第394話 お 待 た せ
「この〆のバゲットが最高に美味い」
というわけで具材が全て食べきられてしまったので、今回のアヒージョの〆はバゲットを浸して食べる事に決定。
少しでも具材が残ってればパスタって選択肢もあったんだけど、残念ながらお代わり分含めて全部食べ切られちゃったんだよね。
綺麗サッパリ。
……まぁ、俺も美味しくてガンガン食べてたんだけどさ。
「一応油なんで、取り過ぎは体に良くないんですけれど……」
「だがオークの脂よりは健康的だろう?」
「まぁ、それは……」
ちなみに異世界……と言うか、エルフの健康基準ってさ。
聞いた感じ、骨が浮き出る程痩せてなく、動き回るのに支障が出るほど太ってない事、だそうだ。
筋肉量が~とか、内臓脂肪が~とか以前に、とにかく見た目で分かることが健康の基準っぽいね。
で、植物油というか、オリーブオイルは皺やシミの予防だったり、肌の健康維持に役立つとかなんとか。
それとオークの脂を比べたら、そりゃあねって感じではある。
「それに他の油と違ってこれはこれだけで美味い」
「香りと別に独特の苦み……後は少々の刺激がある」
「これだけでもマンドラゴラのサラダとかにかければドレッシングとして成立しそうですわ」
あー……。
言ってた言ってた。
美味しいオリーブオイルはドレッシングだって。
どっかのイタリアンシェフが弟のソムリエとご飯食べてる動画で。
にしてもオリーブオイル、確かに意識して味わったことないかも。
ちょっと意識しながらバゲット齧ってみるか。
……うん、ニンニクと鷹の爪に邪魔されてなーんもわかんね。
違いの分からない男……。
「ふぅ……可能であれば持ち帰りたいところだが……」
「難しそうですわよね」
「? パッケージを外して瓶ごと宝箱に入れておけばいいのでは?」
「取り合いになる」
「あー……」
この人らあれだ。
異世界にオリーブオイルを持ち込む難しさじゃなくて、持ち込んだ後に自分らで独占する難しさを危惧してるんだ。
……じゃあここで食べる以外は我慢してもらう以外ないですね。
「瓶ではなくわしらの世界の水筒に入れなおさにゃいかんし」
「その状態で宝箱に入っていて、まともに食えるという証明をするのも骨だろう」
まぁ、確かに。
いつから入っているのか分からない、しかも見たことない液体を口にしようなんて、恐らくそんなことするのは――昔の日本人だけだろうなぁ。
明らかに腐ってる見た目で糸まで引いてる食べ物すら食べてみるんだから。
それくらいはやるだろうという安心感がある。
「となると、やはりカケルの所でしか食せなくなる、か」
「まぁ、使う料理多いですから」
日本食じゃないけど。
ほとんどのイタリアンに使えるし、要望とあれば作りますけどね?
「さて、カケル」
「はい」
「デザートなのだが」
「はい」
「……あるよな?」
すっごい神妙な顔して「はい」としか言わなかったら、マジャリスさんがめっちゃ心配してるの笑う。
安心してください、用意してますよ。
「クレープって作ったじゃないですか?」
「美味かったな」
「今日もクレープか?」
「いやいや、そうではなく。想像してください。クレープ生地にクリームを塗って、またクレープ生地を重ねる。これの繰り返しでケーキを象ったとしたら?」
「絶対に美味しい奴ですわ!」
はい、というわけでお察しの通り、本日のデザートはミルクレープになります。
しかも、通常のカスタードミルクレープとは別に、期間限定のモンブランミルクレープと、ショコラミルクレープをご用意しました。
「それがこちらになります」
「三種類あるのぅ」
仕事帰りに全部ホールで買って来たからね。
というわけでラベンドラさん、五等分よろしくお願いします。
「個人の意見ですけど、これには紅茶が合うかと」
「ではそうしよう」
という事でお湯を沸かし。
本日の茶葉はダージリン。
ストレート向きで、渋味が強めのその茶葉は、何といってもケーキに合う。
しっかり正しい淹れ方を検索し、その通りに抽出しまして。
「お待たせしました。ダージリンティーです」
「まるで果実を思わせるようなフルーティな香り……」
「この香りは何かを混ぜると途端に失せてしまいそうな儚さがありますわね」
「ストレートが基本の茶葉か」
「ケーキの前に気を落ち着かせるいい紅茶だ」
うし、ダージリンティーも好評っと。
香りに言及されてたけど、特に香りが強いと評判のセカンドフレッシュ? って奴を買って来てみた。
秋摘みの事らしいよ?
「さて……いよいよメインディッシュだ」
マジャリスさん? メインは先程食べたでしょう?
アヒージョがメインで無いって言うんなら今日のメインは何だよ。
ミルクレープか。
そうかそうか、君はそういう奴だったんだな。
「食べる順番はプレーン、モンブラン、ショコラの順番がいいかと」
「ではそうしよう」
という事で最初はプレーンミルクレープから。
フォークを渡し、ミルクレープに突き立てると……。
「このクレープ生地が断層になっている所にフォークを突き立てる感覚が面白いな」
「フォークを伝って子気味いい刺激が感じられますわ」
「クレープ間のクリームの層の厚さにムラが無いのが凄い……。どんな職人が作っているんだ……?」
「間にハムとか挟んだタイプは無いんかい?」
あってたまるか。
というわけで初めてのミルクレープ実食、行ってらっしゃい。
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