第72話 高級食材
……さぁて?
テーブルの上にて存在感を放つ塊が一つ。
サイズは大きなパイプほどの太さ、まな板三つ分の長さ。
身の上部がオレンジ色で、全体の三分の二はほんのわずかに黄色っぽい白色のツートンカラー。
……カニよな?
見た目的に。
間違いないよな?
「まぁ、まずは塩茹でにして食べてみるか……」
と、試食の為に身を切り出し。
いつも通りに塩茹でにすることに。
……包丁入れた感じ、結構繊維が大きいっぽいな。
カニだと思うんだけど、カニを包丁で切る機会なんて滅多にないし。
今のままじゃあ判断しかねる。
にしても、
「あの人ら、俺に食材を押し付けるの上手くなってきてねぇか?」
当然としてこんなでっかいパイプみたいなサイズのカニなんて、現実的に存在しないわけで。
異世界産のカニの身なのだが……。
「今までより高級な素材とか言って渡されたら、受け取るよな……」
最初は断ろうと思ったよ? もう少しギュウニクカッコカリが残ってたから。
でもさぁ! もろカニの見た目の高級食材ですってよ奥さん。
こんなの断れる訳ありませんじゃないのオホホホホ。
気が付いたらコンビーフマヨエッグサンドと交換する形で受け取ってたわ。
あとビーフシチューのルゥを入れたコンビーフの煮汁もね。
……これあれか? ガブロさん達が渡すの上手くなったんじゃなくて、俺の意志が弱いだけか?
推定カニを見た瞬間に目を輝かせたのがダメだったか?
……仕方ないじゃん。高いんだもん、カニ。
滅多に食べられないんだもん、カニ。美味しいんだもん! カニ!!
「そろそろか」
塩茹でが完了し、一旦水で洗って身を締めて。
いただきます。
「――ちくしょう……うめぇ。カニだぁ……」
カニでした。
はい。とても美味しいカニでした。
なんだろうな、毛ガニっぽい感じな味。
しっとりとした身に、カニ特有の風味とうま味がギュッと凝縮された肉汁。
肉にはほのかに甘みがあり、噛む度に頬が緩んでいく味。
毛ガニは他のカニに比べて体が小さくて、食べる場所が少ないイメージだけど、目の前にあるこいつは極太パイプサイズだからなぁ……。
エビダトオモワレルモノ同様、口一杯に頬張れるんだよなぁ……。
よし、命名、カニミタイナカタマリ。
にしても――贅沢なのでは?
もしかしてこれ、贅沢なのでは?
一人テンションが上がっていたが、時刻はもう少しでお昼。
朝方に上司から、
「雪が解けて、交通機関が動き出す昼から出勤で。午前中は半休になるから」
って電話あったし、そろそろ出勤しなきゃな時間。
じゃあ、手っ取り早くご飯を済ませようという事で。
冷蔵庫の中をチェック。思考、五秒。
かに玉にしようと結論を出し、卵とネギを取り出して動きを止める。
これ、かに玉はリリウムさん達にお出しした方がいいのでは?
……そうするか。
じゃあ、同じ材料でできる別の料理……。
チャーハンにするか。
というわけでカニミタイナカタマリをある程度のサイズに切り出し。
試食の時と同じく塩茹で。んで、一部をほぐして繊維状にし。
油を敷いて、熱したフライパンに卵を入れ、ご飯をぶち込んで混ぜ合わせ。
カニミタイナカタマリとネギぶち込み、塩コショウと味覇……っ!
中華最強の万能だし……っ!! 半練りタイプ……ッ!!!
青……っ!!!
を入れて味を調えたら。
お皿に盛りつけて完成。
記念すべきカニミタイナカタマリを使った第一品目。
カニチャーハン!!
カニ以外にはネギとタマゴしか使用してない贅沢チャーハン。
いただきます……。
「…………不味いはずがないんだよなぁ」
使ってる材料からも、不味い要素皆無。
調理工程も普通だし、カニミタイナカタマリが、実は炒めたら味も風味もなくなりますみたいな意味不明の特性なんかを持ってない限り、美味いのは確定してるわけで。
ぱらりとしたチャーハンに、ほぐれたカニミタイナカタマリがベストマッチ。
噛むと溢れるうま味のスープが、口の中にあるチャーハン全部をコーティングし。
卵がいいわ。卵美味い。
食感といい、染み込んだ味といい、メインは確実にカニミタイナカタマリなんだけど、陰の実力者は卵ですな。
……その時ふと閃いた。これは今日の夜のメニューに活かせるかもしれない。
いや、かに玉の予定だったんだけどさ?
あんかけかに玉チャーハンとかにしたらどうだろうか、と。
どうだろうか、じゃないな。絶対美味い。
よし、決定。今夜はあんかけかに玉チャーハンにするわぞ~。
そうと決まれば早速仕事だ! 仕事を終えなきゃご飯にありつけない。
買い物も忘れずに脳内の予定表にインプットし。
俺は仕事に向かう為に外へと飛び出した。
……溶けかけた雪を踏んで滑って転びかけたのは内緒である。
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