第7話 ブタノヨウナナニカしゃぶサラダ

「どうじゃ? 味の再現の方は?」

「フィックストレントの根を煮出したものに、ツリービーの蜜を加えるとかなり近くなる。後はこれで煮込んで柔らかくなるかどうかだ」

「……あの二人、随分熱心に飯を作っているようだが?」

「放っておきましょう。凝り性の二人ですもの。邪魔しちゃ悪いですわ」

「もうかれこれ二時間はああやっているが……?」

「それくらいで向こうの料理が食べられるのなら安いものでしょう?」

「……そうだな」



 う~む。

 休み二日目だが、果たして今晩は何を作ろうか。

 いや、あの肉を使うのは確定してるし、何を思いついても大丈夫なくらいに材料はあるんだけどさ。

 ……材料で思い出したや、米がねぇ! 米!!

 あの人らにご飯を振舞うとなると、主食となる米の消費量がグンと増える。

 まずは一旦米の確保だ!! お米食べろ!!

 というわけで車を走らせ、やって来ましたるは近所の米農家。

 無論俺のばあちゃんに多大な恩を受けたと言っている人の所。


「すいませーん! 徳さーん!?」


 徳山伊造さん、通称徳さん。

 大の酒飲みで、自分のとこで取れた米を下ろしている酒造所の酒をこよなく愛する人。

 気さくで豪快な人だけど、農業となると一切の妥協を許さない厳しい一面もある。

 そんな人。


「んー-? ……おお、臥龍岡さんとこの坊主か!!」


 俺の呼びかけに出てきた徳さんはほんのり頬が赤い。

 まーた朝から飲んでるよこの人、奥さんに怒られるぞ?


「お米を買いに来まして」

「そうかそうか!! どれくらい持ってくんだ!?」

「そうですねぇ……30㎏程」

「あいよ。……五千円だな」


 言われて財布から五千円札を取り出し、徳さんに渡す。

 にしても、やっすいよなぁ。

 スーパーとかで米の値段見るたびに思うもん。

 俺もさ? 最初はそんなに安くちゃ悪いと思って、余計に払おうとしたんだけど――、


「払うな払うな。臥龍岡さんのとこには返しきれねぇくらいの恩があんだ。これ位じゃ全然足しにもなりゃしねぇよ」


 って突っ返されたんだよね。

 最初は俺のばあちゃんに、無償で米を提供しようとしたらしいんだけど、ばあちゃんにこっぴどく叱られたんだと。


「徳坊から物をタダで貰うほど落ちぶれちゃあいない!!」


 って。それで、それ以来安くはするけどしっかりと代金は頂くようにしたらしい。

 まぁ、当然だよなぁ。物売りが、売り物タダであげちゃあいけないわ。

 ましてや生活が懸かってるんだし。


「10㎏袋三つでいいか? 15㎏袋二つがいいか?」

「15㎏の方で」


 納屋の方に歩いて行く徳さんについて行き、米袋に入った15㎏の米を回収。

 徳さんは両手に一袋ずつ抱えて持って来たけど、俺にそんな力はない。

 二往復して車に米を乗せましたわよ。


「いつもありがとうございます」

「なんの!! これくらいでしかもう恩を返せねぇからな」


 俺がお礼を言うと、照れくさそうに鼻を掻く徳さん。


「またすぐ買いに来ます」

「おう! いつでも来い!」


 と言って、車に乗ろうとしたとき、


「あ、そうそう。この間貰ったアレ、滅茶苦茶美味しかったぞ」


 豪快に笑いながら、そんな事を言ってきて。


「お、良かったです。結構自信作だったんですよ」

「酒が進んでしょうがなかった。また近いうちに作って持って来てくれ」

「ん~、分かりました。また持ってきますね」


 リクエストを受けて、家に向けて車を走らす。

 喜んで貰えたかー、ビーフジャーキー。

 なにぶん初めて作ったから、少し不安ではあったけど、あれだけ喜ばれるなら大成功だな。

 次の休みくらいに作っとくか。



 家に帰りつき、とりあえず昼飯用に米を炊く。

 昼は何にしよう……。夜はガッツリ行く予定だから、さっぱりがいいな。

 冷しゃぶサラダでも作るか。

 サラダはスーパーの袋に入った奴を買って来てるし、そこにトマト切って乗せるだけでいいし。

 となると一番の課題は――あのクソデカ塊肉を薄くスライスする事か。

 まぁ、米が炊けるまで時間あるし、やっちゃいますか!!

 相も変わらずデカい塊肉を冷蔵庫から取り出し、丁寧丁寧丁寧にスライス。

 脂が多い所を避け、なるべく赤身の部分をスライスしていく。

 肉がまだまだあるから好きなだけ使えるの有難いな。

 たっぷりの赤みをスライスし、続いてお湯を沸かす。

 鍋に水を張り火をかけて。


「大根はあったはずだよな?」


 お湯が沸くまでに大根おろしを用意しようと冷蔵庫を漁り、大根を確保。

 一人分って分量難しいんだよな~と思いながら擦り始め。

 ふと、とある考えが浮かんで一本丸々すりおろすことに。

 ふっふっふ、夜が楽しみになってきたぜ。

 後は沸いたお湯に肉をドボンし、しっかりと火が通るまで溺れさせて。

 ザルに肉を上げ、水で洗って用意していた氷水にジャボン。

 キンッキンに冷やしてサラダの上に乗せ、そこに大根おろしを乗っけてポン酢。

 お昼はさっぱり冷しゃぶサラダの完成!

 タイミングよく米も炊けたところで、


「いただきます!」


 と、肉を勢いよく頬張った――が。

 んー? 薄くスライスしたからあまり気にはならないけど、ちょっと肉が固い気がする。

 本当にあまり気にはならないんだけど。

 ひょっとすると、冷えると固くなるのかな?

 まぁ、豚肉も冷えると固くなるし、やっぱり似てるのか。

 食べるなら熱々でって感じだな。


 「……ふぅ」


 とはいえ美味いものは美味い。

 肉をそれなり以上に切った時は、熱いうちに食べる様にしてれば大丈夫でしょ。

 さてさて、夜の仕込みをしましょうかね。

 あの四人は今夜はどんなリアクションしてくれるだろうか。

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