第310話 汚ねぇ花火だ
いやぁ、美味かったわ。
コシャコナリケリはユッケダレもいいけど、やっぱ醤油だな。
これに関しては日本人だからってかもしれんが。
プリッとした身と濃厚な旨味と甘み。
それらが醤油の尖った塩味と合わさって、最高なご飯のおかずですわよ。
たまにさ、刺身でご飯が食えない勢が見受けられるけど、このトキシラズとコシャコナリケリの前ではそんな事絶対に言えないと思うわ。
食ってみろ、飛ぶぞ?
「はぁ、狭山茶が美味い」
夏だけどさ、海鮮の後にはどうしても熱いお茶が飲みたくなっちゃう。
なんだろうね? 日本人のDNAに刻まれちゃってるのかな。
「ある程度ゆっくりしたら片付けて、四人が来るまでにいろいろやっちゃうか」
みんな知ってる? 休みの日って体や心を休めるためにあるんだよ?
決して遊びに行く日とかって決まってるわけじゃないからね?
気分転換とかで遊びに行くって人が多いからそう思われてるのもしょうがないけど。
だから、こうして人がダメになるクッションに腰掛けて、好きな配信者の動画を垂れ流しながら惰眠を貪っても問題ないってわけ。
いいね?
*
「今日の昼はどうする?」
「トキシラズのカツと、ラヴァテンタクルのフライをする」
「いいですわね! 揚げ物は絶対に間違いありませんもの」
「暑い中で熱い調理は酷じゃないか?」
「この暑さのおかげで油もすぐに熱くなる。結果的に調理に要する時間は短縮されるだろう」
時は昼時。
朝にたっぷりとラヴァテンタクルの幼体を堪能した『夢幻泡影』だったが、それでも空腹はやってくる。
……農業ギルドに顔を出し、現代の米との味の比較の為に生産された米を受け取り。
翔と同じくユッケ丼にした『夢幻泡影』だったが……。
異世界米は、未だ現代米の足元にも及ばず。
ボソボソとした食感と一切無い粘り気は、現代米を堪能しまくっている『夢幻泡影』には物足りず。
当然として、箸の進みも悪く、食事量も普段と比べて少なくなり。
それを危惧したラベンドラが、パンにも合う調理法としてフライを提案。
食事というエネルギー補給の機会を、少しでも無駄にしたくないとの考えだったのだが……。
「よし、準備完了。揚げるぞ」
そう言って、衣をつけたラヴァテンタクルを油に入れた瞬間。
――パァンッ!!
「なんですの!?」
「敵襲か!?」
鍋から、強烈な炸裂音が発生。
それは、現代で言う所の紙鉄砲――を10倍程度大きくしたような音。
ぶっちゃけほぼ爆発音のような音が周囲にこだまする中。
「嘘だ……」
ただ一人、ラベンドラだけが、その時に何が起こったのかを正確に把握。
衣を纏い、油に入れたラヴァテンタクルは、その瞬間に鍋の中の油を全て吸収し。
鍋の大きさギリギリまで膨張したかと思えば、その油を全方位に拡散しながら破裂。
咄嗟に結界魔法で周囲を守りはしたものの、辺りに飛び散った油はどうにもならず。
更には、破裂の衝撃で、使っていた鍋が見るも無残な姿へと変貌していた。
「な、何がありましたの?」
「破裂した」
「なんじゃと?」
「ラヴァテンタクルは揚げてはならない食材だったんだ……!!」
そうして、他の三人もようやく現状を知る。
見るも無残になった鍋の残骸、一切出来ていないどころか消え失せた、昼食のはずの食材たち。
それは、つまるところ昼飯が遅れることを意味し。
「つまり……飯は?」
「――すまない、今回だけ。今回だけは、どこかで買って済まさせてくれないか?」
膝から崩れ落ち、鍋の残骸を前に項垂れるラベンドラに対し。
三人は、ただ首をゆっくりと縦に振るしかなかった。
「あと、新しい鍋が要る」
「頑丈なやつにせんか?」
「ガブロ、お前の弟の所に寄りたい」
「普段から武器しか作らん弟に鍋を作らせるのは……出来なくも無いが土産が要るぞい?」
「やっぱりお酒ですの?」
「それが一番じゃが……」
「それについては少し考えがある。……ただ、私だけの力ではどうにもならない」
「私達に手伝えることであれば……」
「……カケルに助力を願おう」
*
ん? 魔法陣の起動を検知。
即座に可能な限り距離を取り、何が出て来ても驚かない覚悟を決めます。
……なんだ、羊皮紙か。
んーと? 出来るだけアルコール度数が高い酒を送ってくれ?
……んじゃあ、アレか? ウォッカ。
度数が高い酒と聞けば真っ先に思い浮かぶけど……。
スピリタスのが高いっちゃ高いんだよな。
まぁ、いいや。
一度店に行ってみて、選んでみるか。
幸い酒屋は家の近くにあるし、そこで色々見て見よう。
にしても、急にどうしたんだろ?
なんか緊急の出来事でも起こったのかな?
*
ふぅ、買って来たわよ。
どれぐらい必要か分からなかったから、とりあえず三本。
有名過ぎるスミノフとSKYY、あと国産ウォッカの
全部でしめて6000円くらいだった。
なお、半分は白が持って行った。ウイスキーにしろ、ウォッカにしろ、国産が割と高いのは不思議なもんだ。
その分味は良いんだろうけど……。
俺がウォッカとか飲んだら多分ぶっ倒れる。
よし、じゃあこれらをテーブルの魔法陣に並べまして……。
あと、一応向こうの神様にもお供えとして、国産ワインも備えまして。
……って、姉貴居ないから向こうに合図送れないじゃん!
とか思ってたら魔法陣が起動。
紫色の光を発し、ワインを含めた酒が四本魔法陣の中に消えていった。
……どうやって分かったんだろ。
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