第86話 トリニチカシイオニク試食会
「ちょっと固いね?」
貰ったお肉を塩茹でにして食べてみた姉貴の感想である。
「固いというか、身が締まってる感じだな。……若鳥じゃなくて、年齢を重ねた鶏肉みたいな食感ではある」
「でも美味しいよね」
「固すぎるなんて事はないし、肉に弾力あるし。噛めば噛むほど溢れてくる肉汁は滅茶苦茶美味しいと思うよ?」
「肉汁自体の味も、鶏肉のより濃いね。……そのくせサッパリしてる」
少量の塩茹でを挟み、姉貴と肉についての感想会。
しゃーなし。これで今後のメニューが決まってくるんだもの。
「全体的に癖のない味で、肉自体のうま味も強い。……何にしても美味いんじゃない? これ」
「そうだな。唐揚げなんかは絶対美味いだろうし、照り焼きなんかもタレに負けない肉の味で美味いだろうなぁ……。この間作ってない親子丼なんかも作りたいし」
「油淋鶏とか、チキン南蛮とか食べたい」
なんてメニューの話をしてたら姉貴がぶっこんできましたわよ。
油淋鶏はいいよ、うん。
けどチキン南蛮……なぁ。
あの料理、我流で作るとすーぐ警察が湧いてくるんだよなぁ……。
まぁ、作るなら、チキン南蛮風とかもどきとかにするか。
警察怖いし。
「それらもいいね……。とりあえず、ラップして保存しとこ」
「カニの身はどれくらいあるの?」
「結構減ったよ? もう四分の一くらいしかない」
「ほー。最初がどれくらいか分かんないけど結構食べたんね」
「残して腐らせるのもアレだからね。朝からカニの塩ゆでとかしてさぁ――」
――ドン!!
……姉貴? 台パンしないの。
あと顔がクッッッッソ近いからね?
「朝から……カニ?」
「食べないと勿体ないんだもん。朝からカニを口一杯に頬張って、みそ汁とご飯で流し込むの、最高に美味かったぞ」
「私、それ食べてない」
「作ってないもん」
「明日作って。いや、作れ」
「明日の朝はカニクリームグラタントーストの予定だったけどどっちがいい?」
「ぐぬぬ……」
苦渋の選択。
さてさて、姉貴はどちらを選びますかな?
「翔は何で食べるの?」
「俺? 普通にグラタントーストで食うよ?」
「じゃあそっち」
俺と同じ方で落ち着いたらしい。
ん~……カニの塩茹で作ってもいいけど、米炊いてないしなぁ。
用意だけしても、姉貴が自分で作るとは思えないし……。
「明日は昼用に鬼ほどカニを茹でとくから、それで我慢しといてくれ」
これくらいで妥協しません?
昼とはいえカニを一杯食えるのは贅沢でしょ?
「食べ方のおススメを聞こう」
「まずカニ酢は鉄板でしょ? んで、まぁ何つけても美味い。マヨ醤油も最高だし、あえて何も付けずに堪能するのも最高」
「百理ある」
「雑にご飯の上に乗せてカニ丼とか家で食える贅沢の最高峰に位置すると思うよ?」
「……リリウムさん達に頼んだら、もっとそのカニの身くれないかな?」
「はっきりとは知らんけど、結構値はするモノっぽいよ?」
ガブロさんあたりがそれっぽい事を言ってた気がする。
「むぅ……。まぁ、あまりねだるのも卑しいと思われるか」
俺がカニ食ってると知って電撃帰還してきた姉貴が言っても手遅れだと思うんですけど……。
……あっ!
「やっべ、持ち帰り用のご飯渡してなかった……」
「? 言って来なかったし、要らなかったんじゃない?」
「……まぁいいか。元々は貰った食材を減らすために始めたわけだし、カニの身はもう残り少ないし……」
そういう事にしておこう。
さて、
「明日は親子丼かな。コロッケとクリームパスタとでこってり系が続いたし、ここらであっさり系を挟みたい」
ここらで一旦胃を休憩させないとね?
「異議なし。……そう言えば、昔食べたさっぱりしてた親子丼覚えてる?」
なんて、姉貴の唐突な問いかけ。
「そんなんあったっけ……? ――あー、あったなぁ……」
どこだったっけな……。
家族で旅行に行って、その旅行先のお店で食べたんだよな。
普通親子丼って砂糖を使って味付けしてると思うんだけど、そこで食べた親子丼は砂糖を使ってなかったらしく。
ダシのうま味とサッパリした味付けで、子供心に珍しいと思ったんだよな……。
なお、その親子丼は姉貴が注文したんだけど、思った味と違うとか言って俺に渡してきたんだよね。
俺のカツ丼を代わりに搔っ攫っていきやがって。
「アレを作れと?」
「出来る?」
「やれるでしょ、多分。というか、出来なくても不味いものにはならんから」
まぁ、そんな苦いというか、甘くはない思い出は置いといて。
再現出来るかと言われれば微妙。ただ、近いものは出来るんじゃない? って感じ。
ダシと塩と醤油で味付けするだけだしね。
たまには新しいレシピに挑戦することとしましょうか。
「じゃあ明日はそれで」
「あいあい。……で、姉貴はいつまで家にいる感じ?」
それ如何で買い出しの量も変わってくるからさ。
予定が分かるなら教えて欲しいところであるが……。
「ん~、明後日までには出発かなー。って言ってもしばらくは国内に居るけど」
「んじゃあ何かあったら連絡入れるわ」
「ほいほい」
というわけで本日使った食器を食器洗浄機へとぶち込み。
洗剤入れて、スイッチオン。
しっかり風呂で汚れと疲れを落としまして。
頭の中で何度かさっぱり親子丼を作るシュミレーションを繰り返し、その日は眠りへとつくのだった。
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