第102話 奇をてらって
渋々と会社に行き、帰りにご飯の材料を買い、帰宅。
トリニチカシイオニクは昨日で使い切ったから、今日から新食材となりましてござい。
と言ってもなぁ……オークの肉でしょ?
俺が知ってる異世界で何かしら食事をする系の漫画やアニメでも出てくるけど、ほとんどが豚肉として描かれてるんだよな。
見た目もまぁ、豚肉っぽかったし。
一応、試食はしてみるけども……。
というわけで家に帰っていつものように塩茹でに。
脂がすげぇや。包丁にべっとりと付いて光に反射してら。
こりゃあ重そうだな……と思いつつ、塩茹でにしたオーク肉をパクリ。
…………?
口に……入れたよな? 消えたんだが?
ん? なにこれ?
ちょっと不思議体験過ぎて分かんなかったからもう一口。
「ふわぁ……」
変な声出た。
なんだこの……なんだ?
豚肉……だよな? 豚肉なんだよな?
しっとりとした身質で、口に入れると口内の熱だけで脂が溶け出てくる。
噛む事すら必要とせず、口に入れただけでうま味のスープに変化して。
出てくる脂も、全然しつこくなくてあっさりしてるし、更にはコクがある。
消える前に噛み締めれば、スポンジか? ってぐらい大量の肉汁を溢れさせ。
柔らかく歯を受け止めたかと思えば、一瞬の内にほろりと解けてしまう。
……何だこの肉!? クッソうめぇぞ!?
「めちゃめちゃ高級な和牛みたいな味わいだった……」
言うて和牛とかそんなに食べた事無いんだけど。
過去にボーナスで自分へのご褒美って名目で有名な鉄板焼きのお店に行ったことがあって、そこで食べた和牛の味にすら引けを取らない感じだった。
……これを調理するの?
このまま焼いてポークソテーとかにした方が美味しいんじゃない?
今までの、というか、最初のブタノヨウナナニカがそこそこの美味しさだったから完全に油断してたわ。
オークってこんなに美味しいのか。
なんて感動に浸っていると、魔法陣が出現。
そして、出て来た四人達の手には……。
「カケル、何も言わずにこれを食べてみてくれ」
「食ってみろ、飛ぶぞ」
「塩釜焼きの出来を見ていただきたいのですわ」
「及第点は貰えるかの?」
奇麗なピンク色の恐らくオーク肉が。
塩釜焼き、早速試してみたんだ……。
と思いつつ手掴みでパクリ。
文字通り、飛んだ。
*
あっぶねぇ。完全に不意打ちだったわ……。
塩茹でしただけであんだけ美味しかったなら、そりゃあ塩釜焼きはもっと美味いに決まってるじゃんね。
さらにしっとりとしたお肉に、程よく浸透した塩味。
更には、肉を包んでいたものの香りであろう、香ばしい燻製のような風味。
全部が肉の味を引き立てつつ、確実に主張してきており。
それらを持ってしても御しきれていない、暴力的なまでの肉の美味さに全てが流される。
……店でも食えんぞ? この美味さ。
「その反応なら美味しかったようだな」
「わしらの味覚に間違いなかったようじゃな」
「まぁ、間違えようがない味ではあるだろうが」
「王への献上品は、見つかりましたわね」
だってさ。
四人の反応的に、俺がこうなるって分かってたみたいだよ。
まんまと想像通りの反応してしまったわけだ。
ちょっと悔しい。
「それで? 今日の食事は何を作るんだ?」
あんなもの食わせておいて何作る? ってのはちょっと喧嘩売ってるとしか……。
あ、嘘です。私平和主義者。引かぬ媚びぬ顧みぬ。
「今日はカツを――」
パン!
カツの名前が出た瞬間、無言でハイタッチをするガブロさんとリリウムさん。
息ピッタリですね、どうしたんですか?
「カツか。……肉はどっちだ?」
「あ、先に貰っていたバジリコック? は使い切ったんで、オークの肉でカツを――」
パン!
今度はマジャリスさんとラベンドラさんがハイタッチ。
やっぱり息ピッタリですね。
「カツはいい。絶対に美味いからな」
「『――』の肉でも美味かったんだ。オークの肉でも間違いなく美味い」
「サクサクの衣とあのお肉の調和なのでしょう!? もう完全無敵ですわよ!!」
「待ちきれんわい!!」
あの、まだ料理の説明が……。
「今日はかつ丼にします」
ガタッ!
その時、四人に電流走る。
「カツを……丼に……?」
「有りなのか? そんな事が?」
「単体でも十分に美味し過ぎるカツを……ご飯に乗せる?」
「夢のような料理が出てきたわい」
すげぇな。
丼にするってだけでみんな体が震えてやがる。
へへ、身体は正直だな……。食欲に。
「それで? ただ乗せるだけではないだろう?」
「あ、はい。親子丼覚えてますよね? 普通だとあんな感じで卵でとじます」
本来ならばね。
ただし、今日のカツ丼は一味というか、従来のカツ丼とは方向性が違うぜ。
「もう説明だけで米が食える」
「カケル? 先にご飯だけ持って来てもらう事って……」
「やめんかはしたない」
すげえな。
マジャリスさんとリリウムさんがガブロさんに
あの食いしん坊のガブロさんにだぜ? 信じられるか?
「ただ、それは普通のかつ丼なので……」
「今日は普通じゃない……と?」
「はい。今日作ろうとしてるのは、ドミカツ丼になります」
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