第101話 閑話 献上品試食会

「これはまた豪快な……」

「でも、インパクトは抜群ですわ!」

「塩を大量に使うのがややネックだが……」

「塩はカケルが提供してくれるんじゃろ?」

「はい。こっちの世界じゃ特に値段がするものでも無いですし」


 全員、塩釜焼きの解説動画に首ったけ。

 ちなみにその動画だと鯛で作ってるけど、俺が調べたところ豚肉でも出来るみたいだし。

 火の通しなんかをしっかりすれば、大丈夫だと思う。


「ラベンドラ!」

「叫ばなくても聞こえてる。レシピは記憶した」

「じゃあ、早速戻ったら作ってみましょう!」

「どうせなら生贄……じゃなく、試食に付き合う相手も用意したいところだが……」


 今生贄って言いました? 言いましたよね?

 何故に生贄なんて言葉に……。


「ギルドマスターだとアウトだな。王への献上品を王より先に食べていたことが知られれば最悪首が飛ぶ」


 あー……。

 なるほどな。

 だからこそ生贄……と。

 んでもそうすると誰か適任がいるのだろうか?


「まぁ、普通に考えて『ヴァルキリー』じゃろうな」

「でしょうね」


 一緒にダンジョンに潜ってたパーティだっけか?

 確か、実力者なんだよな、その人たち。


「あ、そうだ、カケル。持ち帰りの食事の倍増の件、本当にありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして」


 話の流れ的に、『ヴァルキリー』達に食べさせてたんだろうな。

 思い出したように言われちゃったよ。

 ……あー。なんか納得したわ。

 だから『ヴァルキリー』と一緒に稲を探しに行ってたのか。

 こっちの米を食べちゃったから……。


「気持ちは宝石に変えてお渡ししますわね」

「全部姉貴に回しといてください。俺が持ってても宝の持ち腐れなんで」


 文字通りね。

 だいたい、宝石が似合うような見た目でもないし。

 マジで腐らないまでも、最悪失くしちゃってどこに行ったか分からなくなるなんて可能性すらある。


「それで? 今日の持ち帰りは何を作っとるんじゃい?」

「先程食べていた料理をパンに挟んだものだ。タレにとろみをつけてより肉に絡むようにしてある」

「マヨネーズも普通のマヨネーズですね」


 なお、本日の持ち帰りはチキンテリヤキバーガー。

 トリニチカシイオニクの照り焼きをレタス、トマトと挟んで、ほんのちょっと片栗粉を入れたタレとマヨネーズをかけた逸品。

 問、この食べ物が不味い可能性を数値で示しなさい。

 答え、0%。

 百人の俺に聞いて百二十人の俺が美味いって言う。

 言え。


「それじゃあ、向こうで何度か試作し、王に献上しても問題がないくらいの出来に引き上げておく」

「もしダメそうなら早めに教えてください。他の候補を探すんで」


 ラベンドラさんにそう伝えると、背中越しにサムズアップ。

 こういう細かい動作がいちいち画になるからエルフってズルい。



「何で呼び出されたかと思えば……」

「王への献上品の……試食?」

「食えるんなら嬉しい限りだが、大丈夫か? オレらが先に食べてたと知られれば、あんたらはタダじゃ済まねぇんじゃ?」

「それだけ私たちを信用して頂けているという事なのでしょう」

「それで? 肝心の料理は?」


 元の世界に戻り一夜明け、朝から『ヴァルキリー』にコンタクトを取ったリリウム達は。

 『ヴァルキリー』に事情を説明したところそう言われ。

 

「他の奴らに頼むわけにもいかなくてな」


 と説明しながら、ラベンドラの土魔法で作った釜土から塩釜焼きを取り出す。


「な、なんだ!? でっけぇな!!」

「スンスン。……塩? でもこの量を焼いた意味が……」


 アタランテが大きい声で叫び、その後にヘスティアの冷静な分析。

 それらを無視しながらラベンドラが、塩釜に短刀を刺し……。


「あ……」


 塩釜を崩し、中身を見せると。

 レトから、小さく声が漏れる。


「スモーカーウッドの葉で包んだクラウンオークの肉を、卵白と塩を混ぜたもので包み、焼いたもの。塩釜焼きという料理だ」


 そう説明しながら塩釜を崩し、中の肉を取り出して。


「スモーカーウッドの葉の香ばしい匂いがたまりませんわね」

「もう匂いだけで美味そうじゃぞ?」

「これで味が不味いという事はないだろうが、どれほどの美味さに仕上がっているのか……」


 という、リリウム達三人の感想を背中に、ラベンドラは各々に肉を切り分けて。


「しっかりと火が通っているのに、身はピンク。……奇麗」

「ちょっとフォークで押すだけで肉汁が溢れてくるぜ!?」

「絶対に美味しいやつですわね」

「そ、それでは……」

「頂くぞ」


 ゴクリと生唾を飲み、意を決して肉にフォークを突き刺して。

 皆がほぼ同時に、肉を口の中に入れ、噛み締めた瞬間。

 周囲を轟かす絶叫と、大地の揺れ。

 更には、謎の衝撃波が発生し、周囲の魔物たちが、一斉に逃げ出す事態に陥った。



「な、何だったんだ今の……」

「私達、食べましたわよね?」

「食った……はずじゃ。うむ、食ったぞ」

「ほぼ絶叫に似た声を上げたはずだ」


 リリウム達は、呆然と空になった、先程まで肉が乗っていた皿を凝視し。


「なんで! もっと! 味わって! 食べなかったの!!」


 悔しそうに、涙をにじませ。

 自分の太ももを叩いて、自分に怒りを覚えているヘスティア。


「美味過ぎた……。美味過ぎた……」


 呆然と、うわ言のように天を仰いで繰り返すアタランテ。


「知りたく……なかったですわ……」


 頬を上気させ、恋人を見送るような視線を皿へと向けるレト。


「確か、クラウンオークの居るダンジョンはここと、ここと……」

「ここから近いのならば先の方か。……いやしかし、ダンジョンの難易度を考えると……」


 そんなメンバーを余所に、クラウンオークを狩りに行く計画を着々と進めるネモシュとタラサ。


「それで、どうだ? この料理は王への献上品足り得るか?」


 ここで、本題の問いを『ヴァルキリー』へと行ったラベンドラは。


「「十分すぎる!!」」


 全員からの奇麗なハモりで返答され。


「この料理を出せば『OP』枠脱却どころか、王からの覚えも良くなるだろう」

「見事、上位冒険者の仲間入り」

「あ、それならば二つ名が付きますわね」

「そういやそうか。何か希望があるなら考えといたほうがいいぞ。オレらの『ヴァルキリー』ってのも自分たちから希望した二つ名だしな」

「一体どんな二つ名にするのでしょうね」


 更に、もう一つ頭を悩ませる問題があることを、明かされるのだった。

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