第325話 生殺し

「お、美味しい……ですわよね?」

「美味いな」

「全然美味いの」

「美味い」


 四人の反応、それもそうか。

 この人ら、ほとんどタンを食べたことが無いんだもんな。

 比べる対象が過去に一回、ここで食べたタンだけだもんな。

 という事で、この人らより場数を踏み、今まで食べたタンの枚数は数知れずな俺がこのタンを評価致しませう。

 めっちゃ美味い。

 もう過去一。

 仕事の先輩が競馬でデカいの当てたとかでご馳走して貰ったお高めの焼肉屋で食べた特上牛タンより断然美味い。

 俺が食べる事に集中して味の感想を口にしてない事からもそれは伝わるよね。


「めちゃめちゃ美味しいですよ」

「そうなのか……そうなのだな」


 はぁ、食べ慣れてないって罪だねぇ。

 このタンの美味しさが分からんか。

 食感はタンというよりはハツ寄りかな。

 コリコリしてる感じ。

 で、水の表面張力みたいに肉の表面にジューシィな旨味が押さえつけられてて、噛んだ瞬間に溢れてくるんだよね。

 その溢れる肉汁を楽しむために、固すぎる事はない食感を噛み締め噛み締め。

 最終的にシャキッと心地いい歯切れで噛み切れて、喉の奥へと滑っていくんだ。

 これ店で食べようとするといくらくらいかかるんだろうなぁ……。


「どうだカケル? この肉で作れる美味い料理……何か思いつくか?」

「まぁ、タンと言えばってくらいシチューは定番ですね」

「タンシチュー……」

「食べてみないと分かりませんけど、根元の方はある程度柔らかいと思うんですよ。なので、ある程度分厚く切ったタンをシチューで煮込んで、柔らかく仕上げたものはこの世界でも当たり前にメインを張れるポテンシャルあると思いますよ?」


 言いながら想像して口の中に涎が……。

 絶対に美味いじゃん、タンシチュー。

 作りてぇなぁ。


「候補に入れておこう。他には?」

「今食べたタン先を使ったレシピで、ハンバーグを作るのもいいですね」

「ハンバーグ……とは?」


 そういや、ハンバーグは日本の洋食だったな。


「タン先を細かく切って、他のミンチ肉と混ぜて焼くんです」

「美味いのか?」

「間違いなく。お肉の柔らかさの中にタン先の歯ごたえと旨味があって、間違いなく美味いです」

「「ごくり」」

「ソースも決まったものが無いので、濃厚なデミグラスやバターソース、大根おろしを使った和風のサッパリ系からカレーソースまで幅広いですし」

「「ごくり」」


 唾飲み込む音がうるさいんよ、リリウムさんとマジャリスさん。

 

「詳しいレシピは書いて渡しますね」

「恩に着る」


 んー、煮る、焼くはやったし……あとは揚げる料理。

 そう言えばタンカツとかってあるのかな?

 ……そりゃああるか。


「タンで作るカツも存在しますね」

「もう作っていただいて食べません? 私、そろそろ我慢出来そうにないのですけれど……」

「我慢してくれ。そもそもこのジライヤの舌は昇格会で使う用の食材だ。申し訳ないがカケルに調理してもらうつもりはない」

「そんな……」


 そんなぁ。あんなに美味いタンがお預けだって言うのか?

 それはあまりにも殺生ですぜ……。


「カケル、ちなみにだが」

「……はい」

「今カケルが挙げた料理、ご飯に一番合うのはどれだ?」


 ご飯に一番合う……?

 タンカツ……かなぁ。

 ハンバーグも合いそう。


「タンカツかハンバーグですかね。……でも、どうして?」

「昇格会にて昇格を受けるのはなにも冒険者だけじゃない。ここ最近、農業ギルドも功績を次々と挙げていてな。その中の一つに、米の開発が挙げられる」

「主食が一つ増える事になり、これまで以上に食の幅が広がると、国王も大喜びでしたものね」

「あ、米出来たんですね」

「一応、こちらの世界の米と比べるとまだまだ見劣りするが……。少なくとも、食べられない程の味じゃあない」


 凄いなぁ、異世界技術。

 奇跡も魔法もあるんだよ、ってね。


「それで、米と合わせた料理にし、農業ギルドと食に関する広がりを示そうと話し合ったりしていてな」

「んじゃあもう、丼が一番な気もしますけどねぇ」


 米と言ったら? じゃない? 丼って。


「丼か。確かに言われてみればそうかもしれん」

「ちなみにカケルならどのような丼を作りますの? もちろん、ジライヤの舌を使った丼として」

「う~ん……まぁ、普通に刻んだねぎと一緒に炒めて、ニンニクやレモン、塩コショウで味付けしたスタミナタン丼とかですかねぇ」


 味噌入れて味噌タン丼とかもいいかも。

 タンは塩じゃなく味噌でも美味いし。


「……美味そうだな」

「お腹すいてきたぞい」

「もう食べましょうよぉ!」

「我慢……体に……いくない」


 この人ら大丈夫かな?

 自分たちで聞いておいて、聞くたびに空腹ダメージ入ってない?


「カケル、一応それもレシピを頼む」

「お安い御用で」


 ん~、俺の中の知識じゃあそれくらいか。

 結局牛タンって、食べる時は焼肉位だからどうしても料理のレパートリーがねぇ……。


「ちなみになのだが」

「なんでしょう?」

「今日作る予定の晩御飯はどういったものだ?」


 ふっふっふーよくぞ聞いてくれました。

 本日の晩御飯はなんと! なんと!!


「パエリアを作ろうかと」


 パエリアなんですよ!!

 ドヤッ!!

 ……あ、この反応はパエリアって料理を知らない奴……。

 そ、それじゃあパエリアを――作っていく~。

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