
「じゃ、じゃあ、早速……」
とまぁ、最初はきな粉も黒蜜も可能な限り落として、純粋なミルク餅だけを味わう四人。
しまったな。こうなるならきな粉も黒蜜もあとがけにしとくべきだった。
「スッキリした風味と優しい甘さだ」
「もっちりとした食感が優しさに拍車をかけていますわね」
「噛むとモチモチだが、舌や口内に当たる感触はプルプルしている」
「何ともホッとする味じゃのう」
という言葉を聞いて、ふと思い立って席を立つ。
まぁ、ケトルでお湯を沸かして戻って来るんですけど。
「どこに行ってたんじゃ?」
「お茶を淹れようと思いまして」
俺の言葉に首を傾げる四人だけど、俺がいれようとしているのは緑茶である。
こう、やっぱり和風デザートには苦いお茶が合うじゃない?
ってなったら淹れるしかないじゃんって話。
ちなみに淹れる緑茶はスーパーで売ってる値の張らない奴。
緑茶も、高いのって本当に高いからね。
色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でトドメ刺す、なんて歌になってる静岡茶、宇治茶、狭山茶は言わずもがな。
知覧も有名だし、八女茶なんてのもある。
たかがお茶、と思うなかれ。
本当に高級なお茶は、飲んだ瞬間の満足感が段違いだ。
マジで飲んだ瞬間に溜息出て、一気に和みの空気を纏う気がする。
……一回しか飲んだことないけど。
「それにしてもカケル!! この黒蜜は美味いな!!」
テンション高いっすねマジャリスさん。
あと、なんでリリウムさんはヘドバンしてらっしゃるので?
そんなに美味しかった?
「かば焼きの濃厚な味をかき消しつつ、舌の奥へと届く甘さが素晴らしいですわぁ!!」
「きな粉の風味もいい。香ばしく、そして、優しい」
「これ単体でも美味かったが、こうしてきな粉と黒蜜をかけると、これで完成という感じになるわい」
「きな粉と黒蜜のコンボは定番ですね」
信玄餅、あるいは筑紫餅とかのわらび餅系とかね。
そういや、水信玄餅なんてのもあったな。
「濃厚な味の後でもしっかりと味わえるデザート……勉強になる」
あ、そろそろお湯が沸きそう。
またまた失礼しましてっと。
湯呑にお茶を注ぎ、お盆に乗せて。
「お茶お持ちしましたー」
「おお! 助かるわい!」
もう春になったといっても、これがまた夜は肌寒い。
淹れたての熱いお茶が、まだまだ美味しい時期ですわよ。
「? いつものお茶と違うな」
「このデザートに合うお茶を淹れてきました」
「なるほど? 早速いただきますわ!!」
と言って優雅に湯呑取って飲み始めるリリウムさん。
うわっ! あっち!! とかマジャリスさんが言ってた気がするけど気にしない気にしない。
というか、エルフもドワーフも熱耐性あるんじゃなかったんかい。
どんだけ油断してんだ。
「さっぱりとした味と苦み、渋みのバランスがいい」
「飲みやすい上に口の中の甘さを全部流してくれるのう」
「鼻に抜ける独特の風味がたまりませんわね。何と言うか、リフレッシュ出来る感覚ですわ」
「あ、美味い」
最後の美味いはマジャリスさんだな。
一人熱がってて飲むの遅れたから。
にしても、日本茶――緑茶が受け入れて貰えてよかった。
……受け入れられなかったら戦争だったわ。
「このデザートと、このお茶。とても落ち着く組み合わせですわね」
「心安らぐ、という表現がピッタリくる」
「ダンジョン内での喧噪を忘れられる気がするのう」
と、チルし始める三人。
良かった良かった。
……え? マジャリスさん?
「カケル、このデザートのお代わりはないか?」
平常運転ですよ?
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