第372話 宇宙ガブロ

 さて、しれっと作って入れてたクレープ生地の機嫌はいかがかなぁ?

 薄力粉、砂糖、リボーンフィンチの卵を混ぜ合わせたものに、牛乳を少しずつ足しながら混ぜまして。

 更にサラダ油を少量注ぎ、混ぜ合わせて冷蔵庫に放置する事およそ一時間。

 もっかいしっかり混ぜ合わせたら、生地の完成でしてよ。


「それを焼くのか?」

「まぁ、焼くは焼きますね」


 そりゃあ、焼くよ。

 だけど、焼くだけでは終わらない。

 そこからがマグマなんです。


「というわけで、一度お手本を見せます」


 なお、俺もクレープ焼くのは初めてなんですけどね、初見さん。

 んでもまぁ、やることは分かってるし。

 別に店で売ってるような、完璧なクレープ生地じゃなくてもいいしね。

 とりあえずフライパンをセットし、サラダ油を垂らし。

 全体に馴染ませたら、生地をお玉で掬ってフライパンに。

 垂らし終えたら素早くフライパンを傾けて、フライパン全体に生地が満遍なく広がる様にっと。


「端の方が焼けてきたらひっくり返します」


 どうしても生地は端の方が薄くなるからね、火の通りも端に合わせるよ。

 フライ返しを滑り込ませ、とっかかりを作り。

 一瞬深呼吸して精神統一。

 秘技! 火中天津甘栗拳!!

 ふっ。あまりの早さに熱さを感じる事無く生地をひっくり返して見せたぜ。

 ……水で冷やそ。


「随分と薄いパンケーキだな」

「食べ応えなどは大丈夫ですの?」


 ……別にさ、俺が無茶しなくても、この人達に任せれば魔法でちょちょいのちょいだったのでは?

 考えない事にしよう。


「まぁ見ててくださいって」


 ちなみにひっくり返したら火は弱火。

 じっくり火を通しまして。


「これで焼き上がりなんですけど、これで完成ではありません」

「ほう」


 というわけで焼き上がった生地をお皿に移し。

 まず生クリームでしょ? 安定のイチゴジャムでしょ?

 後はチョコレートソースも乗せちゃう!


「じゅるりら」

「見た目が美味しいの暴力ですわよ?」

「これを巻きます」


 まぁ、見様見真似なんですけどね。

 畳んで、畳んで、くるりんぱっと。

 これでイチゴチョコクレープの完成です。


「これが今日のデザートです」

「という事は……もしかして各自で好きな物を包んでよいと?」

「たっぷりと用意してあります」

「ひゃっほい!!」


 というわけで、俺は今しがた作ったクレープで充分だからさ。

 後はそちらで存分に作ってくれたまえ。


「? カケル、これはなんぞい?」

「? ああバナn……」


 その時ふと閃いた。

 このアイデアは色々と面白いかもしれない。


「聞くより食べてみた方がいいですよ」


 という事で、現代バナナの皮を剥きまして。

 実をスライスしてお皿へ。

 普通クレープに入れる時もスライスしてあるからね。自然自然。


「あ、ラベンドラさん。昨日の果実あります?」

「? 『――』の実の事か? もちろんあるぞ」

「挟んでも美味しいでしょうからね」


 くふふ。異世界バナナこと牡蠣の見た目バナナ味も準備完了っと。

 何も知らないガブロさんが現代バナナを口に放り込みましたわよ。


「……?」


 目をぱちくりぱちくり。

 スライスされた現代バナナを見、牡蠣見た目バナナを見。

 首を傾げて今度は牡蠣見た目バナナをパクリ。

 また目をぱちくり。


「どうした?」

「あ、いや……同じ味なんじゃ」


 脳の理解が追い付いて無いな。

 そりゃあ誰だってそうなる。

 俺だってそうなる。

 ていうか、なった。

 見た目が全く異なるのに、同じ味だなんて。

 ましてや、片方はもっと離れた別の味がする見た目なのに。

 

「……確かに、似た味だな」

「見た目が全然違うのに味が一緒だなんて、面白いですわね」


 面白くないぞ? って言っても異世界組には通じないよな。

 牡蠣と思って口に入れたらバナナ味だった時の反応なんて。


「ちなみにそれはチョコとの相性が最高です」

「なんだと!?」


 マジャリスさん、食い付き早すぎ。

 あと、合うとは言ったけど牡蠣バナナの方にチョコ付けて食べようとするな。

 せめて俺の視界の外でやってくれ……。


「よし、焼けた」

「まず私ですわ!! 生クリームにアイス、後はチョコレートソースでお願いしますわ!!」

「自分でやってくれ……」


 ちなみにコンロは二口あるんだけど、もう片方は問答無用でマジャリスさんが持って行ったからね。

 なお、マジャリスさんは牡蠣バナナにバニラアイス、そこにチョコソースの模様。

 まぁ、俺の口に入る前に消化してくれてると思っておこう。

 ――絶対に食べてる断面とか見ないぞ。


「わしはどれにしようかのぅ……」

「あ、そう言えばですけど、甘くないクレープもありますよ?」


 結構あるよね。ツナサラダとか、スモークサーモンアボカドとか。

 

「例えば?」

「生ハムサラダとか、ツナサラダとかです?」

「興味がある。材料は?」


 ガブロさんへの救済措置みたいな感じで教えたら、ラベンドラさんが入って来た。

 まぁ、生ハムとリーフサラダ。ドレッシングはイタリアンで、そこに好みでマヨネーズとか?


「軽食にもピッタリだな」

「甘くない奴はそうですね。こちらも好きな具材が挟めるので、どんな人でも楽しめるんじゃないですか?」


 手巻き寿司みたいなノリで、お好みクレープパーティ、なんてね。

 色々と材料の準備は必要だけど。

 まぁ、思い思いに食べてください。

 ほら、次の生地焼けましたし。

 とっくに食べ終わったリリウムさんやマジャリスさんが狙ってますけど。

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