第330話 閑話 暇を持て余したラベンドラ

「さて……何をするか」


 翔の家から自分たちの世界に戻った『夢幻泡影』は、ダンジョンに入らずに四人それぞれが別行動中。

 オズワルドは元より、他のギルドマスターや果てには国王まで、


「昇格会が終わるまでダンジョン入るの禁止」


 を告げられてしまい。

 ガブロ、リリウム、マジャリスはそれぞれ済ませたい用事があると言ってどこかへと出かけてしまった。

 一方のラベンドラは特に当てもなく、とりあえずは王都の周りを適当に散歩中。


「昇格会の日になっても戻ってこない可能性があるだの、そもそも昇格会までに魔物にやられてしまう可能性もゼロではない、だの、好きに言ってくれる」


 散歩をしながら、主にオズワルドに言われた言葉に若干の腹を立てるものの、過去の大遅刻の件があるため大っぴらに抗議も出来ず。

 大きなため息をついた……そんな時。


「うん?」


 ふと顔を上げると、そこには、王都から出たばかりであろう冒険者パーティの一団が。

 人数は五人。全員人間。

 恐らくは冒険者になりたてであり、今まさに、希望を胸に歩き出したばかりという所か。

 と、装備を見て理解したラベンドラ。

 だが、


「うん?」


 その冒険者たちの向かう先。およそ人間の視力では確認出来ないが、エルフであれば可能な程度には先の方に、おおよそ新米冒険者たちには辛い相手の存在が。

 老婆心ながらに排除でもしてやろうかと、懐で短刀を握るも、


(あらゆる障害に対して適切な対処を迫られるのが冒険者、か)


 と思い直し、静観することに。

 ただ、もし万が一が起こりそうであれば、救助並びに助太刀をする準備はしていたが。

 そうして、刻一刻と一段と障害は近付いていき――どうやら、冒険者たちも自分たちに迫りくる最初の障害に気が付いたようである。

 その障害とはスノーボア。

 かつて、初めて翔に送った異世界の食材であり、ラベンドラ達がその時倒した個体のサイズはおおよそ八メートル。

 対して、今新米冒険者たちが挑んでいる個体は二メートル前後と言ったところ。

 新米であっても倒せる程度の魔物ではあるが、自分よりもデカいサイズの魔物と相対して実力を発揮できるかどうかというのは別の話。

 ……だが、


「ほぅ。意外とやるな」


 身軽な一人がヒョイと背中に飛び乗り、急所である脳天へ一撃。

 急所の一撃で動きを止めたスノーボアに、他のメンバーの攻撃が集中し、気が付けばほぼ無傷で戦闘を終えていた。

 新米ながらに、よくやったと褒めたくなるような内容だったらしく、


「やるな、お前ら」


 気が付けば、ラベンドラはその新米冒険者たちへと声をかけていた。


「こんな奴に俺らの冒険の出鼻をくじかれてたまるかって」


 ラベンドラはダークエルフである。

 よって、人間の外見で年齢を判断することは苦手である。

 が、それでも子供、と確信出来るその反応に、フッと目を細め。


「そうか。……それで? その倒した魔物はどうする?」


 と、尋ねた。


「特に食糧には困ってないし、牙や爪なんかをはぎ取って放置しようかなって」

「僕たちじゃあこの大きさの魔物を動かすのには苦労しそうですし、解体も出来ないので」

「スノーボアの皮なんてありふれてて値段が付かないって聞くもん」


 それに対する返答は、武器に使えそうな素材だけを取り、その他を置いていくというもので。


「なんだ、解体士がいないのか」

「町などに行けば居るだろうし、先に他の職業を揃えたからな」

「そうか。……よし、この中に調理士は?」

「あ、わ、私です……」

「スノーボアの捌き方を教えてやろう。調理士なら簡単な解体は出来るようになってた方がいい」


 それを聞いたラベンドラはさらなるおせっかい焼きを発動。

 調理士という女の子を連れ、スノーボアの近くへ。


「包丁を貸す。言われた通りにやってみろ」

「あ、はい」


 突如として現れた恐らくは先輩冒険者であろうダークエルフ。

 現代日本であれば確実に事案である絵面も、異世界ではそう珍しくない光景。


「内臓を抜いて、そう。骨と骨の継ぎ目に包丁を入れて外すんだ」

「はい!」


 最初は慣れない手つきで苦戦していた少女も、時間が経てば吸収が早く、どんどんと手つきも慣れていき。


「これで終わりだ」

「ありがとうございました!」


 肉と骨、皮、内臓と、それぞれ要不要の場所を奇麗に分け。

 リーダーらしい少年が、骨をいそいそとバッグへと詰める。


「皮も入るなら入れておけ」

「でも値段つかないんだろ?」

「防寒具になる。特に北の方では乱獲が進んでいて、最近だと値が上がっているという噂だ」

「確かに、色んな気候に対応できる服はあった方がいいですね」


 などと言ったアドバイスをしつつ、先輩風を吹かせたラベンドラは。


「この先こんなに上手くいくことばかりじゃない。時には勇気をもって撤退する判断も必要だぞ」

「へっ、分かってるよそんな事」

「その、ありがとうございました!」


 そう言って新米冒険者パーティから離れようとして。


「お、お礼と言っては何ですけど、ご飯……ご馳走させていただけませんか?」


 という調理士の言葉に、思わず足を止め、振り返るのだった。

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