第126話 食い付き◎
あぁ……秋刀魚が美味い。
昼飯にと異世界太刀魚――ややこしいな、シロミザカナモドキの尻尾の方。
試食で秋刀魚みたいだと判断した部分を、塩焼きに致しまして。
焼いている間に隣で厚焼き玉子を作りまして。
さらには大根なんかもおろしちゃいまして。
今日のお昼ご飯はシロミザカナモドキの塩焼きに厚焼き玉子、インスタント味噌汁のお手本の様な和食でござい。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
「やっぱ日本人って魚食ってる時が幸せを感じるんだよなぁ……」
青いとすら思うほどに真っ白な身。
箸で切っただけで脂が溢れるその身に、すだちを少々かけて大根おろしを乗せ。
少しだけ醤油を垂らし、頬張る!!
大根おろしとシロミザカナモドキの脂がジュワッと溢れたところで熱々の白米!!
言う事ねぇべ。
んだらそこさみそ汁流し込むだぁよ。
これ、鉄板ね。
「あー美味い!」
俺ってば庶民だからさ。
高級な食材とかももちろん美味いんだけど、これくらいの食材がなんと言うか、馴染みがあって余計に美味いと思うわけ。
……最近の秋刀魚の値段には目を瞑るけどもさ。
これ、今晩もシロミザカナモドキの尻尾の方を使おう。
俺が秋刀魚を使った料理で塩焼きの次にお気に入りな料理を作る。
そしたらば……買い物かな。
色々と調味料も減ってきてるし、それらも含めて買い物に行ってきますか。
*
ふぅ。ただいま。
まさか途中で徳さんに捕まるとは思わなかったわ。
んで、またお酒貰っちゃった。
ありがたく料理酒として、ついでにガブロさんへの餌付け? 酒付け? に使わせて頂こう。
んじゃあ休みにしか出来ない事をやっていくわぞ~。
本日は浴室掃除の気分。布団は今朝から干してるから、夕方には取り込んで、と。
それくらいで丁度四人が来る時間になるでしょ。
トイレには奇麗な神様がいるのは周知の事実だが、風呂場にも奇麗な神様は居るねん。
というか、家の中に奇麗な神様が居ない場所は存在しない。
古事記にもそう書かれている。
てなわけで、掃除は大事。日本書紀にもそう書かれている。
*
「邪魔するぞい」
「いらっしゃいませー」
何名様ですかー? 四名様。
おタバコはお吸いになられますかー? あちらの空いているお席にどうぞー。
「今日の料理は?」
「貰った魚の尻尾付近の身を使います」
俺が促すまでも無くテーブルに着いた三人は無視し、ラベンドラさんがエプロンを着用しながら聞いてくる。
もしかしてそのエプロン、気に入っちゃいました?
「それらを醬油ベースの煮汁で煮詰めます」
「美味そうだ」
「というわけで早速作っていきましょう」
いざ、調理。
……と言ってもなぁ、今日の調理は楽なもんよ。
四人が来る前に引っ張り出した圧力鍋に、適当な大きさに切り出したシロミザカナモドキの尻尾付近の身を入れまして。
水、砂糖、醤油、みりんとお酒をぶち込み、匂い消しに千切りにした生姜をポイポイと。
そしたら中火で加熱し、圧力がかかった時点で弱火に調整。
そのまま二十分ほどで完成です。
「この鍋は?」
「中を密閉して圧力を加えることで、普段よりも高温で調理することが出来ます」
「そうなのか?」
「えぇっと、高い所とかだと水が沸騰する温度が下がるんですけど、それと逆の状態を無理やり引き起こしているのがこの鍋でして……」
説明、合ってるよな?
気圧が下がると、沸点は低くなるもんな?
「つまり魔道具?」
「ごく普通の家電……俺たちの世界の道具ですよ」
「この世界の技術力というのはやはり凄いのだな……」
後は待つだけになったから、やる事無くなってこんな会話をラベンドラさんとしてた。
……うん、あとね、見つかったよ。
ガブロさんに。酒が。
「カケル、その瓶なんじゃがな」
「…………はい」
「わしの勘と嗅覚と触覚と視覚が酒だと叫んで居るが、どうじゃ?」
嗅覚と勘、百歩譲って視覚も理解は出来る。
だがな――どこをどうしたら触覚で酒だと認識できる?
しかも触ってすらないだろあんた。
「今日貰って来た日本酒ですけど……」
「ひゃっほい!! くれ!!」
「いいですけど、ワインも買ってきましたよ? そっちはどうします?」
で、俺がこういった瞬間ガブロさんの動きがピタリと止まり。
リリウムさんとマジャリスさんが、酒なら興味ないという態度だったのに一変して俺の方へと顔を向けてきて。
「ワインで」
ガブロさんの意見なぞ知らんと、リリウムさんがそれはもう笑顔でそう言ってきた。
……ちなみにこのワイン、姉貴に連絡を取って聞いてみたんだけど。
『はぁ……あんたがワインねぇ。――クリュッグでも買っとけば?』
とか言われて調べて値段見たらもうびっくり。
こんなん買えるか! ってなったら、
『別にこだわり無いんならスーパーで売られてるやつでも十分美味しいわよ。ワイン専門のお店とかにでも行って、店員さんに相談するのが確実だけど』
なんて言われた。
なので今回用意したワインは――スーパーで売ってる美味しいワインみたいなやつ。
一応ラベルとかは外してある。
異世界に持ち込んだのを他の人に見られたら、どこの言語だ? とかなりかねないしね。
「赤と白ありますけど、両方とも持って帰ります?」
「もちろん! ああ、異世界産のワイン……楽しみですわね」
「確かチーズはまだあったな!? ラベンドラ」
「ある。向こうに戻ったら軽く炙ってやるよ」
なんて盛り上がり始めたエルフ達。
そう言えばガブロさんは?
「異世界産のワインじゃぁっ!!」
あ、元気そうですね。
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