第103話 共同作業

 ドミカツ。

 それは、岡山県で愛されているらしいご当地グルメ。

 カツをご飯に乗せ、デミグラスソースをかけた丼で、カツの下に茹でたキャベツを敷いたりする……らしい。

 ただ、このデミグラスソースがミソらしく、これっていう作り方のない、言ってしまえば店によって違う味のこだわりソース。

 デミグラスソースをベースに、各々アレンジをされてるとのこと。

 というわけで、ざっとレシピを見てそれっぽく作れるだろうってことで、早速やっていきましょう。


「カツを作るのはお任せしていいです?」

「ああ。任せておけ」


 とラベンドラさんに豚カツの調理を任せつつ、俺はソース作りに着手。

 あ、カツの下に茹でたキャベツを敷くってことだけど、別にそこも確定じゃなく。

 店によっては千切りキャベツだったりするらしいから、俺もそうすることにした。

 千切りキャベツは、スーパーで既に切られた奴が袋詰めされて売ってるからね。

 お手軽ですわ。


「そのソースは?」

「今日のベースとして使うソースです。味見どうぞ」


 缶のデミグラスソースを買ってきたから、それを鍋にぶちまけて。

 スプーンで掬って、ラベンドラさんに、はい、あーん。

 ブタニクタカメウマメを揚げてて手が塞がってるからね、しょうがないね。


「ふむ……。濃厚なうま味と、これは――野菜の甘味か? かなり複雑な味わいだが……なるほど。完成度の高いソースだな」


 だそうです。

 実際問題、デミグラスソースってマジでいろんな料理に合う。

 ……本当に自作しようとなると、とんでもなく材料と時間とが掛かるけど。

 そしたら、ソースの味見をしたことを咎めるようにガン見してる三人を無視し、ソースに自分流アレンジをば。

 まず、顆粒タイプのカツオと昆布のお出汁。

 なんか、ドミカツのソースを調べてたら、結構和風方向にしてるレシピが多くてさ。

 先人たちに倣えって事で、まずは投入。

 んで、そこにソースとケチャップ、あと砂糖。

 ちょっと甘めの味付けにするためにそいつらを目分量で入れ、かき混ぜる。


「その……前から思っていたんだが、調味料とかは計ったりしないのか?」


 と、ソースを作ってたらラベンドラさんからそんな言葉が。


「料理を始めた頃は計ってたんですけどねぇ……」


 最近じゃとんと計ってないな。

 いや、決して適当に作ってるとかじゃなくて。

 ずっと作ってた経験から、これはこれくらい、みたいな基準が自分の中に出来てるのよ。

 俺が読んでた小説に、


「人間には、学習と経験から生じる未来予知にすら通じる知恵がある」


 みたいなセリフがあったけど、マジでそれ。

 作るたびに情報を更新し、時には失敗という経験を積んで、今……みたいな。

 だから、ある程度の味ならどの調味料をどのくらい入れるか、みたいなのは把握してるって訳。


「なるほど……」


 その事をラベンドラさんに説明したら、どうやら納得してくれた様子。

 まぁ、ラベンドラさんも料理人だし、ある程度共感できる部分はあるんでしょ。

 じゃなきゃ、こっちで一度しか食べたことがない料理を再現とか出来んて。

 ……あとは、こっちでどれだけ分量計って作っても、同じ材料が異世界にあるとも限んないしね。

 以上、俺が面倒くさがりで大体の感覚で味付けをする言い訳終わり。


「そろそろ揚がるぞ」

「こっちもソース出来ました」


 ちなみに味見はちゃんとする。もちろんする。

 思ってる味になったかどうかの確認、大事。


「またこれまでとは違う匂いがするのぅ」

「あのラベンドラが複雑な味わいと言っていたんだ。細かく味わわなくてはな」

「一番の問題はカツに合うかですわ! もし合わずにカツのうま味を殺しているようなことがあれば、認められませんわ!」


 ……リリウムさんは何目線なんだ?

 カツ奉行とかか? 聞いたことないぞ?


「私が味見をした時点ですこぶるカツに合うソースだった。そこにカケルの手直しが入ったんだ。期待していい」


 ラベンドラさん?

 どうしてそんな余計なこと言うんです?

 途端に出すのが怖くなってきたぞ……。

 まぁ、いいや。

 丼にご飯を盛り、千切りキャベツを敷いて……。


「見事に揚がってますね」


 ラベンドラさん作の完璧なブタニクタカメウマメカツを乗せ、お手製和風ドミグラスソースをたっぷり。

 ……色合いが茶色すぎる。

 だから検索した画像にはグリーンピースが乗ってたのか。

 ……俺が嫌いだから乗せないけど。

 シャレオツにパセリでも振っとこ。

 同じ緑だし、いいでしょこれで。


「というわけでお待たせしました。こちらドミカツ丼になります」


 というわけでご提供。

 本日の味噌汁は豆腐とわかめのオーソドックスな奴。

 お漬物には茄子とキュウリのしば漬けをご用意。

 みそ汁はインスタント、漬物はスーパーで売られてるやつ。

 いくら俺がおばあちゃんっ子と言っても、家で漬物までは作りませんよはははー。

 ……梅酒ならある。


「匂いが素晴らしい……」

「甘くてコクがあって、香ばしくて美味しい匂いですわ」

「この色の漬物は食えるんか? これ」


 エルフ二人は匂いに首ったけですね。

 説明でもご飯食おうとしてたし、今白米渡したら食い始めるんじゃねぇの?

 んでガブロさん、この色の漬物も食えるんですよ。

 なんなら美味しいんですよ。


「じゃあ、早速――いただくぞ」

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