第508話 時は少し巻き戻り
まぁ、それはそれとして。
まだまだチーズフォンデュの具材は堪能してないからね。
主にワイバーン。
テンペストワイバーンだっけか?
これがこの前食べたワイバーンとどう違うかお手並み拝見……。
「ん、うま」
素揚げされたテンペストワイバーンは、外はパリッとしてて、歯を立てるとプッツリと。
シャキシャキの繊維を噛み切れば、そこから肉汁が溢れる高級鶏仕様。
そのままでも十分な美味さなのに、そこにチーズフォンデュなんて合わせたらもう……。
あー……ビール飲みてぇ。
――ただし、ここまでは普通のワイバーン。
テンペストワイバーンはここからがテンペストなんです。
「……ん?」
鼻に抜けるは馴染みある香り。
こいつは……。
「――出汁?」
なんとテンペストワイバーン、自前で出汁の香りが付いております。
なんだその日本人が歓喜して乱獲しそうな個体。
このまま衣付けるだけで唐揚げになるじゃん。
最強かよ。
「美味いな」
「こちらの世界の出汁に似た香りだ」
「ですよね」
「チーズと相性も良く、これでしたらご飯を掻き込みたくなりますわね」
本当にね。
こんな味なら白米も炊いとくんだった……。
って、ちょっと待て?
ラベンドラさん達も知らなかったって事?
テンペストワイバーンの味。
「ちなみにテンペストワイバーンを食べた事は……」
「無いぞ」
「そもそも倭種のワイバーンが初めて確認された個体ですわ」
速報、テンペストワイバーン、倭種だった。
そこはほら、タイフーンとかにしとかない?
まだそっちの方が倭種っぽさあるよ?
(じゃが嵐はお主の国の言葉じゃろ?)
あー……まぁ、確かに?
なるほどな、嵐で考えたのか。
じゃあ納得するわ。
――んでもやっぱ、それなら神風とかの方が……。
(ほほう。カミカゼ……と)
あ、やべ。
これまた新しい個体生み出す取っ掛かりになるやつじゃん。
せめて美味しい魔物でお願いします。
(任せとくのじゃ)
……気にしない事にしよう、うん。
「初観測個体を食べちゃっていいんですかね……」
「味の調査は大事だぞ?」
「どうせ他の誰かも食べますわよ」
「そうだ。それに、検体は国王に送っているからな」
大丈夫らしい。
いや、それにしても美味いな、テンペストワイバーン。
たっぷりチーズ水を纏わせて頬張り、そこに追い打ちでトマトとマッシュルーム。
あまりにも美味すぎる。
「この小さいハンバーグも美味いな」
「じゃがどうしても米が欲しくなる……」
「バゲットで挟んで簡易バーガーとかじゃダメです?」
「十分美味い」
俺チョイスの冷凍食品のハンバーグも好評なり。
と言うか、やっぱチーズって凄いわ。
肉にも野菜にも魚介にも合う。
更にはデザートにも合うわけだし、万能なんだな、と。
「店でパーティでこの鍋を囲んでワイワイ食べる、というスタイルは定着すると思うか?」
「大いに有りだが材料の調達がな……。一般の食事店で肉からマンドラゴラから魚介からと揃えるのも大変そうだ」
「どれか一種類特化でも客は呼べそうではありませんこと?」
「いっそギルド直営にしてしまってじゃな」
異世界で手軽にこのチーズフォンデュを楽しめないかと、色々とアプローチを考える四人。
こっちの世界でも意外とチーズフォンデュを楽しめるお店って多くないしなぁ。
割と探すんだよね、んで、じゃあ家でやろうかって……ならんな、うん。
諦めるよ、俺は。
「カケル、〆のパスタ――」
「茹でて来ますか」
「――が手遅れな位にはチーズが無い」
――なんだとっ!?
あれほど!! 〆が!! あると!! 言ったじゃないか!!
いやまぁ、チーズ水はまだあるんだろうし、作り直せばいいだけですけど。
……パスタと合わせるからワインと……コンソメも混ぜるか。
ニンニクも少しスライスして入れて……。
「じゃあ、こちら……皆に食べられないように熱しててください」
「心得た」
で、その土鍋を、目を光らせて狙う三人から守るようにラベンドラさんに申し付けて。
俺は〆のパスタを茹でに向かう。
その際に、
「俺が戻ってきたときに無くなってたら、デザートは無いです」
と、笑顔で脅し。
「ひっ」
約一人のエルフが恐怖で跳びあがる。
……俺の事を怖がったわけじゃなく、デザートが食べられない事への恐怖だろうけど。
さて、こんなもんでいいか。
それじゃあ、〆とデザートの準備をしてきますかね。
*
「纏まったか?」
「上々。我が国の立場を落とさず、向こうが譲歩した契約にしてくれた」
「……大盤振る舞いじゃねぇか? 大国なら力で潰せるだろうに……」
「向こうの国王……ううん、側近がしたたか。潰すぐらいならある程度立場を上げて友好であろうとしてる」
「目的は?」
「潰すより友好国としての立場でいた方が周りからも反感を買わない」
「敵を減らそうとしてるって事か」
国王談義がある程度まとまった後、各国は折角集まったからと様々な取引を開始。
もちろんその中心には先ほど味わった、『カレー』と『チョコレート』が存在したが。
『無頼』並びにアメノサが所属する『エクラール国』は、これらとバハムートの血の取引を締結。
さらに、この取引に使うバハムートの血の確保の為に、定期的に『夢幻泡影』の協力のもと、海底神殿への侵入も許可され。
エクラール国としてはかなり有意義な取引となる見込みである。
「お集まりいただいた皆さん。これまであまりもてなせませんでしたので、少し場所を変えさせていただきたく」
そうして、ある程度の取引がまとまったところで、ソクサルムが声を挙げ。
国王談義に参加した全員をもてなしたいと、王都へと招待。
そして、その王都では、今まさに、第三回料理大会の本選決勝が始まろうとしているのであった。
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