第104話 異世界トラップ返し

 サクッ! という小気味のいい音を出し、カツへとかじりついた四人。

 その反応を待つこと……一秒、二秒。

 えーっと……全員が激しくヘドバンしてるんですけど。

 そんな激しく頷く味……ってこと?


「この衣が……」

「この肉が……」

「このソースが……」

「最っっっ高に美味しいですわぁぁぁっっ!!」


 以降、堰を切ったようにご飯を掻っこむ四人。

 お気に召したようだ。


「思い出した! このソース、ビーフシチューの味に似ている!」


 と、何やらラベンドラさんが叫びだした。

 あー、なるほどな。

 確かにビーフシチューに似てるかも。

 というか、ビーフシチューにもデミグラスソース使ってるし。

 ……ソース自体は使ってなくとも、少なくとも材料は似ているわけで。

 そりゃあ、似てる味ってなるのも当然か。


「あれも美味しい料理だった……」

「『ヴァルキリー』達と食ったことが記憶に新しいわい」

「あんな強烈な美味しさのシチュー、嫌でも記憶に残りますわ。……全然、もう全っっ然嫌ではありませんけど!!」

「しかしビーフシチューと似た味となれば、再現するのにはかなりの前進だ。何せ、ビーフシチューの再現レシピは完成しているからな」


 と、ニヤリと笑うラベンドラさん。

 マジでさ、ラベンドラさんは凄いと思う。

 だって、未知の味を再現しちゃうんだよ?

 自分たちの世界にある素材だけで。

 そんなん出来ひんやん普通。そんなん出来る?

 言うといてや出来るんやったら。

 ラベンドラ半端ないって。


「カケルは食べないのか?」


 俺がみんなの反応見てたら、食べてない事に気が付いたマジャリスさんから声が掛かる。

 いや、食いますよ? けど、食べてる間にみんなの面白いリアクションを見逃したらと思うと……。

 どうしてもみんなより食べるタイミングがワンテンポくらいズレるよね。

 んじゃあ気を取り直して。


「いただきます」


 サクッ! ……うっまい!!

 いや、知ってた。美味しいの知ってた。

 でも予想のはるか上空を満面の笑みでピースしながら飛び越えてった!!

 塩茹でにした時より、塩釜焼きを食べた時より!

 圧倒的に肉汁が多い!!

 こう、衣を噛んだ瞬間は肉があるのよ。

 でも、そこから僅かでも進んだら肉が消える。

 マジで。で、肉だった物は全部うま味と上品な脂のスープに変わる。

 そこに追い打ちをかけるのは和風テイストに仕上げたドミグラスソース。

 甘めにしたのが効いてるね。肉のうま味を支えながら自己主張してくるわ。

 これ、一切れでご飯全部いける。

 そんなレベルのうま味の暴力。

 みんなが掻っ込むの、分かるわぁ。


「こうマジマジとカケルを観察すると……」

「物凄く幸せそうに食べますわね」

「声をかけるのすら躊躇うほどだな」

「しょ、しょうがないでしょ。美味しいんですから」


 なお、俺が食べる様子はしっかりと見られていた模様。

 そ、そんなに顔に出てたかなぁ……。


「正直、塩釜焼きもいいが、カツもやはり献上すべきではと考えるぞい」

「それ、思いましたわ。そもそも、メインを塩釜焼きにして、カツは添えてとか……」

「だったら、献上関係なくレシピを料理人に伝えた方がいいのではないか?」

「確かに。日頃の食事に急にカツが出てくれば王は喜ぶだろうし、その料理のレシピの出処は察するだろう」

「そうなると、料理人からのサプライズに私たちが力を貸した、と見られますわね」

「献上品の塩釜焼きにのみならず、粋な事を……となる可能性はあるの」


 あー……。

 カツうめぇ……。

 一生頬張ってたい。

 カツとご飯を飲み込んだ後に食べるしば漬けもいい。

 あの歯ごたえと味が、口の中をリフレッシュしてくれる。

 で、みそ汁で一旦味覚と脳みそを現実に引き戻し、また異次元な美味さのカツ。

 そしてカツ。ご飯。さらにカツ!

 引くほど美味かったな……。

 まだ肉あるし、今度一人で作ろう。


「ついでにソースのレシピは教えませんの?」

「教えてもいいが、あまり教えすぎると料理人のプライドを傷付ける恐れがある」

「ならば何かの料理に少し使ってやれば、それを味わって再現するのではないか?」

「ラベンドラ以外に出来るんかい? それ」

「あまり料理人を舐めない方がいい。ましてや宮廷勤めだ。間違いなくやる」


 まーだ話し込んでるよ。

 まぁ、しょうがないか。

 王への献上っていう、一世一代の大勝負みたいなもんでしょ。

 ……人間的には、だけど。

 エルフの一世一代の大勝負ってどんなスケールなんだろうね?

 少なくとも、年末の競馬に全財産ぶっぱ、とかではないんだろうな。


「ふぃー。食った食った」

「『ヴァルキリー』達も話していたが、この肉、もっと確保しておかないか?」

「賛成ですわ。少なくとも、このレベルの食事が保証されるという事実がモチベーションに直結しますわ」

「だが、めぼしい所は恐らく『ヴァルキリー』に先を越されているぞ? それこそ、未開のダンジョンでも探すほかない」

「あ、俺も欲しいんで頭数に入れといて貰えます?」


 ブタニクタカメウマメを量産する話っぽかったんで割って入らせていただきました。

 いや、この肉貰えるんなら料理するぐらい安いもんよ。

 マジでこんなの滅多に食えんわ。


「む、了解した。……だが、そうなると、少しそちらからも何か貰わなければ……な」


 む、ラベンドラさんの眼が怪しく光る。

 これはアレだな。何か色を付けろっていってるんだな。

 ……おー? つまりこれはあれか?

 異世界バナナの仕返しが出来るって事か?

 流石に一人で食いきれる量じゃなくて、どうしようかと悩んでたんだよな。

 良かった良かった。


「仕方ないですね。これは秘蔵だったんですけど」

「な、そ、それは!?」


 取り出したのは冷蔵庫にしまってた牡蠣。

 そう、異世界ではフルーツのソレよ。


「こちらの世界の食材ですけど、もう自分はかなり食べましたし。残りはお譲りします」

「いいのか!? こんなに!」

「どうぞどうぞ」


 出来れば反応が見える所で食べて欲しかったんだけどな。

 まぁ、いいや。

 どうせ食べたら感想が来るだろ。

 その時を楽しみにさせてもらいましょうグヘへ。

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