第110話 悪だくみ……?
丼に~、ご飯盛り~、肉切って~……。
目玉焼きもドーーーン!!
ついでに白髪ねぎを大量にドーーーン!!
以上!! 完成!!
今日はラベンドラさんに手伝って貰うまでもないや。
にしてもこのレアチャーシュー、包丁で切っただけでもうしっとりとした感触が伝わってきたわ。
包丁に肉が吸い付くっていうの?
タレもしっかりと吸って色が変わってるし、でも肉の中心はピンクだし。
美しい……これ以上の芸術作品は存在しえないでしょう……。
「まるでお花が咲いたようですわ」
と、これは盛り付けを見たリリウムさんの言葉。
なるほど、レアチャーシューを花びらに見立てたのか。
ローストビーフ丼とかで見るよね。花っぽく盛り付けるやつ。
別に意識はしてなかったんだけど、確かに言われてみると花っぽいか。
肉の中心には白髪ねぎ、その隙間から目玉焼きの黄身が覗く。
こんな肉肉しい花があったら是非とも見て見たいな。
……いや、ワンチャン異世界にある説。
だからリリウムさんはこんな感想を持った、どうだ?
「流石にこんな美味そうな花は見たことが無いわい」
「自然界にあれば毒がありそうな見た目だな」
「絶対虫系の魔物を捕食するタイプの花だろ、これ」
あ、はい。
無いみたいです。
クソっ! この灰色の脳細胞が推理を外すとは……っ!
この翔の眼を持ってしても見抜けなかった。
「とりあえず、絶対に美味しいんで食べましょ食べましょ」
「そうじゃな」
エルフ二人の言葉でやや食欲が削がれたけど、食べなくてもほとんど美味しいのは確定的に明らかだし。
あ、ちなみに低温調理が終わったチャーシューは氷水に入れて粗熱を取ってる。
余熱で火が入り過ぎないようにする為にね。
というわけで熱すぎず、いきなり口に入れても大丈夫な熱さ。
まぁ、この人たちならそんなの関係なく口に放り込むだろうけど。
「……む、蕩ける」
「とても柔らかで美味しいですわ!」
「ほほぉ……これは美味い」
「薄く切ってあるのに満足感があるな……」
最初の一切れを食べたそれぞれの反応です。
なんか……反応薄い?
低温調理は微妙だったか?
俺も一切れ食べてみるか……。
パクッ……。――あ、これ美味い。
なんだろう、美味いんだ、美味いんだよ。
なんと言うかこう、美味しくて……。
こう――あー-もう!! 美味しい事を説明したいのに語彙が足りん!!
「口の中に入れるとゆっくりと溶け、うま味を滲ませる……」
「肉に付いた味付けが絶妙だ。肉のうま味と調和し、引き立て、そしてご飯を催促する」
「とても上質なバターみたいな感覚ですわ。ただ、バターには無い肉のうま味と食感、異世界の味付けが総じてハイレベルな味に押し上げていますの」
「今までの料理では肉がすぐに溶けて噛む暇があまりなかったが、この調理法の肉だとしっかり猶予がある。噛む事で満足感や達成感が得られる点で、この調理法は他とは大きく異なるな」
俺が語彙を喪失してる間に四人が全部言ってくれた。
というか、語彙を無くすのはリリウムさんの役目でしょ。
ごいうしなつて。
やくめでしょ。
「思えば塩釜焼きの時に似ている気はするが……」
「あちらも噛むことは出来ましたが、こちらほど口の中には残りませんでしたわね」
「肉を楽しみたいならこっちじゃな」
「だが八時間かかるぞ?」
塩釜焼き……美味しかったなぁ。
言われてみりゃあ確かに、塩釜焼きを食べた感覚には似てる気がする。
――これあれか、すでに体験したからある程度耐性が出来ちゃってたやつか。
いや、美味しいに耐性もクソも無いが。
「手間をかける価値は確実にあるな」
「だが、平時に食べようとするのは流石に……」
「そもそも温度を一定に保てないのですから向こうでは食せませんわよ?」
「それはそうだ。これも新規魔道具の開発を待たなければ……」
あ、なんかラベンドラさんが変な事言ってる。
というか、そんな魔道具作って、低温調理以外に使い道無いんじゃ?
低温調理専門の道具を作るとか正気か?
……いや、既に作ってる俺たち側から言うのもおかしいけどさ。
「魔法薬生成に一役買うと唆せば調合ギルドを巻き込めんか?」
「具体的なレシピが無いと動かんぞあそこは」
「温度を一定に保つなら、生成確率が安定しない魔法薬を安定させられるとかないでしょうか?」
「やってみてもいいがそもそもその一定に保つ術がない」
この人たち、ホント凄いと思うよ。モグモグ。
なんとか調理器具を作れないかと、色んな知識を動員して考えてるんだもん。モグモグ。
しかも何も知らない人たちまで巻き込もうとしてるからね、食欲の為に。モグモグ。
「色んな温度で作ったパターンをサンプリングし、それらを表にまとめて説得するしか……」
「むしろ既にその辺で頭を悩ませている可能性はないか? もし温度を一定に保つための魔法式を構築できるのであれば、それを与えて研究させれば……」
「商人ギルドも抱き込んで、研究と販売を結び付ければ近いうちに実現できるのでは?」
「材料の確保も大変じゃろう? いっその事、王へ奏上した方が早いんじゃないか?」
ふぅ。ご馳走さまでした。
なんと言うか、150点が叩き出せる味ってより、常に98点をキープし続ける、みたいな味だった。
物凄く高い所で安定してた。これまでの料理が色々と飛びぬけてただけに、こういう落ち着いた料理は必要だったよ。
……落ち着いてたか? 明らかに他の材料で作った時の料理よりは美味いんだよな……。
信じられるか? カニミタイナカタマリで作ったクリームパスタより美味いんだぜ?
なのにみんな冷静に感想言って、どうやったら再現出来るか、その為の魔道具作りの相談に勤しんでるんだぜ?
ははーん。さては舌が肥えたな?
……俺も肥えたんだろうなぁ。どうしよう、スーパーの豚肉で物足りなくなっちゃったら。
――いっその事四人について行ってお抱えシェフとして……でもラベンドラさん居るしなぁ。
う~~む……。
と、俺が頭を悩ませている間も、四人はあーでもない、こーでもないと議論を続けているのだった。
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