第109話 初調理器具
える知ってるか?
俺が勤める会社には、創業記念日という素晴らしい日がある。
――今日がその日!! 説明しよう! 創業記念日とは、会社が創業した事を祝って会社に感謝の気持ちを抱きつつ休みを謳歌する日なのだ!!
……けっ! 誰が感謝するか、っぺ!!
――とはならんのよなぁ。
このご時世に休みはしっかりあるし、残業もほぼない。
こうして普通はない休みもある。ホワイト企業も真っ青な素晴らしい会社だからな。
真っ青どころか真っ白だけど。
あんな? 白って二百色以上あんねん。
なお、週末納期の案件を木曜夕方に振ってきたり、月末納期の案件を最後の三日とかに投げてくることに対してはマジで暴言を吐かせてもらう。
つーか会社に恩はあれど仕事にはねぇんだ、ぺぇっ!!
「つーことで、ゆっくりじっくりやってきますかぁ!!」
そんなわけで、休みになった日にする事といえば?
そう!
クソほど手間がかかる料理ですわぞ~。
というわけで位置について~。
よ~~い……どん!!
まずはお肉を豪快にドカッと切り出しまして~。
そこに肉の重量に比例したお塩を揉み揉み。
胡椒もまぶして同じく揉み揉み。
このまままずは三十分放置!!
その間にタレ、作っていきますわ。
「醤油、砂糖、みりんっと」
和食の定番調味料にニンニクと生姜を加え、沸騰させてアルコールを飛ばせば完成。
……ゴマも入れよう。
以下、肉の放置が終わるまでリラックスタイム。
――にはならねンだわ。
というわけで本日の主役の紹介!
姉貴に頼んで買って貰った低温調理器!!
使ってみたかったんだよねぇ!
というわけで肉を放置している間に肉の質量の計算。
これによって何時間低温で調理するか決まるからね。賢い僕は考えました。
計算機を使えばいいのだと。
「(上底+下底)×高さ÷2っと」
恐らく人生で二度と使わないであろう台形の公式を口ずさみつつ、計算終了。
あとはこれを表と照らし合わせてっと。
ズバリ、このお肉! 八時間の低温調理ですな! QED!
……え? 八時間?
マジで言ってます?
俺のお昼ご飯の予定だったんですけど?
あ、そっかぁ。お昼はお昼でそれ用に薄く切って作ればいいのか~。
嫌じゃ! 昼も夜も同じ食事は嫌じゃ!
それが許されるのはカレーの時だけじゃ!!
しゃーなし。昼は適当に何か作って食べよう。
――卵はあるな。
粉チーズと、パセリもあるっと。
じゃあ、ポークピカタでも作りますか!!
*
引くほど美味かったでおじゃる。
というか、何やっても美味いわ。
マジで。この素材を不味く出来たら料理人失格とか、二度と台所に立つなとか、そういうレベル。
何なら、ただ焼いただけで美味い。
塩コショウすら要らんレベル。
ふぅ。
さてさて、低温調理器ちゃんは順調かな~?
……うん。見た目じゃわからんね。
俺に出来るのは低温調理器についてた表を信じる事のみ。
というわけで……寝る訳にもいかんのよな。
万が一にも低温調理器は気にかけとかなきゃいけないわけだし。
ほったらかしでいいとは書いてあるけど、如何せん初めてだし、注意するのは大事。
低温とか言いつつ、63℃あるからな。
人間なら煮えてるよ。
……まぁ、豚肉を今まさに煮てるんですけどね、ガハハ。
ちなみに最初に作ったタレも肉と一緒に入れてる。
やっぱりね、レアチャーシューと言ってもチャーシューですから?
俺は肉にしっかり味が染みてる方が好みだね。
というわけで少なくとも、リリウムさんたちが来る時間になるまでは、台所の整理とかでもしますか。
主に冷蔵庫の中とか、調味料類とか。
買ったはいいけど使わないで賞味期限切れてるとかままあるし。
本当に申し訳ない。
次は使い切るから……。
*
「お邪魔しますわ」
というわけで四人が登場。
で、当然視線は低温調理器なわけですよ。
「カケル、それは……何をしているんだ?」
「これは低温調理器と言って、お湯を一定の温度に保ってくれる機械になりますね」
「それは……何か凄いのか?」
なんて、抜けた質問をしたガブロさんに、ラベンドラさんが迫る。
「当たり前だろう! 時間経過でお湯の温度は変化するのだぞ!? それを一定に保つとなれば、どれだけ細かく湯の状態を『鑑定』したり、火力の調整をしたりしなければならないか……」
まぁ、その反応になるよなぁ。
「とにかく、凄い事なのですわね」
「それで? それが出来ると一体どんな調理が可能になるんだ?」
恐らくだけど、魔法を理解してるリリウムさんとマジャリスさんはぼんやりながら低温調理器の利点を理解してるな
で、その理解は、低温調理機で可能になる調理法に繋がる、と。
「ムラの無い加熱と、必要以上の過熱をしないので、お肉がしっとり柔らかに仕上がります。もちろん、その分時間はかかりますけど」
「どれくらいが必要なんだ?」
「今日の五人前くらいの肉の量ですと、ざっと八時間でしたね」
そう言うと、顔を見合わせる四人。
まぁ、エルフ達だしなぁ。そんな長い時間とはならないか……。
「たった一食の為にそこまで時間をかけるのですか?」
「え? まぁ、はい」
「いや……その……こういう事はあまり言いたくないんだが――割に合わなくないか?」
リリウムさんとマジャリスさんから言われたのは、信じられない、というような感想。
割と料理に手間暇かけるとかあるよな?
いや、八時間がよくあるかと言われたらそりゃあないんだけど。
ただ、
「分かる、私には分かるぞカケル。どれだけ時間をかけても美味い一食を食べたいというその思い」
ラベンドラさんは俺の肩を掴んでこう言ってるんだ。
つまりあの……ラベンドラさんも似たような経験を?
「どうでもよいから腹が減ったわい」
「そうですわね」
「じゃあ、直ぐに用意しちゃいますね」
なお、そんな雰囲気を壊したのはガブロさんなもよう。
もはや安定というか、安心感さえ覚えてくるよ。
……というわけで本日の料理は豚肉のレアチャーシュー丼。
あ、豚肉を低温調理する時はしっかりと説明書通りの計測、時間で作り、自己責任で食しましょう。
食中毒とか怖いからね。
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