第87話 異世界親子丼

 ふい~。

 買い物終わったわぞ~。

 こう、どれを買うかを悩みながらする買い物も悪くないですわね。

 いつもなら、確固たる意志を持って買う物を決めてるからな。

 仕事終わりにスーパーにダラダラと長居したくないし。

 さて? それでは、本日買って来たものを紹介しましょう。

 エントリナンバーワン。人参。

 親子丼に必要だよね。マスト。

 エントリーナンバーツー。玉ねぎ。

 別に家が火事になったりはしてない。これも親子丼にはマスト。

 エントリーナンバースリー。かまぼこ。

 家庭によるのかもしれないけど、うちの親子丼はかまぼこが入る。

 これが美味いんですわ。

 エントリーナンバーフォー。卵。

 メインの筈なのに買い忘れそうになったんだよなぁ。

 いろいろ悩んでたら。反省反省。

 で、ここまでは普段通りの親子丼の材料なんだけど、問題はこっからよ。

 いや~、悩んだね。

 姉貴のリクエストであるあっさり系の親子丼を作るうえで、一番大事であろう味の根幹を決めるダシ!

 そのダシをどれにするかで悩みまくった。

 というわけでご紹介しよう! 本日私が選んだダシは~……。

 ――エントリーナンバーファイブ! あごだしだぁ~!!


「一人で何やってんの?」


 脳内でそんな解説付きで、買って来たものをリビングで広げてたら、姉貴からジト目で言われちゃった。

 いいじゃん! これくらい!


「買って来たものを分別してるの。冷蔵庫に入れるものとか」

「……なら別にテーブルに広げる必要なくない?」

「うっさい」


 姉貴は嫌いだ。

 というわけで気を取り直して、買って来たのは顆粒タイプのあごだしの素。

 あごだし……いわゆるトビウオだしの事。

 九州で結構使われてるらしいその味は、スッキリとした味わいで上品。

 かつコクがあるという上質なもの。

 おまけに今回は焼きあごのだしを買ってきたから、さらに香ばしさも追加される。

 これがお湯を注ぐだけで家庭で味わえるって言うんだから、科学の力ってスゲー。


「ん? あごだし……? 何のあご?」

「トビウオの事をこういうの」


 俺が何を買ったか気になる姉貴が覗き込んできて一言。

 そんなピンポイントに生き物の顎だけでダシを取るわけないでしょ全く。


「ふーん。ま、何でもいいや、美味しく作ってくれるなら」

「失敗はしないだろうから任せといてくれ」


 言われなくても美味しく作るんだよなぁ。

 ま、何と言うか、ライバルと殴り合った後に、お前も強くなったじゃねぇか……。って言うようなもんでしょ、多分。



「いらっしゃ~い」

「お邪魔しますわ~」


 ……ちょっと待て?

 リリウムさん達は毎度のことながら音もなくこっちの世界に来てるよな?

 んで、魔法陣が展開されるのは分かる。

 ただ、今姉貴は魔法陣の方は見ずにスマホを弄っていたはずで。

 それなのに、リリウムさん達が声を掛ける前に反応した……?

 まさか、気配を探れるのか……?


「今日のメニューはなんだ?」

「親子丼です」


 そんな俺の気持ちはいざ知らず、いつものように尋ねてくるラベンドラさん。


「親子丼……?」

「えーっと、鶏肉とタマゴをメインにした丼で、鳥とタマゴの両方を食べるから親子丼って名前なんです」


 聞き馴染みのない言葉だろうからと説明してやると、ラベンドラさんは眉をひそめ。


「その……もう少しネーミングは何とかならなかったのか?」


 だそうで。

 ……冷静に考えたらおかしいか。

 なんというか、人の心案件ではあるかもしれない。

 って言ってもなぁ……。この名前が定着しちゃってるからなぁ。


「もう浸透しちゃってますから」


 って言うしかないよ。


「卵を使うんならそっちもあるぞい?」


 なんて言ってガブロさんが取り出したるは、卵。

 うん。よく知る卵だ。

 ……サイズがダチョウの卵レベルだけど。


「……確かにそうだ。昨日渡した肉の個体が産んでいた卵だ」

「つかぬことをお聞きしますが、このお肉の魔物って……?」


 少なくとも、最低でもダチョウくらいの大きさの鳥型の魔物。

 ……そんなの、俺には一つしか思い当たらないんだけど……。


「バジリコックだ」


 ……あれ? てっきりコカトリスだと思ってたけど、違ったな。

 というか、その名前の魔物を俺は知らないんだけど、翻訳されてるみたいだし……。

 ポピュラーな魔物なのか?

 検索検索ぅ!

 ……なるほど? バジリスクとか、コカトリスの総称的な感じなのか。

 デカいニワトリみたいな。


「風魔法を操り、目からは石化させるビームを放つ。尾の蛇は猛毒を持っているし、その毒を霧状にして吹きかけてもくる」

「久しぶりに戦いがいのある相手でしたわ。流石はエリアボスでしたわね」


 マジャリスさんとリリウムさんが頷きながら思い返してるけど、ごめんなさい。

 俺は相対すらしたくないです。


「その……卵に毒とかは?」

「ない。滋養強壮効果があり、冒険者からも非常に好まれる食材だ。……もちろん、火は通して食うが」

「あっても解毒くらいはして渡すわい」


 俺も火を通しますよこれは。

 ていうか、牛丼の時の話は忘れてませんからね?

 卵を生で食ったら魔物が腹を食い破って出てきたって奴。


「味も濃厚でコクがあり、非常に美味だ」

「私たちの働きが大きかったと、帯同しているパーティから譲り受けましたの」


 もうマジャリスさんとリリウムさんは食べるのが待ちきれない様子だ。

 んじゃあこのバジリコックの卵を使って、文字通り親子丼といきますか。

 ――おっも!? 2㎏とかあるぞこの卵!

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