第331話 閑話 リリウムの裏? の顔

「まさかリリウムさんともあろう方がお越しくださるとは……」

「堅苦しい挨拶は必要ありませんわ。それで? 研究の進捗のほどは?」


 それぞれの目的の為、別行動をとった四人。

 その内のリリウムは、とある研究機関へと足を運んでいた。

 目的は……、


「おおよその魔物に、死ぬ寸前に自分の全身へと呪いをかけるような本能がある、とまでは分かりましたが……」


 異世界で言う呪い――異世界産の魔物が、生食出来ない理由の解析。

 さらに言えば解呪の方法を模索する研究に、リリウムは自身の名義で多額の寄付を行っていた。

 理由はもちろん、生で食べたら美味しいかもしれない、という食欲全振りの理由ではあるが。


「マンドラゴラ系列は火を通さなくても食べられますわよね? 関連性は?」

「自身の身体を呪うのは防衛本能から来る反射のようなもので、マンドラゴラはその防衛本能で叫びます。簡単に行ってしまえば、呪う行動よりも優先する行動があると言ったところで……」

「なるほど……。呪いであるから、魔力を持たない個体は生食可なのですわね?」

「理屈で言えばそうですが……そもそも魔力とは僅かにでも持って生まれるもの。先日サンプルを頂いたラヴァテンタクルの幼体が特殊という事例でして……」


 短期間ながら、しっかりとまとめられたレポート。

 それに目を通しつつ、研究機関の代表と話をするリリウムは。


「トキシラズについては? 時間跳躍の特性で呪いが不発となるケースみたいですけれど」

「極めて稀な特例でしょう。そもそも、魔物の中に時間跳躍が出来る存在がほぼおりません」

「仮に、対象を無理やり時間跳躍させて戻すような魔法があったと仮定し、それを使った場合、呪いは解呪されると思いますの?」

「理論上は解呪されているでしょう。ただ、現状無い魔法を引き合いに出されましても……」

「あら、もちろん近いうちに完成させますわよ?」


 おおよそ、一般的な術者が聞いたら卒倒するようなことを平然と言ってのけ。


「解呪魔法については?」

「やはり火属性の魔法が鍵のようです。加熱で呪いの効果が無くなることは誰もが知る通りですが、火属性かつ熱を有しないような魔法があれば可能かと」

「そちらについてもいくつか心当たりがありますわね。一度里に戻って長と話してくるとしましょう」


 そう言ってレポートを代表へと返し、ついでに、と言った様子で懐から大金を取り出したリリウムは。


「成果が出せている内は何も言いませんわ。……ただ、遊びはほどほどにしておいたほうがよろしくて、よ?」


 代表の耳元でそう囁くと、取り出した大金とは別に、代表の懐へと何かをねじ込む。

 それは、リリウムが渡した研究費で派手に遊んでいる代表の姿を映した保存石。

 それを確認した代表は、ギョッとした表情でリリウムの方へと振り返るが。

 既にその場所には、消えかけの魔法陣があるだけで。

 リリウムは、既に自分の生まれたハイエルフの里へと転移した後だった。



「おじい? どうせ私が帰った事を探知しているのでしょう?」


 周囲一帯が凶暴な植物の魔物に囲まれた森林。

 ただしその森林には、強力な結界が張られており、魔物たちはその場所へと足を踏み入れる事は出来ない。

 その場所こそがリリウムの生まれた地であり、一部その場所を知っている人間たちからは『禁足地』と呼ばれている。

 そんな場所に、実にn年ぶり(nは実数)に帰宅したリリウムは、そう誰かに呼びかけると。


「そりゃあ気付いてはおるが、もっとこう、走って来て抱き着いてくるくらいはせんもんか?」

「セルフバーニング状態でもよろしくて?」

「お? ええぞ? わし、こう見えても防御系魔法すっごいんじゃから」


 木の陰から、顔が皺だらけのエルフが登場。

 ちなみに髭は伸びすぎて地面に擦っているし、髪の毛も真っ白で地面を擦っていたりする。

 身長のほどは190㎝程度はあろうかという長身なのに、である。


「バカ言っていないで、開発を頼んでいた魔法の進捗はどうですの?」

「あり過ぎてどれの事を言うとる? ドラゴンを一撃で粉砕するバカ魔力砲撃か? それとも深海でも呼吸と視界を確保できて圧殺されない魔法か? 対象のオナラが一時間止まらなくなる魔法か?」

「つい最近頼んだ、対象を一瞬時間跳躍させて元の場所に戻す魔法――『ブリンク』の魔法ですわよ」


 物騒な物から、現代であればあらゆる国が欲しがりそうな魔法。

 果てには、嫌がらせ以外には使えないであろう魔法まで。

 ありとあらゆる魔法を『おじい』と呼んだエルフに研究させているリリウムは、目的の魔法の事を口にして。


「あぁ、それか。術式は完成、理論も完璧。あとは無詠唱で発動出来る様に装飾品を作るだけじゃな」

「もうすぐじゃありませんの」


 それを聞いた『おじい』も、あっさりと、ほぼ開発が終わっている事を口にする。

 ――だが、


「素材が足らん。もう二体ほどトキシラズを狩って来てくれんか?」

「無茶言いやがりますわね。でしたら私の目の前にトキシラズを連れて来てくださいな」

「『ハイエルフの到達点』と呼ばれたお主がそれっぽっちの相手も探せんとはな―」

「『現代魔法全ての祖』と言われるあなたがその程度の実力とは、私の買いかぶりでしたかしら?」


 売り言葉に買い言葉、この後、他のハイエルフがあわや三桁動員されて仲裁されるまで、ガチのマジな殴り合いをしたこの二人のエルフは。


「後一匹狩って来てやりますからしっかり作るんですわよクソ爺い!!」

「さっさと持ってこいやボケ娘!!」


 と、カケルが聞いたら別人? と思うような荒い口調で罵倒をしつつ、何とか和解。

 この後合流した三人から、


(なんかリリウムが不機嫌じゃないか?)


 と心配されたのは言うまでもない。

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