第244話 振ったダイスは1d100

「甘口微発泡のワインが肉に合う……」

「重ための赤も最高の相性ですわよ?」

「甘口の方は肉の脂を洗い流し、自身に足りない部分を肉の味で補う感じじゃな」

「重い赤は自身のコクや深みを肉と共に高めていくような合い方だ」


 ワイン談義が捗りますなぁ。

 ちなみに甘口微発泡がランブルスコのロゼ、重ための赤がサリーチェサレンティーノの事ね。 

 俺も両方とも味わったけど、ランブルスコの方が好みだったな。

 単純に甘くて飲みやすくて、サリーチェサレンティーノよりもアルコール度数が低い。

 俺の中で合うステーキソースはデミグラス風味のステーキソースだった。

 濃厚な味とマリアージュさせる事によって、ランブルスコの持つ上品な甘さが引き立つ感じ。

 酸味も程よく、俺でもパカパカ飲めちゃうほどの代物だった。

 ――とはいえワインはワインだし、普通に酔いが回ってるけど。

 あ~^頬がポカポカするんじゃ~^。


「神へと捧げたのはこちらだったな」

「ですわ。……もしかして神は、重厚なワインを好むのでしょうか?」

「ふむ。神が捧げものを選り好みした、という話は聞かないが、もしかしたら神にも好みがあるのかもしれない」

「じゃが試すのものぅ……」


 なんか面白そうな話してんね?

 確かに神様に好みってのはあるんだろうか?

 ……何となくだけどありそうじゃない?

 某作品でも甘党の神様とか居たし。


「ちなみにカケル、今回は神への捧げものとなる様なワインは……」

「用意してませんね」

「そうか……」


 ちょっと待て。

 なんで神様への捧げものなのに、無くてがっかりする?

 もしかしなくても捧げものを少し頂こうとか思ってたりしないか?

 ――ん?

 待てよ?

 その時、俺に電流走る。

 タブレットに手を伸ばし、ちょいと検索。

 ……お、あったあった。


「ラベンドラさん」

「? どうした?」


 ワイングラスを傾け、サリーチェサレンティーノを飲み終えたラベンドラさんを呼び、タブレットの画面を見るように指差して。


「……これは?」

「今俺がいる国で作られてる果実酒のセット商品なんですけど」


 その画面にあったのは、某通販サイトにある果実酒のセット。

 しかも日本で作られてるやつ。

 苺やリンゴ、ブドウに梨、ミカンなど。

 色とりどりの果実酒が並んでおりまして。


「これ、注文したら結構すぐに来るんで、これを自分達用と神様用とで注文しちゃいません?」


 かかる代金? んなもん、姉貴バンクに頼みますとも。

 セット商品だし、結構いい値段するしね。


「……神はワイン専門なハズだが、確かに日本酒の時も一応は味を見たような反応だった」

「果実酒であれば、神様も反応するかもしれませんわね」

「それに、向こうの世界には無い果物の酒なのだろう? 我々にも興味がある」

「酒なら何でもいいぞい!」


 よし、反対はいないようだな。


「じゃあ注文しときますね。明日には間に合わないと思いますけど……」

「もちろんだ」

「我慢しますわ」

「気長に待つさ」

「酒は喉が渇けば渇くほど美味いんじゃぞ?」


 到着までも待てそうね。

 ……エルフが気長に待つとか言うと数年単位な気がするのは俺だけか?


「肉も無くなったな」

「酒も空じゃぞい」


 で、そんな話してたら衝撃的な言葉が出て来てさ。

 ニクガナクナッタ? 滅茶苦茶な塊でありましたよね?

 と思って肉を置いてた場所を見たら、マジで無くなってた。

 デリシャスビーフイッシュ……美味しかったのに。

 というか、お持ち帰り用と俺の昼ご飯にも使う予定だったのに……。


「か、カケル?」

「あ、いえ、気にしないでください」


 落ち込んでたのが顔に出たか、ラベンドラさんに心配されちゃった。

 大丈夫ですよ……ハハハ。


「……む、そう言えばカケルに渡しとらんぞい」

「ん? ……あら、そう言えばそうですわね」


 とかなんとか言いだして、何やらゴソゴソと漁り出す四人。

 ……天地明察。これ、新食材です。

 デリシャスビーフイッシュが無くなっちゃったし、まぁ丁度いいっちゃ丁度いいか。

 なんて思ってましたらですよ。


「まさかのダンジョンボスがお化け大根でな」


 とか言い出しまして。

 お化け大根……クッソデカい大根の事か?

 なんて思ってたら、


「マンドラゴラの群生地に居たのだが、そのマンドラゴラをポルターガイストや憑依などで操るやつでな」


 マジもんの幽霊ゴーストでした。

 んなアホな。


「お化けであるゆえに実体はなく、しかも複数種類のマンドラゴラが一度に引き抜かれまして」

「リリウムの咄嗟の転移魔法で一時離脱し、万全の対策をしてから再度挑んだんじゃが……」

「それでもなお苦戦した。正直、一番手を焼いた相手かもしれない」

「物理も魔法も効かない。……結果的に最奥にあるミイラ化したマンドラゴラを焼失させることで倒せたのだが……」


 あー……ゲームとかでよくあるやつ。

 媒体というか、それ壊さないと倒せない系のボスね。

 そんなのまであるんだ、そっちの世界。


「というわけで、今回の食材はマンドラゴラなわけだが」

「どのマンドラゴラも品質が良く、私ですら知らないような種もあった。是非ともカケルの手で調理してもらいたい」

「期待してますわよ」

「というわけでそりゃ!」


 なんて掛け声と共に、解放されるマンドラゴラ。

 ドサーっと。俺の周りに。

 一気に山のようにそびえる程の量のマンドラゴラは。


「ちょっ!? 多すぎ!! 多すぎますって!!」


 大根、人参、トマトにキュウリ。

 茄子、トウモロコシ――以下省略。

 漫画とかでしか見たことない、食材に埋もれるという経験をした俺だったのだが……。


「ひぃ!! 顔!! 顔あるんですけど!!」

「そりゃあマンドラゴラなんだから顔くらいある」

「目が合った!! 怖い!! 怖いですって!!」


 流石に野菜に顔が付いてて、しかもトドメは刺されているわけで。

 文字通り、死んだ目で見つめられ続けるなんて経験は正直したくなかった。

 正気度が五減った。

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