第125話 工房にて

 まぁ休み言うても朝ですし?

 そんな面倒な工程の料理は作りたくないわけで。

 まずは鍋に水、麺つゆと顆粒出汁、醤油を少々入れて火にかけて。

 カイルイフシギキノコを好みの大きさに刻んでいく。

 笠の部分はさいの目切りにして、追加で小ぶりの牡蠣サイズに切り出しまして。

 柄の部分も同じくさいの目切り。こちらはそれだけでいいや。

 んで、沸騰した鍋に入れ、軽くひと煮立ち。

 出てきたアクは丁寧に掬うわぞ~。

 いやぁ、にしても、このキノコマジで楽だわ。

 実際の牡蠣とかぬめり取りとかが結構手間だからさ。

 洗うだけで処理が完結するカイルイフシギキノコマジで良い。


「料亭みたいな匂いしてきた……」


 いい香りがして、スープにキノコの出汁が出たようなので、昨日炊いておいたご飯を一度洗ってぬめりを取り。

 静かに鍋の中へ。

 本日はサラサラとした雑炊にしたい気分。

 そのままじっくり米に汁を吸わせ、俺の腹が我慢出来んと暴れてきたので溶き卵を回しかけ。

 刻みネギを散らし、完成。

 琥珀色のスープが覗く、食ってないけど絶品が確定している海鮮雑炊。

 その仕上げに、


「カロリーいず暴力」


 牡蠣にも、ホタテにも、米にも相性のいいあの食材。

 アメリカの映画館ではポップコーンにかけ放題とか言われるカロリーの塊。

 バターを一片ほど投入。

 このバターが――私を狂わせるっ!!

 というわけでしっかりかき混ぜ、バターを馴染ませまして~。

 レンゲで掬い、しっかりと冷ましてから口の中へ。

 

「あー!! うっまい!!」


 えっ!? 朝からこんなものを食べてもいいのか!?

 ああ、おかわりもいいぞ。好きなだけ食え。

 うめ。うめ。

 ……やっばいわこれ。

 いや、知ってたよ? こうしたら美味いって。

 でもさぁ! やっぱさぁ! 実際に食べたらもう頭がパーンっ! ってなりましたよね。

 美味しさが爆発してるぜ。


「やっぱ牡蠣にもホタテにもバターは合うなぁ」


 この最後に入れたバターの働きが凄いわ。

 コクといい感じの塩味、あと香りをプラスしてくれてる。

 その香りも和食特有の香りを壊すほどじゃないしさ。

 で、火が通った事でプリプリになった牡蠣がそこに入ってくるわけよ。

 ふわりと香る磯の匂いがたまりませんわ。

 やっぱり牡蠣って悪魔の食い物だよ。

 無限に食えるもん。


「ホタテもうめぇ!!」


 で、食感の違うホタテも最高。

 いいアクセントになってる。

 米と、牡蠣と、ホタテ。

 食感の三重奏や~。


「やっぱ良いダシ出てるわ。スープがうめぇ」


 米がしっかりと吸った雑炊のスープ。

 単純な味付けだったはずなのに、カイルイフシギキノコの出汁が滲み出てすっごい深い味わいになってる。

 貝類から出るダシなのには間違いないんだけど、雑味が一切ない感じ。

 それでいてあっさりしてて、バターのコクも加わってると。

 おいおい天才かよ。

 自分の料理の腕前が怖くなっちゃうぜ。


「はぁ……満足。ご馳走さまでした」


 完璧で究極の雑炊を奇麗に平らげ、手を合わせてご馳走様。

 朝からこんなもん食えたんならそりゃあご機嫌にもなりますわ。

 さてと、今日の晩御飯でも今から考えましょうかね~。



「よぉ、やっとるかい?」

「誰だ――って兄者か。見ての通りじゃわい」


 異世界から戻ってきたガブロは、自分の弟の営む工房へと顔を出した。

 その目的は――、


「兄者の持って来た製法に取り組んどるが、中々上手くいかん」

「鉄じゃいかんのか?」

「試したが無理じゃ。今は鋼で様々試しておる」


 翔の世界で仕入れてきた刃物の製法。

 いわゆる日本刀の技術だが、やはりドワーフと言えどそう簡単に再現できるようなものではないらしく。


「未知で謎の技法じゃが、その考えの軸は分かるっちゅーなんとも珍しい製法でな……」

「理解不能な机上の空論じゃないのが、余計に苛立たせるわい」


 他のドワーフも休憩、という感じでガブロとその弟の元へと集まって来て、工房で取り組んでいる日本刀技術の習得に向けて意見を交わす。


「やはり高純度な鋼が良さそうじゃ」

「温度と冷やすタイミングに関してじゃが……」

「完成したと思っても強度にも問題が出るからのう」


 そう言って様々な意見が飛び交うも、まだまだ異世界の――日本刀の技術をこの世界が手に入れるのは先の事の様らしい。


「む、そう言えばじゃが」

「?」

「タイラントソードフィッシュの素材――削ぎ切りした鱗と骨、ヒレがあるが買うか?」

「全部卸してくれ。兄弟価格で頼むぞい」

「そんならこれも付けるか。珍しいと思って取っておいたんじゃが」


 そう言ってキレイな水色の塊を取り出したガブロは、それが何なのかと問いたい表情の弟に向けて、


「タイラントソードフィッシュの内臓の中にあった。恐らくは胆石だと思うが、こんなデカいサイズは聞いたことがない」


 と説明。

 成人男性の両手に乗せるとはみ出るほどの大きさのソレを、ガブロの弟が持ち上げてみると。


「かなり軽い」

「強度も中々じゃぞ? 大体の宝石よりも固い」


 そう言ってタイラントソードフィッシュの素材と引き換えに代金を受け取ったガブロは、工房の出口へと足を運び。


「完成したら連絡をくれ。楽しみにしとるぞい」


 そう弟に声をかけ、工房を出て行ってしまった。


「……今日は酒は無いのか」


 そんな兄の背中を見送り、実にドワーフらしい事をポツリと呟く、ガブロの弟、『グラナイト・ペグマ』なのであった。

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