第243話 エルフには無いもの
えー……結局指一本でお肉を追加いたしました。
だってさぁ!! レモンバターソースで食べてたら、気が付いたらお肉無くなってたんだもん!!
誰!? 俺の肉食べたの!! ……俺か。
「このソース、凄くサッパリしてますわね!」
「大根おろしの入っている奴だろう? 大根おろしの効能は凄いの一言だ」
「やはりこのステーキソースが一番美味い」
「カケルが食っとったわさび醤油も美味いぞい。わさびもサッパリと食べるのに一役買っておるわ」
わさび醤油も受け入れられて俺は満足ですわよ。
結局牛肉に合うのは醤油なんだ。
「お肉の合間につまむ野菜も最高ですわね」
「焼き肉の時にも思った事だがな」
「食べ合わせ……というと違うかもしれないが、食材の組み合わせとして肉と野菜はいいのだろうな」
そりゃあ、肉ばかりの食事なんて重たくなっちゃって途中から箸が進まなくない?
……ピザはそうでもないか。
でも、ピザにも野菜は乗ってて欲しいな。
「肉汁を吸うシイタケと、肉汁が絡んでもなお清涼感があるスナップエンドウのおかげじゃろ」
「軽い、そして肉厚な食感は確かにそうかもしれないな」
俺の用意した野菜も好評……。
ん? 何か忘れてるような?
「あ、もやしだ」
そうじゃん。もう一種類野菜用意してたじゃん。
「焼けたぞい」
「ありがとうございます」
焼けた二枚目のステーキを皿に乗せつつ、袋から出して軽く水洗いし、水気をしっかり切ったもやしをガブロさんへ。
「……これは?」
「このまま焼いて、仕上げに塩コショウで大丈夫です」
「ふむ」
受け取ったガブロさんは、言われるままに鉄板にもやしをひっくり返し。
さっさと全体に広げ、溜まっていた肉汁を纏わせまして。
そこに、謎に高い位置から塩コショウをパッパ。
「くしゅん!!」
ほらぁ、変に高い所から塩コショウなんて振るから、ラベンドラさんくしゃみしたじゃんか。
ちゃんと顔を逸らしてくしゃみして偉い。
「む、そうだ」
そんなくしゃみ後、何かを思い出したらしいラベンドラさんは。
「カケル、この間食べたうどんという麺、あっただろう?」
「ありましたね。うどんが何か?」
「再現しようとしたのだが、どうにも舌触りや喉越しが悪いものになった。何か滑らかになるコツなどがあるのだろうか?」
だそうで。
うどんの滑らかさ? コシならよく聞くけど、滑らかさをどうにかしたい、か。
ここは世界一博識なグーグル先生に尋ねてみよう。
なになに?
「んー……生地に水が足りてない可能性がありますね」
「水、か」
「目安は耳たぶの固さくらいってありましたけど」
「――耳たぶ?」
その時、俺は気付いたんだ。
エルフに耳たぶが無いって。
「あ、えーっと……この部分の事で――」
というわけで耳たぶが何かを示すために、俺の耳たぶを指差すと……。
「失礼」
「え?」
即座にラベンドラさんの腕が伸びて来て、俺の耳たぶをもにゅもにゅと。
……もうお嫁にいけない。
「なるほど。確かに水が足りていなかったのかもしれない」
「ち、力が強い人は無意識に力を入れすぎることがあるらしいんで、力を抜いて固さを確認すると良いそうです」
ふぅ。落ち着いた。
にしてもアレだ。他人に耳たぶ触られるのちょっと変な感じするね。
観察の為か知らないけどめっちゃ顔近かったし。
イケメンだし。ちょっとやめて欲しい。
俺の心の中の乙女が落とされちまうところだったぜ。
「焼けたぞい」
そんな俺に助け舟よろしくガブロさんがモヤシ炒めを差し出してくれて。
さっきまでの事を忘れるためにそれを一口。
おっ! 美味い!!
もやしのシャキッとした食感はそのままに、いい塩梅の塩コショウと絡んだ肉汁のコラボレーション。
噛むと溢れるもやしの水分が、塩コショウや肉汁を洗い流してくれる感じ。
バター焼きのような風味は無いけど、肉の美味さをこれでもかと纏ったモヤシ炒めからしか得られない満足感がそこにはある。
これが肉の合間に食えるの最高だな。
「これも美味い」
「肉としっかり合う野菜選びもまた大事だな」
「合うのは当然として、その合わせ方もだろう。肉汁を吸う、纏う、清涼感をもたらす。三つともそれぞれ違うベクトルで合うように考えられている」
ね。凄いよね。
……俺とか鉄板焼きのお店のメニュー観て野菜をどれにするか決めただけだもん。
餅は餅屋ってね。それ専門でやってるお店の知識にはかないっこないんだから。
「ガブロ、お代わり。二本」
「同じく二本」
「私は三本いただきましょうかしら。今回はしっかり待ちますわよ?」
「ほいほい」
なんて言ってたらまたお肉の追加注文ですわ。
ほんと、見てて気持ちいいくらいに食べるねこの人ら。
……食べてる様子は気持ちいいんだけど、食べてるものは胸やけしそうになるけどもね。
俺はサッパリ大根おろし醤油のステーキソースとガーリックライスでフィニッシュですわ。
何せ、この後のデザートの分もお腹を開けとかないといけないし。
デザートが別腹ってのはね、幻想なんですよ。
特に年齢を重ねてくるとね、そんな事言えなくなっちゃうから。
というわけで、四人より一足先に、ご馳走さまでした。
満足いくまで食べるんじゃぞ~。
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