第206話 色々と破壊的な味

 まずは豪快に、身を挟んで大きく一口!!

 ……――っ!?

 タレが……身の中まで浸透してやがる!!

 噛むと溢れるタレと、そのタレをも押し返して前に出てくる身のうま味!

 ふんわり柔らかい身は歯に当たっただけで抵抗なく解れていくし、そこに魚特有の臭さとかも無い。

 というかこれが蛇? 流石にダウトじゃろ。

 こんなの、国産の高級鰻のさらに上みたいなレベルなんだが?


「うっま」


 一通り堪能してようやく出た一言は、もう語彙力さんがさようならした後なんだよなぁ。

 凄く凄い美味しかった。


「……」

「美味いな」

「すこぶる美味しいですわね」

「存外に美味いぞい」


 あの四人すら感想が美味いしか言ってない辺り、このウマイウナギマガイのかば焼きの美味さを物語ってるよね。


「魔法で焼いた時にはこうふっくらとは仕上がらなかった……」

「炭で焼いたからじゃろうな」

「炭の風味も付いて、とても美味しく感じられますわぁ!」


 で、炭で焼いたことを評価されたよ。

 やっぱりね、鰻は炭で焼くに限る。

 匂いや煙が凄くて、家では中々出来ないけど。

 あ、そうだ。


「これ、この料理に合う調味料なので、お好みにあわせてどうぞ」


 自分でしっかりと使ってから、山椒を渡しました。

 やっぱかば焼きと言ったら山椒よ。

 あの風味とピリリと来る刺激が鰻の身とすこぶる合う。

 山椒無くして鰻は食えず、これ、俺の言葉ね。


「ふぅむ……」

「まずは少量かけて……」

「むぉっ!? あ、合う!! 合い過ぎるぞい!!」

「ガブロ!! 一人でそんなに使うな!! 俺の分も残しておけ!!!」


 山椒の奪い合いになってるけど、おら知らね。

 というわけでお次はタレと脂をしっかりと吸ったご飯と一緒に身をパクリ。

 当然、山椒もかかっておりまする。

 ……んで、俺はこの時初めて知った。

 ――うな丼って……飲み物だったんだって。

 いやだってさ! 口に入れた瞬間身が解れて肉汁が溢れるでしょ!?

 それらがご飯粒を包み込んでコーティングするでしょ!?

 そしたらもう流動食よ!? しっとり、さっぱりした脂と濃厚でコクのあるタレ。

 そこに山椒の香りと刺激、で最後に遅刻気味なご飯の甘さ。

 こんなの、飲み込むに決まってるじゃん。

 この味のガム出してくれねぇかな。無限に噛んでられるんだけど。


「瑞々しい漬物が口内のリフレッシュに一役買う」

「その後に頂くスープの優しい味ときたら……」

「そしてかば焼きの暴力的な味に押しつぶされる感覚……」

「このタレ、何とかして再現出来んか? このタレのレシピだけで一生食ってけるぞい?」


 前もそんな話してた気がするなぁ。

 ただ、タレに骨とか使うからって躊躇ってたような……。


「……無理だろう」

「?」

「このレシピは公表したところで、冒険者ギルドに握りつぶされる」

「それはまたどうしてですの?」

「材料が高価すぎる。しかも、使う材料には武器や防具に重宝する素材も含まれる」

「……なるほどな」


 ははーん、読めたぞ?

 つまり、他の冒険者が防具や武器を作ろうとしてる素材を奪ってまでタレを作ろうとするのをギルドが止めるって事だな?

 冒険者からしたら、このタレが無くても死にはしないけど、武器や防具はそのまま死活問題に直結するから、だったらギルドがどっちの肩を持つかは明白って事か。

 そりゃあ俺だって、


「あんたの仕事に使う道具、美味しい料理の素材に使ったよ」


 とか言われたらぶちぎれる。

 飯と仕事を天秤にかけるんじゃねぇ!! ってさ。

 ああいや、別に安定供給されるようなのなら使っても構わないんだけど。

 ラベンドラさんの口ぶり的に、結構な魔物の素材がいるんでしょう?

 某狩りゲーで、竜の骨髄を使って村人の食事情を解決しよう! 的なクエスト出たら絶対渋る。

 それこそ、最上位帯になるまで放置すると思う。


「じゃあ、この料理が味わえるのはカケルの所でだけか」

「まぁ、たまにであれば作ってやれるが」

「十分ですわ!! 是非とも!! 向こうの世界でもこの味を!!」

「ラベンドラ! 俺は今猛烈にお前に感謝をしている!!」


 あー、うな丼うめぇ。

 こう、行儀悪いけどぐっちゃぐちゃにかき混ぜたうなぎの混ぜご飯にしても最高。

 というか、そもそも鰻のタレが美味い。

 これだけでご飯食える日本人が大多数を占めるだろう。

 そこに、最高級鰻レベルの異世界蛇肉が乗ってるんだぜ?

 不味いわけがないどころか、最高に美味い以外有り得ない事は確定的に明らか。

 まぁ、思い直すも時既に時間切れ。

 丼の中にはもう一口分の米とウマイウナギマガイしか残ってなくて。

 それらを口に放り込み、噛み締めながら咀嚼して。

 漬物をかじり、お吸い物を飲み干し、お茶で締め。

 ご馳走さまでした。

 満足とかってレベルじゃないわ。

 これタダで食って大丈夫? くらいの感想が出る美味しさだった。

 サンキュー異世界蛇魔物。

 この四人に倒されてくれてありがとう。


「ふぅ……美味かった」

「美味かったな。とはいえ、もう少し焼きも改善の余地があったぞい」

「十二分に美味かったが?」

「そうですわよ? それに、あれ以上の工夫となると……」

「返すタイミングが若干遅れたんじゃ。そのせいで、出さんでいい脂を少々無駄にした」


 ……異世界蛇さんへ。

 もっとこの四人に倒されろください。

 バカな! ガブロの奴、これ以上進化するというのか!?

 そんなの僕のデータには無いぞ!?


「ま、次回以降じゃな。感覚は掴んだ。次は失敗せんぞい」

「信じてるぞ」

「任せろぃ」

「じゃ、じゃあデザート持ってきますね」


 どうしよう、たった今食べたばかりなのに、もう涎が……。

 えぇい、あ、明日だ! 明日!!

 今日はもうデザートしか入らん!!

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