第176話 実食ワイバーン
ちょいちょい会話に出て来てたからさ、気にはなってたんだよ、ワイバーン。
ただ、こうして実物見ると、ちょっとビビるな。
デカい手羽とは言ったけど、厳密に言うと少し違う。
普通の手羽には無い……なんて言うんだろ。
翼膜を繋ぐ筋って言うのかな?
翼膜は全部綺麗に剥がれてるんだけど、それは残ってて。
触った感じ、軟骨っぽいんだよね。
とりあえず茹でて食べてみるか。
「ダシがどうとか言ってたよな」
なんだっけ、コンソメスープの再現にワイバーンの出汁を使う的な事をラベンドラさん言ってなかったっけ?
という事はこの手羽を煮込んだら美味しいスープが出来るって事だよな?
……味見の為だ。
別に異世界風コンソメスープがどんな味か確かめたい訳じゃない。
というわけでお湯を沸かし、塩を入れましてっと。
そこにワイバーンの肉と、翼の筋を少し切ったものを入れて茹でていく。
「……色が変わった?」
で、茹で始めたら即座に色が変わったんだよね。
……お湯の。
乳白色って言うか、見た目的には豚骨的感じ?
ちゃんぽんスープとかの方が近いかもしれない。
身の方は変わらずピンクというか、白桃色? ピンクっぽい白って感じなんだけど。
火は通りましたか? 怖いんだけど。
という事で様子を見る事およそ三分。
ようやく色が白くなったので、引き上げ。
……ついでにお玉でゆで汁を掬ってちょっと味見。
「んー? 薄いけどまぁコンソメっぽい風味はするな」
コンソメだよーって言われたら確かに、ってなる程度のお味。
んでお肉の方なんですけど……。
「あ、うっめ」
すっごい上品な味。
少なくとも、見た目からは想像出来ない程の。
肉質はしっとり柔らかめ。
だけど、中心に行くと急に抵抗が強くなる感じ。
で、その部分から肉汁がこれでもかと出る。
その肉汁もほんのり甘く、それでいて味はしっかりとあって。
すっごい上質な鶏もも肉って印象。
「さてさてこちらはー?」
続いて軟骨っぽい翼の筋。
下手したら食べる場所じゃない、って言われそうだけど、日本人としてこの場所は見過ごせねぇ。
軟骨、美味しいしね。
で、結果なんだけど、
「いけるじゃん!」
とても美味しい軟骨でした。
ただ、軟骨にしては少し柔らかかった。
コリコリはしてるんだけど、その食感を感じるのが一瞬みたいな。
途中まで歯が抵抗なく入るのは肉と一緒。
で、途中から急に抵抗してくる感じね。
その抵抗係数が肉より強いから、コリコリとした食感になるって感じ。
……この軟骨、唐揚げには絶対にしたい。
あとは……ん? 待てよ?
「皮も付いてるのか……」
今までの素材からは考えられない、まさかの皮が残ってる部分が。
身質は鶏モモ肉、軟骨も美味い。
となれば、皮も美味しいはずだよな!?
皮は茹でるよりカリカリに焼いて食べたい……。
というわけでフライパンに油を引いて、皮を焼いて試食。
結果……、
「ここが一番美味いかもしれん……」
驚くほどに美味しかった。
焼き加減が完璧なおかげで、表面はパリッと。
噛んだ瞬間に溢れる脂は、肉と同じく上品でサッパリ。
皮自体の味も中々に強く、脂に決して負けてない。
今回は塩で食べたけど、焼き鳥やよろしくタレでも間違いなく美味いだろうな。
というかあれだ、皮に関しては焼き鳥屋の滅茶苦茶美味い鳥皮を想像して貰えば大体合ってる。
そんな皮が座布団二枚くらいの範囲に広がってるわけですよ。
おいおい宝の山か?
んで、もうやりたい料理も決まっちゃった。
「折角の休みだし、思い切り時間をかけよう」
本日買ってくるものは大量の串、その他。
ふっふっふ、今日の晩御飯は焼き鳥に決定だオラァッ!!
*
というわけでお昼ご飯です。
袋ラーメンを二袋作り、その上に焼いた薄切りワイバーンのお肉を乗せまして。
たっぷりのネギを乗せて、ずぼら鳥塩ラーメンでいただきました。
で、発見なんだけど焼いた時に出た脂が滅茶苦茶美味い。
スープに入れた、ワイバーンの煮出し汁もいい味出してるわぁ。
香ばしさが追加されて、それと醤油だけでご飯が進む様な味になってた。
……ラーメンに入れたんだけど、思わずスープを全部飲み干すくらいには影響力あってさ。
ワイバーン恐るべし、だったね。
「じゃあ今から仕込んでいきますか!」
というわけで晩御飯に向けての仕込みを開始。
この仕込みの途中に気が付いたけど、ワイバーンの手羽、場所によって少し肉質が変わってる。
具体的に言うと翼の筋の前後で変わる感じ。
翼の先端の方はやや肉質が固め。イメージ的にはささ身みたいな感じ。
で、根元の方はもっちりしてる、いわばもも肉的感触。
これらをうまく使って本日は、焼き鳥を作っていきたいと思います。
というわけでまずは切り出す工程から。
「まず鳥皮だろ、軟骨だろ、んで肉と」
ちなみに味付けはせず、焼く時に好みに合わせて塩なりタレなりを付けて貰おうと思ってる。
日本でも古来より続く戦争の一つだからな、塩タレ論争は。
……キノコタケノコよりはマシか。
「あー、つくねも作りたいな」
軟骨入りのつくねって美味しいよね。
少し大きめに、団子状じゃなく串に広げてくっつけた奴の上にさ、卵が落としてあると最高じゃない?
はい、作る。
「茎ワサビも買ってきたし、ささ身っぽいのの上に乗せたい」
一度先輩に連れて行ってもらった焼き鳥屋。
そこでささ身串を頼んだらさ。
レアに焼き上げたささ身の上に、茎ワサビが乗ってまして。
これがうめぇんだ。……流石に怖いからレアにはしないけど。
「タレも作っとかないとな」
自宅で焼き鳥をやろうとするとやることはとても多い。
そして面倒。肉を串に刺すとか、マジで時間掛かるしね。
でも……何だろうな。
楽しいんだよね。自分が食べたい物の為に時間かけて、手間かけて。
それで、自分の想像よりも美味しいものが出来ちゃったらさぁ大変。
一度成功体験を覚えちゃうと、人間という愚かな生き物はそれまでの大変さを無視するようになっちゃうんだ。
俺がそうだもん。
……ただし、後片付けの事は考えないものとする。
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