第216話 四人専用魔法()

「さて……」

「それじゃあ、準備はよろしいですわね?」

「カケルにリクエストをした手前、当然見返りは相応の品を用意しなければならない」

「気張って挑むぞい。わしらも、これほどの敵は久しぶりじゃからな」


 とあるダンジョン、最深部。

 そのダンジョン最後のボス、いわゆるダンジョンマスターへと通じる扉の前で、『夢幻泡影』は最後の確認の最中。

 武器、所持品、残存魔力、体調など。

 それらを確認し、どう戦うかを話し合ったところで、リリウムの合図でラベンドラが扉を押し開く。


「『ワイルドデーモン』。文献にもあまり登場しない、ミノタウロス系最上位種」

「デカすぎてミノタウロスと認識されんかった事が由来らしいのう」

「当然ながら味に関する資料は無い」

「そもそも、食べようと思うような見た目じゃありませんし、何より討伐記録がほとんどありませんもの」


 そこで『夢幻泡影』を待っていたのは、山か、あるいはビルとすら間違えそうなほどに巨大な魔物。

 筋骨隆々な人間の身体と、足元まで伸び垂れた角。

 牛の形をしているのであろう顔は、下から見上げただけでは視界に入らない程だ。


「角も貴重な素材じゃ。傷つけるでないぞ?」

「保証は出来ん」

「とりあえず、全員でお顔の方にご挨拶といきましょう?」


 というリリウムの言葉の瞬間、四人は転移魔法によりはるか上空へ転移。

 ワイルドデーモンの眼前へと転移し、そこで初めて、ワイルドデーモンはこの部屋に侵入者が来たことを知る。


「初めまして。――そして、さようならですわ」


 だが、その侵入者たちは、ワイルドデーモンの顔面へとそれぞれが手を伸ばし。


「『レンジでチン!!』」


 全員で、魔法の研究者が聞けば頭を抱えるような魔法を発動。

 その魔法の内容は……翔が教えた、電子レンジの原理を引き起こすもので。


「グゥオオオオオオォォォォッッッ!!」


 その魔法が左目を直撃したワイルドデーモンは、一瞬で沸騰し、機能を失った左目を押さえながらのた打ち回るのであった。



「ふぅ」


 というわけでラーメンに使う材料を買ってきましたよっと。

 あれだね、朝からウマイウナギマガイの白焼きとみそ汁、漬物に卵焼きって言う古き良き日本食を食べてなかったら危なかったな。

 朝から活力の出るご飯を食べるのはやっぱり大事だ。

 惜しむらくは家に納豆が無かった事。まぁ、ちゃんと買って来たんだけども。


「さ、と言うわけでチャーシュー、作っていくか」


 スープは市販のスープの素に頼るから作らないし、となると一番時間が掛かるのはチャーシューなわけで。

 チャーシューも市販品でいいじゃんって思うかもだけど、俺は市販品には無いあのぶ厚いチャーシューをラーメンに乗せたいんだ。

 というわけでお鍋を取り出しまして~。


「あ、先に肉を縛らないと……」


 買って来た肩ロースのブロックをタコ糸でお縛り。

 肉を縛る機会なんて無いから、調べながらやったんだけどさ?

 いやあの、緊縛方法とか出て来なくていいのよ?

 べ、別に俺はそんなの調べたりしてないんだからね!?

 お亀さん縛りとかこれまでもこれからも、縁もゆかりもない言葉にござい。


「んで、突き刺すっと」


 縛り終わったら、フォークを使って全体を満遍なくぶっ刺していく。

 この素早い突きが見切れるかぁ!?

 というわけで魔法の数字27。突き刺し過程終了っと。

 突き終わったら全体に日本酒をまぶし、揉みこんで……。

 しばらく放置。

 その間に煮込みに使う具材の準備。

 ネギの青い部分、生姜、ニンニクを適当な大きさに切りまして。

 先ほど用意して放置したままの鍋に投入。

 そこに水を入れ、塩をフリフリ。

 放置し終わった肉を乗せて、蓋をして弱火で三十分。


「待ってる間にデザート作ろ」


 で、手が空いたから、お次はデザート。

 当然、アレですよ、アレ。

 まずはゼラチンを水に浸しまして。

 ケトルでお湯を沸かし、ドリップコーヒーをカップに注いでいく。

 当然五人分。

 インスタントでも良かったんだけどね。

 インスタントは昨日飲ませたし、今日はドリップにしようかなって。

 どれがいいとか分からなかったから、とりあえず酸味が控えめな奴を買って来た。

 パッケージに書いてあるのを信じただけだけども。

 で、出来たコーヒーをボウルに移し、そこに砂糖とゼラチンを入れてまぁぜまぁぜ。

 混ぜ終わったら再びカップに戻し、冷蔵庫で冷やす。

 食べる頃には固まってるでしょ。

 ……もう少し時間あるな。

 バカデカアーモンドッポイミルクをフライパンに流し、そこに砂糖、練乳と入れて混ぜまして。

 弱火で、トロミが付くまで熱してミルクソースも完成。

 こいつを冷え固まったコーヒーゼリーに流し込んで、とろ~りミルククリームコーヒーゼリーにするって寸法よ。

 美味しいよね、あのシリーズ。

 最近食べてないけど。


「そろそろ良さげか」


 で、最初の煮込みが終了。

 蓋を開け、アクを取り除き。

 ネギ、生姜を取り出してもう一度蓋。

 今度はとろ火で一時間半っと。


「まぁ、たまにはこんな風に調理しかしない日があってもいいよね」


 洗濯とかももちろんやるんだけどね?

 というわけで、今のうちに煮込み終わった後に漬け込むタレのお準備。

 醤油とみりんを火にかけて、ついでに生姜チューブもにゅにゅっと投入。

 こいつを念入りに煮切っていき、出来上がり。

 あとは煮込み終わった肉をジップロックに入れて、このタレ注いで漬け込んで完成よ。

 なお、まだまだ煮込むのに時間が掛かるもよう。

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