第175話 アイスと言葉と新食材

「冷やしてあるのか」


 でっかいタッパーにて凍らせたアイスクリームを取り出すと、もう身を乗り出してマジャリスさんが覗き込んでてさ。

 リリウムさんに押さえてもらい、その間にアイスクリームディッシャーでタッパーからお皿に移す。

 アイスクリームディッシャーってあれよ? お店とかにある、アイスを掬ってお皿に移す丸型のやつ。

 最近だと丸型以外もあったりするけど、うちにあるのは丸型のスタンダードな奴ね。

 ……なんであるんだろうね?


「材料を混ぜて凍らせたものか?」

「です。シンプルですけど、味は絶対に美味しいと思いますよ」


 まぁ、アイスで不味いものってちょっと思いつかんな。

 ……え? コンポタ味やナポリタン味のアイス?

 記憶にございませんね。


「それじゃあ早速……」


 スプーンを渡し、四人がそっとアイスクリームにスプーンを刺し入れて。

 ほぼ同タイミングで口に含んで……。

 無言。

 あー……前もあったなぁとか思いつつ、俺も一口。

 ――。


「美味しい……ですわね」

「ああ」


 なんだろう。言葉に出来ない。

 まず間違いなくリリウムさんの言う通りに美味しいんだよ?

 でも、美味しいだけじゃあ足りないんだ。

 だから、それに続く言葉を探して……迷宮に入り込む。

 なんと言うか、この美味しさを定義できる言葉を俺はまだ知らない。

 ぴったりとくる感想が出て来ないんだ。

 四人が無言になったのは、俺と同じく言葉を探していたからだと思う。

 このアイスクリームを表現するに足る、その言葉を。


「舌に乗った瞬間にふわりと溶け、染み込む様な透明感のある甘みが口の中に広がる」

「卵の味も、香りも、鼻に抜けていきますわ」

「舌触りが滑らかで、キメが細かい……」

「さっきまで食っとった天ぷらの油を全て洗い流すような爽快感もあるぞい」


 で、美味しさを表す言葉がない、と諦めたら、こうして小出しに感想が出てくる。

 ていうかヤバいな。このアイス。

 現実に売られてたら冷凍庫の限界容量まで毎回買い込むぞ。

 まず何と言っても軽い。

 プリンの時やシュークリームの時もそうだけど、生クリームよりも軽いんよ。

 そしてラベンドラさんのキメが細かいって感想には完全同意。

 なんていうかな? 舌の上に乗せた時に、もう全部が溶けていくみたいな感じ。

 キメが粗いと、その荒い部分から溶けて行って、全部が溶けるまでにラグがあったりするんだけどさ。

 このアイスクリームはそんな事無い。

 どこかが溶け残る事なんてない。スッと乗せたらスッと消える、そんな感じ。


「味も、甘すぎず、かといって控えめでもない絶妙な加減だ」

「卵の風味から甘さが来るまでの感覚が素晴らしいですわよね」

「甘味が嫌いとか言う弟にも食わせてやりたいわい。絶対に考えを改める筈じゃ」

「これだけを作る専門店でも十分にやっていけるだろう。……王族御用達になり、我々の口に入ることが無くなるかもしれないが」


 なんて四人が話してる中、俺は全く別の事を考えていたわけですよ。


「これ、パンケーキに乗せても美味いだろうな」


 瞬間だった。

 四人が会話を中断して一斉に俺の方を見たんだ。

 しかもこう、普通に振り返るんじゃなくて、ギュルンッ! って体の向きはそのままに、首だけ回して見る、みたいな。

 ――怖かった。


「パンケーキに……?」

「乗せる?」


 ヒッ!? 訂正!! 怖かったじゃない!!

 現在進行形で怖い!!!


「これを……朝から……?」

「カケル! 今すぐしよう!! 善は急げだ!!」

「や、ちょ、待って! 待ってください!!」


 ちょっと口から出ただけで、マジャリスさんにホールドされて台所に立たされるボク。

 今日もう料理しないもん!!


「落ち着けマジャリス」

「落ち着いていられるか!! パンケーキだぞ!? 乗せるんだぞ!? まさに悪魔的発想じゃないか!!」

「向こうの世界でやればいいだけですわ」

「……ハッ!?」


 いや、気付かんかったんかい。

 まぁ確かに? 日本のパンケーキは凄い的な話もありますけど? 

 それは専門店とかに行った時の話でせう?

 一般家庭が作るパンケーキなんて、いわゆるホットケーキですわよ?

 異世界でも作れるでしょ。


「だから、このアイスクリームの作り方を聞くだけでいい」

「確かに……」


 マジャリスさんてあれだな。

 甘味が絡むと視界が狭まる人だな。


「じゃあ、レシピを教えときますね」

「頼む。……と言っても、ある程度は予想が付くが」


 ちなみにレシピを教えたら、ラベンドラさん、


「やはりな」


 とか言ってたから、食べただけである程度分かってたみたいよ?

 まぁ、特別な工程とか挟んでないし、出来てもおかしくはない……のか?


「よし。レシピも記憶した」

「明日の朝はパンケーキだからな!?」

「分かっていますわ。というわけでカケル、明日の朝の分のお持ち帰りは不要ですわ」

「あ、はい。分かりました」


 まぁ、特に考えては無かったけどね。

 少し残してあるトリッポイオニクを天ぷらにした、とり天バーガーにでもしようと思ってたけど、まぁいいや。


「で、これが新たな食材じゃな」


 よくないや。

 ガブロさんが取り出したのは……鳥の羽?

 サイズがおかしいけど、ぱっと見デカい手羽、みたいな見た目だけど……。

 ――ハッ!? 天地明察!! この手羽…………。

 ルフ鳥だろ!? そうだろ!!

 この海のカケルの眼を持ってすれば、この程度容易い事よ。


「火山地帯のダンジョンで狩った、ワイバーンの手羽だ」


 ……はひ?

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