第355話 今までつらく当たってごめんよ……

 まぁ……何と言うか。

 杞憂でしたよ。

 当たり前にミキサー使ってシェイクを作ってた。

 んで、その過程でバニラアイスの比率がどうだとか、このアイスはこれ位入れたい、とか、こだわりのカスタマイズをし始めるいつもの流れね。

 以下、全部のアイスをシェイクにしてみての感想をどうぞ。


「私は和梨のシェイクだな。瑞々しく、さっぱりとしていながらも濃厚な果汁感。あれはどうやってアイスにしたのか気になる所だ」


 ラベンドラさんは最初に飲んだ和梨のシェイクがお気に入り。

 なんと言ってもスッキリさららとした口当たりと、梨の濃厚な果汁の味が楽しめる。

 コンビニアイスとは思えないクオリティだよね。


「違うな。これを飲み干すだけでもういい、と思える濃厚な甘さが一番に決まっている。というわけでこのイタリア栗シェイクがナンバーワンだ!!」


 独自の持論を展開するマジャリスさんは、お高めブランドカップアイスから作ったイタリア栗シェイクがベストマッチ。

 そもそもそのブランドのアイスは大体味が濃いからな。

 甘すぎるって人ももちろんいるけど、こうしてシェイクにするとまた美味しい。

 そこに栗の風味が加わるんですよ奥さん。そりゃあ美味しいってもんよ。


「甘すぎるのはうんざりするわい。わしもラベンドラと同じく和梨のシェイク……いや、シャインマスカットも――」


 そこに異を唱えるのは甘みより酒のガブロさん。

 そう言えば、甘党の対義語にある辛党って言葉。

 あれ元々酒飲みを指す言葉だったらしいね?

 最近だと当たり前に辛い料理が好きな人って使われ方してるけど。

 まぁ、そんなガブロさんだから、当然好みはサッパリ系に寄るわけで。

 フルーツアイスのどっちもを気に入ったみたいね。

 だってこの人ら、自分の主張をしっかりするタイプだから、こうして基本悩まないし。

 悩むって事は、それだけその人の中で競り合ってるってことでしょ?


「私は……悩みますけれど、やっぱり焼き芋シェイクですかね? 栗とはまた違った香ばしさとねっとりとした甘みがもう最高ですの!!」


 ……俺の勝手なイメージだけどさ。

 女性が焼き芋好きな率高くない?

 国民的青狸ロボが出てくるアニメのヒロインも、大好物焼き芋だったはずだし。

 あと、青繋がりで、青いペンギンがマスコットキャラクターの某激安の殿堂で一番売り上げがあるのは焼き芋とか聞いたことあるし。

 ……もしかしてこれ、国民単位で焼き芋が好き説ある?

 スーパーとかでも大体焼き芋売られてるしね。


「この間持って来たマンドラゴラ倭種で作ると最高そうだな」

「確かに! あのきんつばとか言うデザートにした個体だろ!? 絶対に美味い!!」


 ……あー、サツマイモとかかぼちゃのマンドラゴラか。

 あれ滅茶苦茶美味しかったよな。

 アレを……シェイクに?

 ――うっ、少し勿体ないと思ってしまう反面、絶対に美味しいのが確定してるから飲みたい気持ちも強い……。

 とりあえず、また持って来てもらっていいですか?


「これから潜るダンジョンに期待ですわね」

「そうだな。さて、カケル」

「お持ち帰りですね?」

「それなんだが、私の思いついた料理を作っていいか? もちろん、カケルの分も作る」

「じゃあお願いしますね」


 俺としては普通に牛タンカレーのホットサンドを作ろうと思ってたんだけどもさ。

 ラベンドラさんにこう言われちゃったら、もう任せるしかないよね。

 というわけで見学タイム。

 何やらマンドラゴラを取り出しまして、フライパンに油を引いて温めて……。

 ご飯をぶち込み、そこに溶き卵、刻んだマンドラゴラに、ある程度の細かさに切ったジライヤタン……。

 これ、さてはチャーハンだな?

 そういや、結構初めの頃にキムチチャーハン教えてたっけ。

 すっかりモノにしちゃって。


「お? チャハハーンか」


 ん?


「私大好きですのよ、チャハハーン」


 待って?


「どんな具材で作っても美味いからな。チャハハーンは食い慣れたもんじゃて」


 待てってのに。


「――大変申し上げにくいのですが……チャハハーンではなくチャーハンです……」


 なんだそのエキサイト翻訳で複数回翻訳したような名前の料理は。

 怒られるぞ、四千年の歴史を誇る国に。


「? チャハハーンではないのか?」

「チャーハンですね……」


 合ってる? 合ってるよね? 凄く自然にチャハハーンって言われるからむしろこっちが間違えてるのでは? と思っちゃうんだけど……。


「わしらの世界だともうチャハハーンで浸透しとるぞい?」

「貴族も笑顔で「チャハハーン」と呼んでいるな」

「その……恐らく最初の頃の翻訳魔法がまだ安定していなかった時期でしたので……」


 ……犯人は貴様か翻訳魔法の精霊よ。

 ――ってちょっと待てよ? 精霊って事は生きてるんでしょ?

 んで、この四人がこの世界に来てからほぼ毎日翻訳してるわけでしょ?

 ……休みなし? ドブラックじゃねぇかよ。

 ごめんよ翻訳魔法さん。君もこっち側だったんだね?

 今日から労うよ……何かお供えしようか?


(わしのは?)


 ……神様にも供えますので。

 あ、神様。翻訳魔法の精霊さんって好みとかあります?


(……きゅうりがいいと言っておるが?)


 カブトムシかな? 胡瓜か……大丈夫なのか? それは。

 精霊として……。


(後は……そちらの世界の清酒がいいとの事じゃ)


 ……神様の主張入ってない? 本当に翻訳魔法の精霊さんが言った?


(ほんとじゃって)


 じゃあ、明日清酒を買って来てお供えしよう。

 ついでに神様にも供えるお酒買って来ますか。


(なぜわしがついでなんじゃ?)

「カケル、出来たぞ」

「あ、はい」

(これ、聞かぬか)


 神様がなんか言ってるけど、ラベンドラさんに呼ばれたからね。

 そっち優先、っと。


「チャハハーンをおにぎりにした」

「おー」

「形状記憶と状態保存の魔法がかけてある。これで朝まで出来立てだ」

「……どか弁の中に入れとくだけでいいのでは?」


 んで、もうチャハハーン呼びになってるけど、ジライヤタンのチャーハン、そのおにぎりの完成。

 コンビニとかに売ってる丸型じゃなく、握ってるから三角おむすびになってるけど。

 あと、無駄に魔法がかけられてたりするけど。


「では、世話になった」

「ダンジョンで新たな食材を調達してきますわ!」

「楽しみにしとるんじゃぞ~い!」


 と言いながら四人が姿を消す。

 ……見逃して無いからね? 一人だけシェイクを作って持ち帰ったマジャリスさんの姿を。

 神様、あれ没収で。


(ほいほい。美味しく頂かせてもらうぞい)


 そう上手くは進まないの。マジャリスさん。

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