第326話 外来生物
「まずは材料を切っていくところからですね」
調理の基本食材のカット。
パエリアって名前は聞いたことあっても、どんな料理か正直分からんって人は結構いると思うの。
すっごくざっくり言うなら、洋風海鮮炊き込みご飯……的な?
というわけで用意した海鮮がこちら。
「これが鱈という魚で、こっちはアサリという貝になります。んでこちらがイカ――」
説明はするけど、あまりピンと来てない表情なんだよなラベンドラさん。
翻訳魔法さんはしっかり翻訳してくれ。
あ、ちなみにアサリだけは冷凍の物を使うよ。
いちいち砂抜きとか面倒だし、そもそも食べる時に殻を取るのが嫌。
「とりあえず、切ればいいんだな?」
「です。白身魚は一口大に、イカは輪切りにお願いします」
「それならば他の作業と並行して行える。他に何かすることは?」
「では野菜のカットもお願いします」
まぁ、魔法って言う便利なものがあるし。
というわけでラベンドラさんに野菜を押し付け。
人参、セロリ、玉ねぎ、にんにく。
これらをみじん切りにして貰う。
その間に俺はフライパンを用意しまして。
「終わったぞ」
およそ人力じゃ出来ない速度で終わる野菜のカットにエルフの技術を感じつつ、フライパンにオリーブオイル。
そこにまずはイカを加え、軽く焦げ目がつくまで焼いていく。
……なお、この四人が満足するような量を作れるサイズのフライパンは家には存在しないので。
ラベンドラさんと隣り合わせで、フライパン二つで作っていく所存。
イカに焦げ目が付いたら、さっき刻んで貰った野菜たちを入れて、玉ねぎが透明になるまで炒めませう。
「そうだ、カケル」
「なんです?」
「一応の報告なのだが、この間渡された果実があっただろう?」
「スイカの事ですよね?」
野菜を炒めてたらそんな会話の切り出しが。
渡したよ? 確かに。貰ったスイカをそのまま。
押し付けたともいうね。
で? そのスイカがどうしたって?
「あれのマンドラゴラ化に成功した」
「へー……んえ!?」
変な声出た。
なんて? スイカのマンドラゴラ出来ちゃったの!?
……って事はスイカは野菜だった!?
「農業ギルドも大慌てじゃったのぅ」
「マンドラゴラなのに声を発さず、代わりに種を吹き出して攻撃してくるんですもの」
「冒険者なり立てのやつらが使う魔法よりはるかに威力がある。しかもそれが無数に連発されるんだ。あまり戦力が無い農業ギルドではお手上げだろう」
……タネマシンガン? 特性はテクニシャンかな?
ポイズンヒールじゃないならヨシ!
「結局どうなったんです?」
「生体の調査という事で我々に応援の要請が入り、一時間程種の発射を受け止めていたら弾数が底を尽きたらしくてな」
「何も攻撃出来なくなったのか、逃げ回っていましたので仕留めまして」
「皆で試食と割ってみたら、中の種が一切無くなっていた」
「吐き出し切ったんじゃろうな」
力技で種無しスイカに変えた……だと?
「そろそろ良さそうなのでトマトを入れます」
話の途中で申し訳ないが、これも
「トマトは入れながら出来るだけ潰してください」
「分かった」
玉ねぎが透き通ったらホールトマトを入れ、潰してから水分が無くなるまで煮詰めていく。
全部の旨味をギュッと凝縮する工程だからこれが滅茶苦茶大事。
「それで? スイカの話の続きはどうなったんです?」
「あのスッキリさっぱりとした清涼感はそのままに、顔がほころぶような甘さとたっぷりの水分」
「ジュースにして、今度の昇格会にお出しされますわ」
「新たなマンドラゴラの開発という事で、かなり大きな功績になるな」
……これさ。日本原産のあれやこれも異世界に持ち込んでマンドラゴラ化したいよね。
なんか、聞いた感じ現代スイカより異世界スイカの方が美味しそうだし。
「後は、わしの弟の話にもなるんじゃが」
「はい」
「その新しいマンドラゴラが口から種を吹き出す、という話から着想を得てな?」
待って、なんだかすごく嫌な予感がする。
ガブロさんの弟さんは確か工房の人で、結構凄い人だったはず。
その人が口から種を飛ばす魔物の話を聞いて考え付いたものが、おおよそまともなはずが無い……。
「これまでにも、使用者の魔力を使って撃ち出す魔法銃という存在はあったが、それをするならば魔法を撃った方が早い、と言われておったんじゃが……」
「新たに示された魔法銃は、銃ではなく弾の方に魔力を込める事にし、そこに強烈な刺激を与える事で、爆発的な速度で撃ち出すことに成功したらしい」
拳銃ですね。
しかも、結構現代よりな。
「この発明で魔力が低いものでも手軽に遠距離からの攻撃手段を得られると、既に発注が数多く来ているとか」
「弾に魔力を込めるのも、魔力に余裕があるものがバイト感覚で行えるとし、それまでは術者を含まないパーティというのも見られたが、今後は術者は必ずと言っていいほどパーティに入ってくるだろう」
「術者の中にはどこからも声をかけられず、ひっそりと研究の道に進むしかない者たちもいた。その者たちにとってみれば、天から光が差したようなニュースだろうな」
……信じられるか? これ、俺が四人にスイカを持たせたせいで起こったんだぜ?
信じたくないよぅ……。
「煮詰まって来たぞ」
「あ、はい。じゃあ次はですね……」
この人達に安易に現代の物を持って帰らせるのはやめた方がいいのでは?
そんな思いが頭によぎりつつ、俺はパエリアの次なる工程をラベンドラさんに指示するのだった。
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スイカのマンドラゴラ=ゴルガリストライプボールマンドラゴラ(NEW)
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