第311話 そ、そんな事もありますよ……

 えぇっと……?

 なんか皆さんめちゃめちゃ落ち込んでない?

 触れた方がいいのかな……。


「何かありました?」

「……」


 俺からの呼びかけに、ゆっくりと顔をこちらに向けたラベンドラさんは。


「爆ぜた」

「……はい?」


 恐らく、一度聞いただけでは理解出来ない単語を発声し。


「鍋が爆ぜた!!」


 俺の聞き返しに、先程よりも大きな声で、ハッキリと宣言。

 鍋は爆発しませんよ? 何を言っておられるので?


「カケル! 渡した食材は油に入れるな!!」

「……はい?」

「いいから!! 絶対に揚げ物にしてはダメだ!!」

「油に入れたら爆発するんじゃわい!!」


 ……嘘やん。

 貰った食材ってシャコナリケリとコシャコナリケリでしょ?

 アレを油に入れたら爆発したの?

 んで、それで鍋が大破したってこと?

 ……エビフライもエビ天もかき揚げも出来ないってこと?

 ちょっと厳しくない?


「もう少し詳しくですね……」


 流石に諦めきれないので、何があったか詳しく聞こう。

 そしたら、何かしら対策が思いつくかもしれないし。

 というわけで、ラベンドラさん達に何があったかを聞いてみる事に。



 ……マジかー。

 油吸って爆発するのか。

 って事は炒めたりする分には影響ないな。

 揚げ物とかレベルの油と一緒に調理するのがダメ、と。

 素揚げしないエビマヨやエビチリとかで多分ギリ。

 ってなると結構なレシピが消えるぞ……。


「というわけで、この家を吹き飛ばしたくはないのでそう言った調理法は……」

「分かってます。やりません」


 この説明を聞いてなお揚げ物とかしたいとは思わんよね。

 一応、この家には思い出も詰まってるわけだし。


「それで……今日の料理なのだが……」

「油はそんなに使いませんよ」

「よかった……」


 と、めっちゃ安堵して言われちゃった。

 軽く塩茹でとかはしますけどね。

 油は使わないね。

 というわけで早速調理へ。

 あ、ちなみに冷やし中華に使うタレは先んじてもう作ってある。

 酢、醤油、みりんを火にかけ沸かし、沸いた火から外しまして。

 砂糖、水を加えて一旦混ぜ混ぜ。

 そしたらショウガの搾り汁とレモンの搾り汁を入れて混ぜたら、こいつは冷蔵庫にぶち込みキンッキンに冷やしておいてます。

 

「私は何をすれば?」

「薄焼き卵をお願い出来ます?」


 ラベンドラさんに薄焼き卵を任せ、その間にまずはシャコナリケリを塩茹で。

 コシャコナリケリはそのまま冷やし中華に乗せるからいいとして、シャコナリケリを茹でてる間に野菜のカット。

 もう最後になったマンドラゴラのトマトとキュウリを細切りにし、さらにスーパーで買って来たもやしは一旦水にさらしてっと。

 さらにさらに、麺を茹でましょう。

 何人前か分からん量だけど、どうせ食うべってことで、寸胴鍋にたっぷりの水を入れて沸騰させる。


「あ、そう言えばなんですけど」

「なんだ?」

「アルコール度数の高い酒って何に使ったんですか?」


 気になってたんだよな。

 ウォッカとか、何に使ったんだろうって。


「わしの弟が鍛冶師なんじゃがな、その弟に頑丈な鍋をこさえさせようと思ってな」

「あー……なるほど?」


 ドワーフへの手土産って事か。

 納得したわ。

 だから強い酒だったんだな。


「もちろん、ただ酒を渡すだけではと思い、少し工夫をした」

「お聞きしても?」

「もちろん。カケルに教えて貰ったものの中に、チョコレートがあっただろう? あの香りや風味は酒に合うと感じていた。そこで、冷えて固まったチョコレートの中に貰った酒を転移させてな」

「チョコレートボンボン……」


 もしかしてラベンドラさんってこっちの世界の住人です?

 いや、チョコも何もなかった世界でチョコレートボンボンなんて発想出るか?

 もちろん、厳密にはチョコレートの前にいわゆる薄い飴の層みたいなのがあって、しかも中に入ってるお酒はウイスキーだけどさ?

 そんな思い付きでチョコレートボンボンに肉薄するかね。

 ラベンドラさん……恐ろしいエルフ。


「チョコレートボンボンというのか? そのお菓子」

「ですね。一応細部とかは違いますけど、ほぼチョコレートボンボンです」

「反応が凄かったぞい。甘いチョコレートの味に衝撃を受け、その甘さに溶けていると、中から燃えるような酒が流れてくる。鍛冶場にいた全ドワーフが絶叫しとったわい」

「疲れが吹っ飛ぶ! もっと食わせろ! の大合唱でしたわね」

「定期的に作って送ることを条件に出されたが、それは流石に突っぱねた。ダンジョン内で偶然見つけた貴重な酒だとしてな」

「カケルにこれ以上負担をかける訳にもいかない」


 想像つくなぁ。

 ガブロさんみたいな見た目のドワーフが、汗吹きながらチョコレートボンボンを口に放り込んでいる絵面。

 何なら、それをツマミにさらに酒飲んでそう。


「あ、そう言えば向こうの神様にお供え物としてワインも一緒に置いていたんですけど……」

「私たちの手元には来ていない。という事は、神がありがたく頂戴したのだろう」

「向こうの世界の住人ではありませんのに、神へのお供え物とは熱心ですわね」

「まぁ、色々と大目に見てくれていそうなことがありますしね」


 熱心というか、わが国には八百万の神様たちがおりまして。

 下手すりゃ、どこの国の人より神様ってのを身近に考えているまである。

 ……言い過ぎか。色んな方々に怒られそうだからやめとこう。


「カケル、薄焼き卵焼き上がったぞ」

「こっちも麵はOKですし、しっかりと頂いた食材も茹で上がってますよ」


 というわけで準備上々今夜は最高。

 麺をしっかり流水で締め、ぬめりを取ってお皿に移し。

 あとは見栄えが良くなるようにキュウリやトマト、卵に塩茹でシャコナリケリと生のコシャコナリケリを盛り付けて完成!

 タレをたーぷりかけて、お待たせしました! 贅沢冷やし中華、完成です!!

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